第8話 国王ってどんな人

王都に到着した私たちは、愛嬌のないクールな兎耳メイドに王城内の同じ客室へと案内された。


会議が始まるまでこの部屋で待機することとなった。


城は、黒い石造りで出来ており、廊下には赤いカーペットがひかれている。


廊下は、全体的に薄暗く、光源は壁に掛けられているロウソクのみだ。


天気は相変わらず悪く激しく雨が降っており、頻繁に雷が落ちている。


「随分と天候が荒れているな。随分と濡れた。」


部屋にあった白いモコモコしたタオルで体を拭いている。


羽根は水を弾く性質があるが、髪や服は別だ。


「この辺りはこの天候が普通よ。晴れる日の方が珍しいわ。この辺りで、迷子になったら天気がより悪い方へ行けと言われているほどにね。」


「へぇ。」


顔を拭いてすぐに分かる。


なかなか肌さわりの言いタオルだ。


これ地球のタオルより品質いいんじゃね。


王様のこととか色々と気になっていることがあるが、どうしても1つ気になっていることがある。


「なぁ。モコモッコ羊ってどんな生き物なんだ。」


盗賊達が俺の角を見て言っていた。


どういった生き物なのか気になるものだ。


「窪地の外にはモコモッコ羊はいないの?どこにでもいると思っていたわ。」


「知らないな。」


「モコモッコ羊は、飼育のしやすい家畜よ。人間達がよく育てているわ。あれ、おいしいのよ。それに毛はフカフカで肌さわりがいいの。そのタオルもモコモッコ羊の毛から作られているわ。人になれやすい性格をしていて、あなたの角にそっくりな巻き角も生えているわ。角が大きい個体は、特別おいしいと言われているのよ。あなたと同じくらいのサイズなら高値で取引されるわ。じゅるり。」


俺の角をみて、喉を鳴らすフルーレティー。


「お、おい。噛みつくなよ。」


「失礼ね。食べないわよ。」


「それにしても、俺と同じ角を持った奴家畜なのかよ。」


少し残念だな。


希少種として異世界に転生したから、レアでもっと強い生き物だと思っていた。


脚は蹄がついているから馬。


黒い大きな翼はカラスのようだ。


「なぁ、俺の翼ってなんの生き物の翼だと思う?」


「んー? カラスじゃないの?」


はぁ。マジかぁ。


なんとなく、気づいていたけど、カラスかぁ。


バサッと、黒い翼を広げて見るとそうにしか見えない。


もう少しかっこいい種族の亜人が良かったな。


「何を落ち込んでいるのか知らないけど。クオーター混血亜人ってかなり珍しいわよ。」


フルーレティーも俺のことは亜人の混血だと思っているようだ。


珍しくはあるようだが、ありきたりな種族の混血だ。


なんだか、特別感が薄れるというか・・・。


種族特有の特別な能力は期待できそうにないな。


4種族の混血は珍しいのか、フルーレティーにまじまじと見られる。


かなり、至近距離だ。


「お。おい、近いぞ。」


アスタロートが、居心地悪そうに座っていると、ドアがノックされる。


「フルーレティー様。会議の時間となりました。こちらへお越しください。」


先ほど、案内してくれた兎耳のメイドが帰ってきたのだろう。


フルーレティーが離れて出発の準備をする。


助かった。


いよいよ。会議の時間だ。


王様はどんな人なのだろうか?


