第7話 王都到着

「少し早いが、この辺りで、晩飯を調達しよう。ここから先は、環境がころっと変わるから、ご飯の調達が難しくなるのよ。」


フルーレティーがそう声を掛けたのは、まだ日が沈むには早い時間だった。


そう言うと、フルーレティーは、体を地面と水平にして地面を観察しながら飛行する。


その姿は、獲物を探している鷹のようだ。


異世界だから植生も違う。


どんなものを食べるのだろう。


ほとんどの異世界転生ものでは、角の生えた兎が登場する。


前世の世界ではそんな生き物はいなかったが、なぜか様々な異世界ものに登場する生き物だ。


この世界でも、同じような生き物がいて、食べるのだろうか?


主人公は、かわいい生き物をあやめるのをためらいながら、結局はおいしくいただくのだ。


俺もかわいい生き物を食べることができるだろうか?


少し上からフルーレティーを観察していると、鷹のように急降下していった。


獲物を見つけたようだ。


アスタロートもフルーレティーの後を追い高度を下げていく、フルーレティーは木々の絨毯の中に突っ込んでいき一瞬姿を見失うが、すぐに獲物を捕らえて急上昇してきた。


左右の足には1匹ずつ獲物が捕らえられている。


同じ高度まで、上がってくるとフルーレティーは、見てみてとばかりに、片足をあげ見せつけてくる。


まだ、生きているのか右足の獲物が暴れ始めるが、フルーレティーが足を振り回し首の骨を折りとどめを刺す。


投げたフリスビーをジャンプキャッチして戻ってきた犬と同じような表情をしているような気がする。


「見て、一度に二匹も捕まえたわ。しかも大きい個体。今夜はこれで十分ね。」


狐ほどのサイズがあるネズミを捕まえてきたようだ。器用なものだ。


ツメが首に刺さりピクピクしている生き物は前歯が長く伸びている。


異世界定番の角の生えた兎でないことは少し残念だが、さすがリアル、生々しい。


あんなもの食べれるのだろうか?


こいつ結構好きなのよねぇ。と言いながら、フルーレティーはネズミに囓りつき皮を剥いでは捨てている。


「え?そのまま食べるの?」


そう言い終わる前に、フルーレティーは皮が剥げ露出した肉にかぶりついていた。


ブシュ。


血管が破け、血が噴きだし、血が2、3滴頬にかかった。


あっ、無理・・・。


生で食べる感じなんですね。


すみません。


異世界舐めてました。


「あぁ。ごめん。血が飛んだわね。はい。こっちはあなたにあげるわ。」


それもそうか、ここは異世界で、相手は翼の生えた魔人、料理せずに喰うことなんて普通のことなのだろう。


「あー、いらない。」


「えー!?いらないの?あんたのために捕まえたんだけどな。ほら、取れたて新鮮だよ。」


フルーレティーが食べかけのネズミを見せつけてくる。


ネズミは、ぐったりとしており、血が止めどなく流れている。


もう一匹のネズミは、首をがっしりとつかまれており、変な方向に曲がっている。


「いらない。」


なにが、取れたて新鮮だよっだ。


弱肉強食の世界を見てしまった。


もう、直視もしたくない。


そっぽを向くが、フルーレティーが回り込んで、ネズミを見せつけてくる。


「ほら。ほら。」


活きもいいよと言いたげな表情だ。


「えぇ。何で食べないの?もしかして、草食だったの? 角もモコモッコ羊に似てるし、脚は馬だからそうなの?」


少しお腹がすいてきたと思っていたけど、食欲が一気に無くなった。


「いや、雑食ですけど。」


そう。


肉を食べないわけではない。


ただ、生肉を食べないだけだ。


「だよね! 犬歯が発達しているから、肉は食べれると思っていたんだ。なのに、何でいらないの?」


「生では、食べねぇの!」


「キャハハハ。生では食べないって。アスタロート、あなたもしかして肉を焼かないと食べれないの?」


「あぁ。そうだよ。」


「えぇぇぇ。嘘でしょ。あなた人間みたいなこというのね。」


「肉なんて生で食べねぇよ。」


「火を通して食べる亜人もいるけど、生で食べれない亜人なんているのね。個人的には生の方が絶対にいいと思うのだけれど。水分補給も出来るし。」


そう言って、フルーレティーは、首に噛みつきごくごくと喉を鳴らす。


正直、ドン引きです。


いくら可愛いとはいえ。


ドン引きです。


「いや、喉は水で潤すから!」


いや、何で喉を潤したんですか。


異世界恐ろしいところ。想像の数十倍恐ろしい。


「まぁ、いいわ。なら、さっさと、受け取って焼いて食べなさい。」


フルーレティーは、肩をすくませてから、生きているネズミを突き出してくる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、空じゃ焼けない。」


