第28話 騎士団到着
「おい、大丈夫か。」
動かなくなった門番に駆け寄って、フルフェイスの兜を脱がすと、白目を剥いて気絶していた。
だめだ。
完全に気絶している。
勇者パーティーにさえ出会わなければ大丈夫だと思っていたが、どうやら考えが甘かったようだ。
俺を見ただけで、こんなに動揺されるとは思わなかった。
この人をここで放置するわけにはいかない。
床に寝かし、鎧を脱がして、男性を横にする。
後は、目が冷めるのを待って誤解を解ければよいのだが・・・。
男の隣に座って起きるのを待ち始めると、すぐに外で複数人が動く音がし始めた。
ドアの隙間から外を覗くと騎士の格好をした人たちが何人もいて、一際目立つ赤黒いマントをしている騎士が一人とその隣に眼鏡を掛けた女騎士がいる。
あの目立つマントが、騎士団の頭なのだろう。
普通に町に来ただけなのに、どんどん話がこじれてきているような気がする。
「お前は、激おこのモコモッコ羊亜人アスタロートだな。そこにいるのは、分かっている。お前は完全に包囲されている。捕食しようとしている男性を解放して出てきなさい。」
外から声をかけれらる。
激おこのモコモッコ羊って何???
そんな風に言われる覚えはないんだけど・・・。
どうやら、男性を介抱しているところを、食事しようとしているようにとらわれたようだ。
ここは、素直に出て行って話をしよう。
アスタロートは両手を挙げて外に出て行く。
異世界で、両手を挙げることが無抵抗の意思を示す者だといいのだが、それ以外によい立ち振る舞いも分からなかったのでとりあえず両手を挙げて外に出ることにした。
「おい、中から出てきたぞ。」
外に出ると、フルアーマーで騎士団が大盾を構えた騎士団が詰め所の周りを包囲しており、アスタロートが外に出ると、包囲している騎士団が全員一歩下がる。
包囲の列より内側に中に2人の男女がいる。
1人は派手な赤いマントをした男、もう1人は控えめな青いマントを身につけている女だ。
マントのサイズは、騎士団内での序列によって決まっている。
「警報レベルマックス!警報レベルマックス!。皆様の祈りが届きました。たまたまこの町に視察でいらしていた地方最強騎士のバクマンさんが、助けに来てくれました。皆様でバクマン様の勝利を祈りましょう。」
派手な赤いマントをした男は、地方最強騎士みたいだ。
戦闘になることを考えずに出てきたが、戦闘になるとやっかいかも知れないな。
地方最強ということは、西国でも上位の騎士だろう。
フルーレティーから俺も東国で5本の指に入るのではと言われたから実力は同じくらいなのかも知れないが、戦闘経験は向こうの方が圧倒的に上だろう。
それに、相手はその騎士だけじゃない、隣にいる眼鏡の騎士もいるし、周囲を包囲している重騎士もいる。全員を相手にするのはかなりまずいかも知れない。
俺が、重騎士の包囲をぐるりと一廻り視線を送ると、視線の先の重騎士たちがまた一歩下がっていく。
「あぁぁぁ。目が合った。俺はもう殺されるーー。」
「俺、ちびったよ。」
「安心しろ俺もだ。」
「騎士様助けて、騎士様助けて・・・。」
「ブツブツ。」
「何でこの町に来るんだよ。あっちに行けよ。」
「ママーー。」
重騎士の方は、あんまり強くなさそうだ。うん。
まずは、敵意がないことを伝えよう。
「あのぉ。人違いなんですけど・・・。」
「ひぇぇぇぇーーー。」
「ぎゃぁぁぁーーー。」
俺が、声を掛けようとしても悲鳴でかき消される。
この重騎士たちどれだけ俺にびびってるんだよ。
「お前が、アスタロートだな。昨日発行された手配書で見たぞ。」
赤マンとの男が声をかけてくる。
「いや。それはーーー」
「ひぇぇぇぇーーー。」
「ぎゃぁぁぁーーー。」
「しぬぅぅぅーーー。」
また、俺が声を出すと悲鳴をあげる重騎士達。
「俺じゃないんだ。」
「ひぇぇぇぇーーー。」
「ぎゃぁぁぁーーー。」
「ころされるぅぅぅーーー。」
「・・・・。」
「黙れ貴様ら。こいつが前らを殺す前に、俺がお前らをぶっ飛ばすぞ。」
これじゃ、会話にならない。
それは、相手の団長も感じていたのか、周りの騎士に活を入れる。
眼鏡を掛けたた騎士が、ため息をつきながら眼鏡の位置を中指で調整する。
「はぁ。団長。だから、地元騎士は置いていきましょうと言ったんです。これでは、邪魔にしかなりません。今からでも返しませんか?」
「そういうわけにはいかないだろう。俺たちの業務は視察、今だってたまたまこの町にいたに過ぎない。大物魔物が現れたから今矢面に立っているが、本来は君たちの仕事だ。共に戦ってもらわなければ・・・。」
「団長は、ビビンチョ町初めてでしたよね。町の名前の通り、町民は極度のびびり。今ここに立っているのも団長の武力があってこそ。普段なら絶対に出てきません。」
「ほう、なら普段は誰が魔物と戦っているんだ?」
「はっ。すべて私が出向いております。」
「なるほど。どうやら君には苦労を掛けているようだな。それで、町の被害が少ないにもかかわらず、騎士団員増員の申請を何度も上申しているのだな。」
「はい。何と言うべきか。この町の騎士団はゴブリンが現れても、待ちの住民と一緒に避難するレベル。正直、私一人ではどうにもなりません。せめてあと数人、まともに動く人員がほしいです。」
「なるほど、任された。俺が増員を約束しよう。」
「本当ですか!」
「あぁ。ただし、生きて帰れればの話だがな。もし、あいつが激おこのアスタロートならば、死闘は必須だ。」
あの人達も苦労しているんだな。
魔王討伐後、この町には住みたくないな。
周りの重騎士も静かになったし今なら伝わるだろう。
「俺は―――。」
「わぁぁぁぁぁ。」
「ぎゃぁぁーーー。」
「ママーーーー。」
「ごはん。」
「・・・。」
こいつら、全然静かになれねぇ。
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