第13話 vs魔王

「さぁ。俺と戦おう。」


戦闘準備を終えている魔王が、声を掛けてくる。

遊園地に行く前の子供みたいな表情をしている。


「はっ。おい、今すぐ戦闘準備に入れ。魔王様相手に手加減は必要ない。手加減すれば命はないものを思え。」


バールは、すぐさま返事をし、戦闘準備をするように声を掛けてくる。


「はなから手加減するつもりなんてないですよ。」


戦闘訓練では色々試したいことがあったが、まぁ良いだろう。

全力で戦わせてもらう。

ここで魔王を倒すことが出来れば、俺の旅は終わる。

あのかわいいフルーレティーのところに何も考えず住むことが出来る。


フルーレティーと一緒に暮らすことが出来たらどれだけ幸せなことか。

そんな妄想に浸っていると、技将ベーゼルが口を挟んでくる。


「少々お待ちを魔王様。まだ試験はすべて終わっておりません。」


それは、もっともなことだ。

魔王が、試験に合格した者のみというルールを覆してしまったら、組織として良くないのは事実だ。

アスタロート自身もカメの甲羅を割ったこと以外いいところがないと思っている。


試験を無視してもらえるならアスタロートにとって都合がよいのは事実だが、もう少し試験をして魔法の扱いに慣れたいことも事実だ。


「そんなことは、どうでもいい!」


え。いいのかよ。


胸を張って声をはってそう言い切る魔王。

その姿に、国をまとめる王としての姿はなく、ただただ戦いたいだけの大人がそこにはいた。


「ベーゼル。元々戦闘試験は、魔王様に瞬殺されないかを判断するために作ったもの。目的は達していると思うわ。」


フルーレティーが異論を唱えるベーゼルに話しかける。


3将のうち異論を唱えたのはバールだけだ。


魔王を含めその他メンバーが戦闘を認めているのだ。


間違いなく戦いは許可されるだろう。

ここは一つ後押しをしよう。


「俺も構わないですよ。」


「ほう、この死亡率50%の魔王との戦闘を自ら引き受けるか。その度胸やよし。」


えぇ。


ちょっと待って、2人に1人死んでるのぉ。


戦闘訓練だから、死なないと思ってたんですけど・・・。


いいと言ってしまった手前、やっぱりなしとも言えず心の中の言葉を飲み込むアスタロート。


すでに、魔王様は部屋の中央で待機しており、ウサコが戦闘試験で使用していたものを片付けている。


いつの間にか魔王は、黒い薄紫色の鎧を装備している。


「本人が良いのであれば言うことはありませんが、この戦力は失いたくない。バール。レフリーは2人でしませんか?」


戦力を失いたくないって、そんなに死ぬ前提で話さないでほしいですけど。


「あぁ。もとよりそのつもりだ。暴走した魔王は一人では止められん。」


バールさん暴走って何ですか?


レフリーを二人ですることが決まると部屋際へと対角になるように移動する二人。


暴走した魔王は一人では止められないって、魔王暴走するの。

戦闘訓練といえど、死亡リスクありってことは、絶対魔王が暴走するから死んでるよね。

よしそれまでに、決着を付けよう。

魔王が暴走してからは回避だけに専念して、情報収集だ。


そして、バールとベーゼルには、是非俺が殺されそうになったら助けてもらいたい。


フルーレティーやウサコ、技将の側近はもうすでに部屋の外へ出ている。

観戦はしないようだ。

今部屋にいるのは、魔王とレフリー2人と俺だけだ。


最悪即死さえ逃れられればウサコに回復魔法をかけてもらえるだろう。


他のメンバーが部屋から出たのは、戦闘に巻き込まれ死ぬのが嫌だからだ。

技将の側近も、魔王との戦闘を経験しているが、暴走後殺され掛けている。


「そうした。早く来い。心配せずとも一思いに逝かせてやる。」


一歩も動かない俺に声を掛けてくる魔王。

戦いたくてうずうずしている様子だ。


一方、アスタロートは、脚が震えている。

これから死ぬかもしれないのだ。


台本は、魔王をたおすことだけ。

戦闘は、アドリブ。

ありったけの力で大暴れして、魔王を倒せばいい。

さぁ。役に入り込め。俺は戦士だ。


役に入り込むことで、アスタロートもとい明日太郎は、自分ではない役に完全になりきり完璧な演技をこなす。


役に入り込んだアスタロートの目つきが変わる。

その目に、恐れや迷いはなく、脚の震えも止まっている。


そのまま、中央へ歩きながら氷の斧を作り出し、魔王と向き合う形で構える。


「ふむ。迷いがない。よい目だ。」


魔王が嬉しそうに話しかけてくるが、無視をする。

もう言葉は必要ない。


数秒見つめ合うと、バールが手を上げて合図を送る。


「はじめ!!!」


様子見など不要だ。


アスタロートは、氷のつぶてを飛ばしながら距離を詰める。

勇者たちの戦闘で学んだことだ。

格上相手には、手数の多さで戦っていた。

実際に、動きづらかったからよい戦法になるだろう。


魔王は、氷のつぶてをひと振りで粉々に吹き飛ばす。

全くのノーダメージだが、距離を詰める役にはたった。


皮を切った時と同じように、上段から氷の斧を振り上げるが、違うことが一つある。

それは、ありったけの魔力を斧に注いでいることだ。

魔力が注がれた斧は、青白く輝きながら冷気をまき散らしている。

攻撃を素直に受け止めても、衝撃や冷気からは逃れられない。


「おりゃぁぁぁ。」


対して、魔王は、鎌を縦にして柄の部分を地面に突き立てる。


鎌の柄が地面に当たった衝撃波が周囲に飛散していき、冷気が吹き飛ばされ、アスタロート自身のスピードも半減する。


衝撃波に、飛ばされないように歯を食いしばり斧を振るうも、勢いの失った攻撃は簡単に受け止められてしまう。


だが、こちらの狙いは外されてしまったが、まだイーブンだ。


アスタロートが攻めて、魔王が守りに入っている。

攻撃は受け止められたが、このまま魔王に攻撃の隙を与えずに攻撃し続けれれば、必ず勝機は見えるだろう。





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