第21話 魔物ギルド

魔物ギルドへの登録に来たことを女性に伝えると、カウンターへ案内された。

この女性は、料理を作っていたと話していたが、魔物ギルドでも働いているようだ。


「どうぞ、こちらの紙と板に名前を書いてください。」


カウンターの奥で働いている人は、亜人種か人族しかいない。

本当に魔物は働いていないんだな。


魔物ギルドを人間が運営していることに、とてつもない違和感を感じる。

人族にとって、魔物ギルドは忌むべき者ではないのだろうか?

働いている彼女達は奴隷なのだろうが、ごく普通い働いているように見える。


紙は白く薄い、いいできだ。

書くものは木炭を細く削って作ったような鉛筆だ。

電気はないが、こういった小道具はそれなりにあるようだ。


魔物ギルドの内装にも、絵が飾られていたり、案内されたカウンターにも、彫刻が施されている。


渡された紙には、名前を記入する場所と自分の似顔絵を書く欄がある。

アスタロートには、自分の似顔絵を描くスキルどころか、転生してから自分の顔を見たことがない。


名前を書いて、おずおずと尋ねると、似顔絵は描いてくれるそうだ。


名前だけ書いて、紙と板を渡す。


「へぇ。あなた随分字を書くのが上手いのね。」


「そうかしら、あまりそう言われたことないから。」


言われ慣れない言葉に、素直に答える。

アスタロートは特に習字を習っていたわけでもなく、字も特別きれいなわけではない。


女性が、紙を受け取るとこちらを見ながら似顔絵を描いてくれる。


「10分ぐらいで終わるから、少しじっとしててくださいね。描きながら魔物ギルドについて簡単に説明するわね。」


魔物ギルドは元々、西国騎士に対抗するために作られたギルドであるようだ。

加入に必要な条件は10才以上であること、人種以外の種族であることだけで、それ以外の制約はない。


仕事内容は、特になく、ってか、魔物は働かない。

基本的には何もしなくていいようだが、西国騎士が攻めてきた時は、住民を守るために戦うようだ。


名前を書いた木の板は、ギルドに所属していることを表す板だそうだ。

所属しているだけで、給料がもらえるそうだ。

給料は、西国から自信に掛けられた懸賞金の額に応じて変動する用だ。


ギルドに加入した新入りは、西国へ行き田畑を荒らしたり、驚かしたりして、懸賞金を上げるために日々努力しているようだ。


「最後に全体に守ってもらわなければいけないフルーレティー様の領独自のルールがあるの!よく聞いてね。魔物ギルドに所属する人は、戦士以外の人や亜人を殺してはいけないの。これで、大体の説明は終わり。何か聞きたいことはあるかしら?」


「本当に何もしなくても給料がもらえるのか?」


「えぇ、そうよ。魔物の人たちは、あまり買い物をしてくれないけれど、お金が必要になったら、ここに来てちょうだい。お金渡すわ。はい、出来たわ。確認してちょうだい。美人に描けたでしょう。」


ギルドの女性は、紙を渡してくれる。


木炭で書かれた絵は、独特の雰囲気を作り出している。


へぇ。俺ってこんな顔しているんだ。

ほっそりとした顔立ちに目が細く少し性格がきつそうな印象を受ける女性が描かれていた。


「あなたは、運がいいわ。私は絵も料理も上手だから、外れに人を引いたら誰なのか分からない人相書きになっていたわ。」


「あぁ。とても上手に描けていると思うよ。」


女性が驚いた顔をする。


「えへへへ。あなた西国では珍しい亜人ね。ほとんどの人は私の描いた絵になんて興味を示さないわ。」


「へぇ。そうなのか?上手いと思うんだけどな。」


「そうよ。もっと言ってちょうだい。あなたにクリームケーキを投げつけたリザリンなんて、似顔絵がひどいから書き直そうかって言ってあげてるのに全く興味を示さないのよ。」


「なんだよ。何か呼んだか?」


カウンターに座っていた、リザードマンがまた声を掛けてきた。


「呼んでないわよ。さっさと、どっかに行きなさい。超新星の新人が、他の領に移ったらリザリンのせいなんだからね。」


「なんで、俺のせいになるんだよ。」


「クリームケーキぶつけたじゃない。もう忘れたの?」


「あぁ。すまなかったな。悪い。」


女性にそう言われるとシュンとするリザリン。

本当にこの領で一番恐れられている魔人なのだろうか?

なんとなくだがこのリザリンという魔物、それほど悪い奴ではないようだ。


「だが、ここでは、俺が先輩だぜ。実力では、お前が上だが、懸賞魔人の俺様の方が魔物ギルドでは上なんだからな。」


適当に頷いていると、近くで見ていたメンバーが近寄ってきた。


ザ・悪魔って感じの黒い三つ叉の槍を持った奴が近づいてきた。

頭には、三角の触覚がはえていて、尻尾もある。


「リザリン。お前が仲間に誘わないなら、俺が先に誘うぜ。どうだ?俺のパーティーに入らないか?俺たちは、ここから五番目に近い西国の町を縄張りにしているパーティーだ。いつも、モコモッ・・・、ゴホン。家畜をさらったり家に落書きをしたりしていて、たまに、騎士とも戦ったりするぜ。お前さえ避ければ、一緒にどうだ?亜人のメンバーもいるぜ。」


自信満々にそう勧誘する魔人。

なんだろう、この勧誘。

スラム街でもこんな勧誘はしないだろう。

まったく、魅力に感じない。

それに、モコモッコ羊と言いかけたな、こいつモコモッコ羊をさらってるな。


「いえ、フルーレティーの側近としての仕事があるから、パーティーには入らないわ。それに、私はモコモッコ羊じゃないからね。」


とても、理解できないような顔をしながら答える。


「あっ、あぁ、そうだな。うん。お前はモコモッコ羊じゃない。うん、そうだ、違う、違うのか。まぁ、いい。俺たちと一緒に来れば、すぐに懸賞魔人になれるのに、後悔しても知らないぜ。」


捨て台詞を吐いて帰って行く悪魔。

後悔する日が来るなら是非とも見てみたいものだ。


それにしても、ここの人たちは角でしか人の種族を判別していないようだ。

こうも、みんなからモコモッコ羊の亜人だと間違えられるとたまったものじゃない。

モコモッコ羊が嫌いなわけではないが、なんか家畜の亜人って言うのがなんか嫌だ。


「ふん。あいつらの誘いは断って正解だぜ。俺のところにきな、ショボイことやらずに騎士の宿舎にパイ投げに行こうぜ。楽しいぜ。」


随分と楽しそうに声を掛けてくる、バカがいる。

まるで、学校の先生にいたずらをする小学生のようだ。


「もう、私の作ったパイ、まだ投げに行ってるの?あれほど、やめてって言ったよね。」


「ブルァーッハッハッハ。悪いとも思わねぇし、思ってもあれはやめられねぇぜ。おめぇのパイは、どうせ亜人や魔族は食わねぇんだ。俺が、有効活用してやってるんだ、ありがたく思いな。」


どうやら、パイの調達はここで、行っているようだ。


「リザリンが買いしめなかったら、町のみんなが食べれるのよ。」


「ブルァーッハッハッハ。そんなことは関係ないぜ。」


「もう。せめて買いに来てくれる日を教えてくれたらいいのに・・・。」


女性がつぶやいているが、リザリンには届いていなさそうだ。


ギルドの中は、白光する石が吊り下げられていて明かるさを保っており時間の経過が分からなかったが、外はもう日が暮れて、暗くなってきている。

これ以上、ここにいても夜遅くなるだけだ。

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