第27話 西国の町

紙束を拾って、中をめくってみると何を見ているのか分かった。


懸賞魔人リストだ。


文字は読めないが、中に描かれている凶悪そうな面構えの人達にアスタロートは察する。


右側には分類が書かれているのだろうか?

小さなタグが付いている。

ペラペラとめくってみるとなるほど、おおまかに人族、亜人、魔人で分かれているようだ。


アスタロートには言葉が読めないため、何が書かれているのかまでは分からない。


この懸賞魔人りすとは、アスタロートが気づいたように種族ごとに人族、亜人族、魔人族に大きく分類分けされており、更そこから小分けに分類分けされており、亜人は身体的特徴でその見た目の情報が見れるようになっている。


おそらく誰かと勘違いしているのだろう。

異世界に来てから、東国にしかいなかったんだ。

人族から指名手配されるようなことなんてしていな・・・あった。


そうだ。

異世界に来た当初、盗賊と間違って勇者を撃退してしまった。

いやいや、まだ、二日しか経っていないんだ。

印刷機もなさそうなこの世界で、そんなに早く懸賞魔人リストが更新されるはずもない。


そうは、思いながらも紙をめくるペースが速くなる。


髪をめくっていくと有翼種がまとまって描かれている箇所を見つけたがそこにアスタロートも描かれていなければ、似たような人も描かれていない。


代わりに、フルーレティーの懸賞情報を見つけた。

懸賞魔人は、骸骨の数で危険度が変化するようだ。


フルーレティーは、骸骨が9つ付いていた。

他の魔人の平均的な骸骨の数は4~5個だ。

懸賞金は骸骨の数で決まっているようだ。


あと俺のことが書かれているとすればあとは角の欄になるだろうか。


この世界の人は、角しか見ていないのではないかと思うほど俺のことをモコモッコ羊と言ってくる。

脚は馬の蹄になっていて、羊と似ていると言えばそうかも知れないが、翼で違うことに気づくだろうとは思うがなぜか気づかない。

やはり、頭しか見ていないのだろうか?


角の欄をめくりきって見ても、俺のことが書かれているようなものはなかった。


なんだよ。

焦らせやがって、俺はまだ懸賞魔人になっていないようだ。

ならば、なぜ、俺を見て警報が鳴っているのかが理解できないが、ひとまず懸賞魔人でないことに安心だ。


嫌な汗を書いてしまったアスタロートは、紙束で顔を仰ぐと、リストに閉じられていなかった真新しい紙が一枚ひらひらと落ちていった。


ん?

なんだこの紙?


その紙を裏返して見ると、自分の似顔絵と目が合った。

あっ、俺だ。


今朝、フルーレティーの領で絡んできたレロンチョの反応や、今日の給料が高かったことが分かった。


俺が高額懸賞魔人になったことを知ったからレロンチョは反応を変えて、今日の給料も間違いではなく単純に高額魔人になったからもらえる給料が増えたんだ。



激おこのモコモッコ羊亜人 アスタロート。


危険度は、10。


懸賞魔人に描かれている絵はギルドカードとそれほど変わらない。

変わるところは、全身が描かれていることだろう。

巻き角に切れ目の女性が描かれている。

おそらく俺を描いた者なのだろう。

ギルドの登録用に描かれた特徴と似通っている点が多々ある。

ただ、この懸賞魔人の方はものすごく悪い顔をしている。

こんな顔の人に出会ったら、逃げ出すだろう。

後、なぜか翼が描かれていない。


備考欄には、追加で情報が書かれている。


勇者パーティーを拳のみで撃退。かなりの腕利きのモンクと思われる。今の今まで目撃情報がなかったのは皆殺しにされてきたからだと考えられ、その凶暴性もトップクラスだと推測される。この魔物の特徴は、モコモッコ羊の角、蹄の脚、毛を刈り取られた後のモコモッコ羊のような黒い胴。黒い体は今まで毛を刈り取られ続けたモコモッコ羊たちの憎悪を表現しているのかも知れない。モコモッコ羊の角を持っているが、あなどるなかれ。見つかったら最後、生き残れるよう身を潜め、天に祈りを捧げよう。


だから俺は、モコモッコ羊じゃねぇぇぇ。


紙束を左右に引き裂きその場に捨てる。


アスタロートがこの文字を読めていれば、間違いなくそう叫んで住民をおびえさせていただろうが、幸いにもアスタロートに文字は読めない。


まさか、異世界に転生して三日目で指名手配されるなんて。

しかも最高額だ。


いや、でも、予想していたとおり、写真技術はないようだ。

どうしたのか分からないが、絵はかなり精密に描かれている。


この絵なら、俺と特定されても仕方ない。

だが、完璧に似ているわけではない。


俺は、こんなに凶悪な顔をしているわけではないし、なにより、翼がある。

当初予定していたとおり、違うと言い張ろう。


当たりを見渡してももう人っ子一人いない。


とりあえず、門番に違うと説得しよう。


「すみません。誤解を受けているようなのですが、私はモコモッコ羊の亜人ではありません。ほら、翼もありますしよく見てください。」


詰め所の前に立って声を掛けてみる。


「ぎぃやぁぁぁーー。もう終わりだー。どうか。神よ。お許しください。私は何度か、羊肉を食べきらずに捨ててしまったことがあります。今ここで懺悔いたします。どうかお許しを。」


なかから泣き叫ぶような懺悔が聞こえてくる。

どうやら、こちらの話を聞く余裕もないようだ。

詰め所に窓ガラスはないため、これでは、俺の翼を見てもらうことも出来ない。


「おぃ。落ち着いて聞いてくれ。人違いだ。翼を見てくれれば分かる。」


懸賞魔人には、翼があるとは書かれていない。

モコモッコ羊の亜人には翼などない。

だから、翼を見てくれれば誤解は解けそうなのだが、


「いやだぁぁぁ。扉は開けない。モコモッコ羊に翼などあるはずがない。翼を見せるためにドアを開ければ俺は食べられるんだぁ。かつて俺がコメントしたように、まぁ、人間の肉はこんなもんか、と言って、完食せずに残されるんだぁ。いやだぁ。死ぬのは嫌だけど、残されるのもいやだぁ。」


だめだ。

中の人は、錯乱しているようだ。

全く言うことを聞いてくれない。


アスタロートは、ドアを叩きながら、再び声を掛ける。


「おい。落ち着け。お前の懺悔はもう聞いた。すべて許される。だから、このドアを開けて、翼を見てくれ。」


バキ。


「あっ。」


ドアを叩いていた拳が、ドアを突き破ってしまった。

力加減を間違えてしまったようだ。


門番に気を取られて全く気にしていなかったが、ドアを見るとかなり痛んでおり蝶番はほとんど外れている。


ドアに突き刺さっている拳をゆっくりと抜くと、ドアはゆっくりと静かに倒れていった。


中にいた門番と目が合うと、悲鳴を上げながら尻餅をついて、その後動かなくなった。



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