「なによ、あなた、炎の魔法使えないのに、焼こうとしてたの? そんなにゆっくりしている時間無いんだから、あたしが焼いてあげるわ。」


そういうと、フルーレティーは、ネズミを爪に引っかけてぶら下げると、ネズミをぶら下げている脚を口元まで持って行く。


ゴォォォ。


火のブレスを吹き、脚で器用にネズミを回し全体的に満遍なくネズミを焼いた。

皮は炭となって崩れ落ち、肉がいい感じに焼けている。


「ほら。」


「あ、ありがとう。」


地上に降りて、たき火をして内臓を取り除いてから姿焼きにしようと思っていたんだけどな・・・。


丸焼きにされたネズミの腕や足の肉は食べれそうだが、臓器はまだ取り除かれていない。


さすがに、臓器は火が通っていても食べたくない。


フルーレティーは、肉を渡すと黙々と飛びながら自分の分の獲物を食べている。おそらく、臓器もそのまま食べてそうだ。


臓器は、空から捨ていく。


恐る恐る、肉を口にしてみると以外にもおいしい。


見た目はグロテスクだが、肉は肉だ。






完食した頃には、あたりは暗くなってきた。


この体は夜目も効くようだ。


それに、星明かりがあたりを照らし、やんわりと明るい。


絶景かな。


空には満点の星空が広がっている。


もしかしたらこの星のどこかに太陽があるかも知れない。


しばらく星を見ながら飛んでいたが、すぐに星が見えなくなってくる。


フルーレティーが言う通り、あたりの環境ががらりと変わってきたのだ。


地面は、木々が生い茂っていた森ではなく、岩肌が露出している。


岩肌の起伏は激しく、たまに通り過ぎる渓谷のそこにはマグマが煮えたぎっていた。


マグマの光が明るく星空が見えにくくなったのだ。


「フルーレティー、休まないのか?」


「えぇ。悪いけど、夜通し飛ぶわよ。屑どもに襲われて予定よりも、遅れているのよ。」


フルーレティーと一日一緒にいて分かったことだが、彼女顔はかわいいけど、口が悪い。


あれから、いろいろ話を聞きながら空を飛んだ。


アスタロートはこれから東国の定例会議に参加するようだ。

なんでも、今後の国の方針を決定するための重要な会議で、参加するのは王と領主3人とその側近だそうだ。


領は、知力や武力に秀でた者が治めることとなっており、世襲制ではないようだ。


王も退陣後は、領主3人の中から選ばれるか。


王を打ち倒した者が新たな王となるらしい。


異世界でも反乱や下剋上はあるみたいだ。


そして、俺はフルーレティーの新たな側近として、王様に紹介してくれるみたいだ。


断ったのだが、それは譲ってくれなかった。


たまに、お願いを聞くだけで良いみたいでそれ以外何もしなくていいみたいだ。


フルーレティーは武勇に秀でた側近を探していたようで、そんなときに、手練れだった盗賊を蹴散らした俺が現れたというのだ。


まぁ。人から頼りにされるのは悪い気はしない。







フルーレティーの側近になることを承諾した時、天候が変り、大粒の雨が打ち付けてくる。


どれくらい飛んだのだろうか。


景色は一向に変わらず、渓谷の底にはマグマが流れている。


雨がマグマに降り注ぎ大量の蒸気で辺りが見えにくい。


一晩中飛び続けてた疲労により、2人の会話も徐々に少なくなってきた。

天候は最悪で、風が弱い渓谷の谷を縫うように飛び、体力の消耗を抑える。


「渓谷を抜けた。もう少しで、東国の王都だ。」


フルーレティーにそう言われて初めて、渓谷を抜けたことを知る。


マグマの渓谷を通り過ぎ徐々に霧が晴れてくるが、雨粒が更に大きくなりおまけに、雷が鳴り始めた。


ゴロゴロゴロ。


進行方向に雷が落ち、大きな城の影が見えた。


天気が天気だけに魔王城のようだな・・・。





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