第12話 戦闘試験終了

バチバチバチ。


アスタロートは、同じようにこちらが攻撃準備をしているのになんの準備もしない。

一度パンチを見てなお、しかも今度は逃げずに防御するというのに同じ構えだ。

その余裕が頭にくるが、同時に新たな強者の出現に嬉しく思う。

この至近距離で本当に対応できると判断したのだろう。

今度は、もう少し鋭いパンチをしよう。


またも、力将のパンチは顔面を狙った軌道になる。


躊躇なく顔面いくのかよ。

こっちは、曲がりなりにも女なのだが、異世界では、男女の肉体的配慮は行われないらしい。


このパンチが、顔面にあたればどうなるのかを考えるのを放棄しすべてを受け入れる。


こいつ、防御しないだと!!

拳を振るい始めてからも全く魔力を使う仕草を見せないどころか、微動だにしない。

振り上げた拳は、もはや本人でさえ止めることは出来ない。


ゴロドォォン。


力将の右ストレートが私の顔面を捕らえた。

雷が落ちたかのような轟音を轟かせながら、弾丸のように吹っ飛ぶアスタロート。

そのまま、壁に頭から突っ込み、ピクピクと痙攣している。


拳を振るった本人も、驚愕している。


「まさか、本当に、魔力なしのノーガードで俺の拳を受けるなんて・・・。」


力将の攻撃が当たった瞬間からの記憶がないが、気づいたら俺は壁際でうずくまっていた。


「いてぇぇぇ。」


顔面が痛い。


力一杯顔面殴りやがって、あんなパンチ耐えられる分けがないだろうが、力将のつぶやきが聞こえるわけもなく、ただただ、顔面の痛みに転げ回る。


転げ回ってもだえていると顔が急激に熱くなってきた。

顔が腫れてきているのだろいか?

氷、氷がいる。

両手を、顔に付けて自身の氷魔法で冷却すると幾分か痛みがましになる。


あぁ。気持ちいい。


冷やすことで、痛みが引いてきたアスタロートに周りの声が聞こえてくる。

一連の流れを外から見ていたフルーレティーや兎耳メイド達は各々思い思いのことをつぶやいていた。


「アスタロートの奴、大丈夫なんでしょうね。まさか、ノーガードで攻撃を受けるなんてバカじゃないの?ねぇ。ウサコ?」


誰もが力将の攻撃を、魔法を駆使して防ぐのにノーガードで受けるのは自殺行為だ。

実際に歴代の試験受講者の中で、ノーガードで攻撃を受けた奴はいない。


「素晴らしいわ!」


「えっ?」


「バール様の攻撃をガードすることもなく、受け入れるその姿勢。素晴らしいわ。私でもバール様の攻撃は魔力を使用して受け止めるのに・・・。バール様の視界に入るゴミ亜人かと思っていましたが、少々早とちりだったようですね。私はアスタロートさんを見直しましたわ。」


到底理解できない発言に、アスタロートは少々兎耳メイドから距離をとる。


「あんたも、大概おかしいわね。」


「フルーレティー。真面目な話、あの攻撃をノーガードで受けて生きているのはそれだけでも凄いことです。それだけ、奴の体が丈夫だということです。」


フルーレティーの元に技将が近寄って話しかける。


「へぇ。そんなに、凄いことなの?私は力将と手合わせしたことないから分からないんだけども・・・。ただ、なんの防御もせずに殴られて、悶絶しているだけじゃないの?」


「シュシュシュシュシュ。実力のないものはそう見えるのですね。力将とは、圧倒的力を持っての力将なのだ。私が同じことをすると顔と胴体が泣き別れしていたでしょうね。」


「へぇ。そうなんだ。」


「あれほどの逸材をどこで見つけてきたのですか?」


「教えないし、あげないわよ。あれは私の側近よ。」


一連の話を聞いていたアスタロートは、心のなかで悪態をついていた。

魔法で防御して良かったのかよ。

知らないじゃん。

そんな話してなかったじゃん。

中学の友達はノーガードで受けてたもん。

まじ、ふざけるなよ顔まだ痛いじゃん。

前世だったら、訴訟もんだよこれ。

あと何で、ただ殴られてぶっ飛ばされただけで、なんで俺の評価上がってるの?

なんだろう、この痛くて居心地の悪い感じは、それとあとやっぱり凄く痛い。

誰か回復魔法使ってくれないかな。


「おい。ウサコ。回復魔法使ってやれ。死なれては困る。」


「はい。」


力将バールに指示を出されキリッとした顔で返事をする兎耳メイド。

誰かが近づいてきたのが分かる。

話の流れから、ウサコという兎耳メイドだろう。


「アスタロート様。よくぞご無事で、私ウサコが、僭越ながらご尊顔を修復させていただきます。」


え?誰これ。この人こんな感じだっけ?

城内を案内してくれた時は、もっと口数が少なく、様付けで会話をするような人でもなかった。


てか、修復ってなに、そんなにひどい状況なの?


アスタロートは痛みが麻痺して気づいていないが、実際は鼻がえぐれ周りの皮膚も稲妻状に焼け焦げている。


顔にそっと手が当てらて、暖かい魔力が流れ込んでくる。


徐々に痛みが引いてきて、目を開けるとそこに、うさ耳メイドのウサコの顔がある。


こいつも随分と整った顔をしている。

フルーレティーほどではないが、きれいだ。


「あぁ。ありがとう。だいぶ良くなった。」


「いえ。私は、ご命令に従ったまでです。」


回復を続けながらウサコは顔を近づけて、アスタロートのみに聞こえるように言う。


「バール様の愛の拳を、魔力で防ぐのではなくすべてを受け止めるとは、尊敬に値します。私は、バール様ファンクラブの副会長をしております。加入したい場合は私までお声かけください。加入せずに、バール様へアプローチを続けた場合、あなたを処分します。」


そう言い終わると、ウサコは離れていった。


なに、この人怖い。

目がマジだった。


てか、力将のやつファンクラブあるのかよ。


「回復は終わったな。次は、回復などせんぞ。俺の攻撃を防御せずに受けるからそうなるのだ。だが、その耐久力はたいしたものだ。ではさっさと立て、続きをするぞ。」


力将、イケメンだし、さっきから俺のことを褒めてばかりだ。

褒められてばかりだとお世辞を言われているだけで、本当に自分が凄いのか分からなくなる。


立ち上がると違和感に気づく、あれ、俺の服こんなに赤かったっけ?

壁を見るとトマトが壁に投げつけられたかのような跡がついている。


あ。俺よく生きてたな。


力将は、まだ、試験を続行するようだ。

ファンクラブのある力将が準備を促してくるが、その声が遮られる。


「いや。もうよい。私とやるぞ。」


今まで沈黙を貫いていた魔王が話し出した。


「お主の実力はよく分かった。パワー、スピード、耐久力。すべておれの戦う相手として不足はない。さぁ、やるぞ。」


会議の時とは違い、鎧を身につけ大鎌を持った魔王が近づいてくる。



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