第20話 魔物ギルド
なんだろう。この気だるさ。
「アスタロート、ぼーとしている暇はないわよ。あなたも、魔物ギルドに登録しなさい。」
「嫌だよ。犯罪集団のギルドに加入するなんて。」
絶対に嫌だ。
ギルドに加入したら、西国騎士と戦わなければいけないではないか。
わざわざ、西国と戦う組織に入るなんて嫌だ。
俺が、加入しない宣言すると、遠巻きに見ていた人間が俺から距離をとり物陰に隠れ始めた。
あれ、なんで、俺から距離を取るの?
前世でも、街角で出会っても話しかけずに離れたところから見るだけのファンはいたが、この感じは違う。まるで、変質者にでもなった気分だ。
「そう。加入するだけで給金が出るからほとんど全員加入しているのだけれども・・・。ギルドに加入した人は、戦時以外人を殺さないことを誓っているけれど、加入しないとなると人族を襲う魔物認定、つまり人を殺していなくても罪人扱いされるわよ。でも、あなたなら大丈夫そうね。頑張ってね。」
「加入します。」
何その認定。
犯罪者ギルドに加入しないと犯罪者扱いされるって、とんでもない世界だな。
人間が物陰に隠れた理由がよく分かったよ。
犯罪者扱いされるくらいなら、加入だけしておこう。
どうせすぐ旅に出るんだ。
俺が加入宣言すると、安堵したかのように物陰から人が出てくる。
「そう。良かったわ。私の側近が犯罪者にならなくて。じゃぁ。ギルドの中に入って登録してきなさい。じゃぁ。私は帰るわ。」
そう言うと、フルーレティーは高度を上げていく。
「おい。最後まで一緒にいてくれないのかよ。」
異世界で、一番打ち解けた人だ。
次に会う約束もなしに、知らない場所で1人になるのは心細いものがある。
「なによ。ギルドの手続きまで手伝わそうって言うの?あなた、私の側近なのよ。主が側近の補佐なんてするわけないでしょ。ここまで、案内してあげただけでも感謝しなさい。」
フルーレティーは高度を上げてどこかへと飛び去ってしまった。
まぁ、やるべきことは教えてくれた。
では、魔物ギルドに入ろうではないか。
木製の扉を押し中へ入る。
異世界テンプレとは随分かけ離れてしまったが、ギルドはギルド。
異世界ものでは、必須レベルのイベントだ。
王道パターンは、三下が絡んで来て戦うことになるのだ。
さぁ。どんなイベントが待っているのかな。
カランカラン。
扉の上には、誰かが来た頃を知らせるあれがついていた。
「クリームケーキ砲!!!」
「きゃぁぁぁぁ。避けてーーー。」
べちゃぁ。
これは、また随分な歓迎が待っていたもんだな。
前で待っていた連中が、帰ったのはこのイベントがあったからだろう。
問答無用で顔面にクリームケーキをぶつけられるとは、流石魔物ギルド、一味違うようですね。
ん?このクリーム、甘くておいしい。
「ブルァーッハッハッハ。顔面直撃。文句なしの満点だぜ。ん? お前見ない顔だな。あぁ。ちびっ子が言っていた新入りか。フルーレティー様の側近になったんだって? 悔しいぃぃ!!」
ギルドの内容は、よくある酒屋と合体したような作りだ。
奥のカウンターに、リザードンの魔人が座っている。
早速、イベント発生だ。
ここは、舐められたらいけない。
直立不動のまま、立ってリザードンの魔人の出方をうかがう。
リザードンの側から、人間の女性がタオルを持ってやってくる。
「もう、私の作った料理を投げないでくださいって何度も言ってるじゃないですか。大丈夫ですか?お顔を拭きますね。」
「いや、自分でやるよ。ありがとう。」
なにげに、初めて人と話したよ。
この子はギルドの受付嬢だろうか?
人当たりが良い人そうな印象を受ける。
吹き終わると、さぞ不機嫌そうな顔をしていたのだろう。
「ブルァーッハッハッハ。何怒ってるんだよ。避けれなかったお前が悪いんだぜ。俺はお前をフルーレティー様の側近だとは認めないからな。」
先輩風を吹かせたいのだろうか。
それとも、ただの小物か。
「私と戦いたいなら、いつでも受けて立つが?」
少し魔力をこめて冷気のオーラを出す。
魔王と戦ったことで、大体の自分の全力が分かるようになった。
思っていたより、強いようだ。
この、リザードン相手でも負ける気はしない。
ギルド定番イベント発生だ。
難癖付けるなら、戦うまでだ。
周りの人がざわつき出す。
「うぉぉぉ。悪かった。俺が悪かったよ。オーラを収めてくれ。暇つぶしに俺がいつもここから来る人に向かって料理を投げているんだよ。悪気はないんだ。」
「アスタロートさん、落ち着いてください。リザリンさんは、そこまで悪い人ではないです。いつも避けやすいように顔を狙ってくれるんです。」
女性が間に入ってきて、オーラを解く。
オーラを解くと、周りのざわつきが収まり静まりかえる。
「今の発言で、こいつを擁護しているつもりなのか?」
「はっはぃ。」
自分の発言に矛盾を感じているのだろう。
女性は消え入りそうな声で答える。
それはそうだ。
ふつうの人間ならば、無差別にギルドに入った人に食べ物を投げない。
「あぁ。そうだぜ、俺はいつも満点を取れるように、顔面を狙って投げるんだ。今日のは久々の百点満点だぜ。」
リザードマンは、オーラが収まったのに安堵したのか、喋りかけてきた。
こいつは、まだ、懲りていないようだな。
もう一度魔力を込めオーラを纏う。
「ひぃぃ。なんで、また怒るんだよ。」
こいつは、善悪が全く分かっていないようだな。
無邪気な子供がそのまま大人になったような奴なのだろう。
普通、今の流れでその発言にはつながらない。
ツチノッコンは、まだ子供だし、やっていることは悪いことではない。
だが、こいつは、完全に悪いことを悪いこととして認識していない、大人だ。
「二度とここで、料理を人に向かって投げるんじゃないぞ。」
魔力を込めて氷のガンレットを作りだし威嚇する。
「あぁ。分かったよ。もうしない。」
怒られた、子供のようにシュンとして縮こまり、返事をした。
「ハハハハ。これくらいで、怒っていたら、この町では過ごせませんよ。それで、ここへは何をしに来られたんです?」
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