第26話 西国への旅

アスタロートはぼんやりと今後のことを考えながらただ西へ向かって飛んでいた。


異世界転生直後のちょうど定番イベントの盗賊に襲われている女の子を助けたと思ったら、まさか勇者と魔王軍の幹部の戦闘で舞おう軍幹部を助けてしまうとは思わなかった。

気づいたときは、勇者と対立してしまい悲観的になってしまったが、今から考えるとこれも良かったのかもしれない。


少し遠回りをしたが、魔王城まで行けたし3将とも会え、さらには魔王とも擬戦闘とはいえ戦えた。

魔王との戦闘は決して無駄ではない有益な経験だろう。


これからは、西国へ行き、勇者の仲間に入らなければならないが、そこさえクリアすればなんとかなるだろう。


魔物ギルトがあったから、冒険者ギルドも期待できる。

それに、騎士団があるそうだから、西国で騎士団にでも入れれば、勇者の誤解を解くのも早まるかもしれない。

幸い顔を知っているのは直接戦った勇者パーティーのみだ。

この世界の文明レベルでは写真レベルでの姿の共有は出来ないだろう、だから勇者パーティーと出会わない限り勇者を倒した亜人であることはばれないだろう。

何か言われたときは、知らぬ存ぜぬで貫き通そう。


西国に溶け込むことが出来れば、そこで善行を積み、住民の信頼を勝ち取れれば、勇者と出会ってもなんとかなるだろう。


アスタロートは同じようなことを繰り返し考えながら飛んでいた。

フルーレティーの領から飛び立って半日が経ったころ、やっと町が見えてきた。


町の周りを石造りの擁壁で囲った町だった。

随分厳重な作りだ。


門番もいる。

大体、異世界ものでは門番から通行料を支払って、ギルドに登録するのが基本的な流れだ。

中には飛んで擁壁を飛び越え侵入するものもあるが、ばれて騒ぎは起こしたくない。

ただでさえ、勇者と対立してしまっているのだ。

ここは、穏便に門から入ろう。

幸い今朝もらった袋いっぱいの給料があるため支払いには困らないだろう。


門の近くに降り立ち、門番の方へ歩いて行く。


門の周りには、まばらに人がいる。

冒険者風貌のものや、商業人などだろう。


一番後ろの列に入り、自分の順番が来るのを待つ。


周りの人は、人族が多く、獣人族は少なく冒険者の仲間に亜人がいるようだ。

猫耳の獣人族と耳の長いエルフがいる。

亜人の二人は今まで見てきた亜人のなかで身体的特徴がずば抜けて人族に近い。

耳が違うだけで、もう人間の用に感じる。


そのせいなのだろうか。

周りから奇異な目で見られる。


前世の職業から、周りの視線には敏感だ。

この目線は不審がられている視線だ。

何か間違ったことをしたときに感じる視線だ。

前世では、まだ俳優としての認知度が低かったときに誤って女性専用車両に乗ったときに感じた視線だ。

そのときは、当たりを見渡して窓に貼っている女性専用車両のシールを見つけ、俺が女性専用車両に乗っていることに気づいた。


今回も、何か自分が犯している、奇異な目で見られる原因となっていることを見つけれればいいのだが。

当たりにヒントがないか探して見るも、全然見当が付かない。


門兵の後ろに、神出鬼没この魔人に注意の看板に、懸賞魔人のイラストが載っているくらいだ。


その中に、昨日ギルドで俺のことを勧誘してきた魔人の顔があった。


へぇ。

確か、勧誘してきた魔物の話では、この町はフルーレティーの領から3番目か5番目に近い町のはずだ。

どうやら、いくつかの町を通り過ぎているようだ。


当たりを見渡しても、結局は分からないままだった。

俺のことを見ていた人たちは、順番に門を越えて入っていく。


あと少しで、自分の番になる。


前にいる人の入門手続きで何をしているのか見て分かったことは、

西国も東国も通貨は同じであることと、門番手に持っている紙束から何かを確認して入門を許可しているようだ。


「では、次の人どうぞ。」


ついに自分の番がやってきた。

通行証のような者は見せていなかったから、普通に入れるはずだ。


「よろしくお願いします。」


門番の前に立つ。

門番はフルアーマーで手に届く場所に槍を立てかけている。

フルアーマー初めて見たけど、見ているだけで熱苦しそうだ。

声を聞く限り、40代くらいの男性だろう。


「ほう。亜人かぁ。ん!?おっお前は!!」


どうやら、私の顔を見て何か気づいたようだ。

モコモッコ羊の亜人などといったらぶっ飛ばしてやろう。


「なんです?」


俺が聞き返すと、門番は手に持っている紙束と俺の顔を行き来させて何かを確認すると、突然紙束を放り出して、ガシャガシャと音を立てて詰め所の方へ走って行った。


詰め所の扉が閉まる直前に門番の悲鳴のような指示が聞こえてきた。


「クッ。全員退避。警報レベルマックスだ。」


そう門番は叫び、バタンと詰め所のドアが閉まる。

その数秒後、サイレン音が鳴り響きだした。


このサイレンの音は町中に響き渡っている。


「警報レベルマックス!警報レベルマックス!外にいる人は直ちに堅固な建物へ避難してください。」


町の中からは、悲鳴のような叫び声が聞こえ、目に見えている人たちも脱兎のごとく走って行った。


え?どうなってるの?


状況が理解できない。

整理すると、門番が私の顔と紙束を見比べて詰め所へ逃げ込んだ。

その後に、サイレンが鳴り避難アナウンスが流れた。

サイレンの原因は私であるように感じる。


アナウンスは、まだ流れている。


「警報レベルマックス!警報レベルマックス!もはや何をしても無意味です。皆様が生き残れるよう天に祈りを捧げましょう。」


私がいることは、天に祈りを捧げるほどの出来事のようだ。


おそらく、この紙束を見れば原因が分かるはずだ。




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