会議では、隣に座っているだけで良いと聞いていたが本当にそれで良いのだろうか。


窓の外は薄暗く、雨が窓ガラスを叩き、時折雷が鳴る。


無言で、廊下を歩いて行くと大きな通路へと出た。


どこも変わらず黒い石造りに赤いカーペットで、すれ違う種族は見たことのない種族が多い。


人はかなり少ないみたいだ。


通路の両脇には、魔物の銅像が等間隔に置かれており、その上には旗が掲げられている。


大きな城だな。


異世界ものの王は、きれいに二つのパターンに分かれる。


温厚で有能な王か、私利私欲で愚かな王かだ。


ここのように、自分の財力や力を見せつけたがる王は、決まってダメな方だ。


もしかしたらこの国の王はあまり良くない人かも知れない。


「なぁ。フルーレティー。ここの王様ってどんな人なんだ?」


フルーレティーに近づき、案内をしてくれている兎耳メイドに聞こえないように耳元でささやく。


「そういえば、話してなかったわね。王様とは長い付き合いでね。あいつが王になる前からの付き合いなのよ。」


「へぇ。」


城の内装から権力を誇示したい愚か者かと感じたが、フルーレティーの古くからの知り合いなら案外いい人なのかも知れない。


通路を歩いていると後ろから声を掛けられる。


「お。フルーレティーじゃないか。雑魚どもに襲われて逃げ帰ったって聞いたぜ。シュシュシュ。3将の面汚しめ。」


蝿の亜人が近づいてくる。


なんだこいつ。


顔は蝿のような大きな目玉が二つついている。


口は左右に開き、奥からは管のような下が見える。


背中には、奥が透けて見える羽が生えている。


後ろにいる亜人は、側近だろうか。


ヒャハハハハと大口を開けて笑っている。


品のない奴らだ。


フルーレティーにため口で話すと言うことは同じ領主なのだろう。


こいつら絶対にろくでもない領主だ。


あぁ。


こいつらの領にすんでいる住民がかわいそうだぜ。


「うるさいわね。負けていないわ。私の新しい側近が蹴散らしたわよ。それに、あたしを戦うだけしか取り柄のない能無しと同じにしないで、あなたの領の食料をやりくりしているのは誰か覚えていないの?」


「うむ。それは、そうだ。大丈夫だったか?フルーレティー。貴様がいないと俺は飢えてしまう。」


「アヒャハハハハハ。ベーゼル様は、胃袋を掴まれているのです。掴まれていますね。」


「おい爆裂バッタ、何を笑っている。では、先に行かせてもらうぞ。」


こんな奴が領主なのか、見るからにダメ臭が漂ってくるな。


フルーレティーが、近寄ってきて耳打ちする。


「あいつは、東国の3将の内の1人技将のベーゼルだ。戦いに関しては、3将のなかでは、2番目に強い。手段を選ばなければ1番とも言われている。戦闘技術は、目を見張るものがあるが、あいつは3将随一のバカだ。あまり、気にするな。ちなみに私は、3将の内の1人知将のフルーレティー様だ。どうだ?少しは見直したか?」


「へぇ。フルーレティーって結構地位の高い人なんだな。今から敬語とか使った方がいいか?」


思っていたよりもフルーレティーは東国で発言力のある貴族のようだ。


「ふん。今更ね。いいわこのままで。」


なら、このままタメ口で話させてもらおう。


奥に大きな扉が見えてきた。


あそこが会議室なのだろう。


大きな扉は開け放たれており、亜人と思われる見たこともない種族がたむろしている。


「なぁ。フルーレティー。東国って亜人の国なのか?」


「キャハハハハ。今日一番の皮肉ね。ベーゼルが聞けば卒倒ものよ。」


「ん??」


「まぁ。純血の魔人達が少なくなってはいるのは事実だけど・・・。どうやら、窪地の外は純血の魔族が多くいるようね。」


「えっ?なんて言った?」


「東国は“魔人”の国よ。発言には注意することね。ここにいる人達は私も含めてほとんどが魔人よ。まぁ、亜人の血が混じってはいるけどね。」


「えっ。ちょっと待て、冗談だよな。」


嫌な予感がする。


「冗談じゃないわ。」


「じゃぁ。東国の王様って、まっま――。」


「えぇ。魔王様とも呼ばれているわね。魔人を束ねる王なのだから当たり前じゃない。」


「おい。マジかよ。」


「何を寝ぼけたことを言っているのよ。あなたも、魔族側の亜人だから、ハーピーである私を“勇者パーティー”から助けてくれたんでしょ?」


えっ!?嘘だろ。今、なんて言った?


あの盗賊達が勇者パーティーだって?


じゃぁ、目の前にいるこいつは、魔王軍3将が1人、知将フルーレティーってことか。


くそ。情報量が多くて理解が追いつかない。


落ち着け。


情報を整理しろ。


あの盗賊だと思っていた奴らが、勇者パーティーで、3将の1人のフルーレティーと戦っていた。


そこに現れた俺は、あろうことか勇者パーティーをボコボコにして、魔王軍の幹部を助け出したってことか!!!


完全に、見方に付く方を間違えた。


あろうことか見方になる者と敵対してしまった。


「うそだぁぁぁぁ。」


ひょっとして、俺って取り返しの付かないミスを犯したんじゃないだろうな・・・。


「ちょ、急に大きな声を出さないでよ。もしかしてあんた知らずに、私の見方をしたの?」


「そうだよ!悪いかよ!」


「まぁ、いいわ。西国と敵対した以上、東国の一員になるしかないわね。安心して、私の領で過ごせばいいわ。さぁ、さっさと入るわよ。」


そんな、俺の腕をつかみずかずかと歩みを進めるフルーレティー。


「いやぁぁぁぁ。帰るぅぅ~。」





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