第6話 王都への旅路
「本当に何も知らずに来たのね。」
フルーレティーが少し前を飛びながら声を掛けてくる。
最初は、ついて行くのに必死で、飛ぶのになれていないことを悟られないように取り繕うので精一杯だったが、徐々に慣れてきた。
周りの景色を見る余裕が出来てきた。
辺りには、遠目からでもよく分かるほど自分が知らない植物がたくさんある。
物珍しそうに辺りを見渡しているアスタロートの様子を見てそう感じたのだ。
「あぁ。何も知らないからこそ、来てみたかったんだ。」
そう。
知らないからこそ冒険は面白いんだ。
胸が躍るんだ。
飛行中の会話は、風切り音が大きくて聞き取りずらい。
「まぁ、知らなくても不思議なことではないわね。私たちも窪地の外のことについては何も知らないもの。その様子だと、窪地の外は、随分違うようね。」
こういった質問にはでたらめに答えるしかない。
だが、相手もまた窪地の外は知らないみたいだ。
バレることはないだろう。
アスタロートは、地球と比較して思ったことを素直に伝える。
「ここは、随分ときれいな場所だ。空気が澄んでいる。」
窪地の外のことは知らないが、日本と比べてこの世界は空気が澄んでいるように感じる。
実際、遠くに見える山の緑も艶やかに見える。
地球でも綺麗な場所では緑が鮮明に見えたが、こことは比較にならない。
「キャハハハハ。アスタロートは、変なこと言うのね。空気なんてどこに行ってもおんなじじゃない。変わりようがあるはず無い。」
「おいおい。そんなに、笑わなくてもいいじゃないか。本当に違うんだって!」
「ふーん。あなたがそう言うのであれば、そうなのかも知れないわね。それでアスタロートは、外ではどれくらいの強さなの?」
これは、なかなか難しい質問だ。
神様からチート能力をもらったわけではないが、勇者の仲間としてここに来たのだ。
この世界の平均よりは強いと思いたい。
「あぁ。私は、少し強いくらいかなぁ。」
「えっ!?本当にそうなの?」
少しぼやかした答えに対して、フルーレティーは心底驚いた表情を見せる。
その証拠に一度止まりこちらに振り向いてきた。
この反応は少し意外だ。
平然と受け流されると思っていたからだ。
「何をそんなに驚いているんだ?」
「呆れた。あなた自分の強さに気づいてないのね?それとも謙虚なの?行き過ぎた謙虚は嫌みでしかないわよ。」
フルーレティーは片手を腰に当てて、左手で指を指しながら言ってくる。
あっ。やっぱりかわいい。
そして、器用に飛ぶものだ。
気流に乗ると翼を広げているだけで、空を飛ぶことが出来るが、フルーレティーは、腕と翼が一体化している。
腰に手を当て、左手で指を指しながらどうやって飛んでいるのか理解できない。
まるで、空気中に浮かんでいるようだ。
「ねぇ。聞いて無いでしょう。」
顔をのぞき込むように見てくる。
前髪が、垂れてくるのを防ぐために髪を耳に掛けながらのぞき込む姿も、かわいい。
「アハハ。ちゃんと聞いているよ。別にそこまで強くは無いと思うけど・・・。」
本当に、もとの世界では普通くらいの強さだろう。
別に嘘をついているつもりはない。
ただ窪地の外の人たちの強さが分からないから、ほんの少しでっち上げているだけだ。
「この感じ。嘘を突いているようには、見えないですね。もしかして、本当に外の人は規格外に強い亜人だらけなの?本当にそうなら少し怖いわね。」
小言で、ぶつくさ言いながら、前を向き飛び始める。
「後、あなた気づいていないようだから、伝えておくけれど。私の見立てだと、あなたの強さは東王国内で5本の指に入ると思うわ。」
「まさか、冗談だろう。」
フルーレティーは領主なのだ。
戦闘に対して専門でもないだろうし、あまり当てにはならないだろうな。
ただ、本当に強いのであれば、うれしいがな。
「まぁ、いいわ。いずれ気づくわ。」
これ以上、言っても理解してもらえないと感じたフルーレティーは、王都への旅路を急ぐことにする。
「なぁ。ここら辺で、有名な場所とか無いのか?」
せっかく、異世界に来たのだ。
勇者を探すついでに観光名所にも立ち寄りたい。
「有名な場所ねぇ。」
といいながら、フルーレティーは高度を上げていく。
高度を上げていくと、当然のことながらより遠くが見えるようになる。
そして、遠くも鮮明に見える。この体の視力が良いこともあるのだろうが、色が鮮明に見えるのはやはり空気がいいからだろう。
あたりを見渡すと、森や林は原っぱの隙間に転々と集落が見える。
自分が思い描いていた異世界とは少し違うようだ。
思い描いていた異世界は、大きな城があり、人々は城の近くに町を作り、野生動物や魔物からの脅威から身を守るために城壁を作るイメージだ。
それが、無いということは、身を守る必要のある外敵が少ないということだ。
フルーレティーが指を指して、おおまかな地名と有名な場所を教えてくれる。
窪地には大きく東と西に大きな国があるようだ。
名前もそのままで、西国と東国と呼ぶらしい。
他にも、集落の名前や川などを教えてくれるが、異世界っぽくなくない。
「そして、少し遠いが、向こうに見える小さな山の更に奥に、封印の祠があるという伝説がある。」
「ん?封印の祠。何が封印されているんだ?」
お!やっと異世界っぽい話が来た。
「あそこには、ドワーフどもが持ち主のいなくなった伝説級の武具を封印しているんだ。」
「へぇ。伝説級の装備ねぇ。」
ちょっと、ほしいなぁ。
今後、魔王を倒しに行くのだ。
強い武具はあった方がいい。
今度探しに行ってみよう。
「言っておくけれど、ドワーフが作る武具のほとんどは人族しか装備できないわよ。」
「――ほしいなんて言ってないけど・・・。」
「目が輝いている。」
ありゃま。顔に出てたか、恥ずかしい。
実際、アスタロートの反応は、分かりやすく。
集落の名前を説明しても反応が薄く、興味を示さなかったが、封印の祠には興味を示し、顔の表情、声のトーン、仕草、そのすべてが変わった。
まるで、好奇心旺盛な子供のようだ。
「まぁ、封印の祠の近くには、ゴブリンの集落があるから行く際は、注意することね。まぁ、あなたなら空を飛べるから平気でしょうけど。」
「ほうほう。」
ゴブリンもいるのか。集落には、外壁がなかったがやはり異世界、ゴブリンはいるようだ。
異世界っぽくなってきたな。
「キャハハ。あなた、思っていることが表情にすぐに表れるわね。武力も高いし、私の領土にすまないか?あなたなら大歓迎だ。」
フルーレティーと共に過ごせるのなら、良いかもしれない。
かわいいし、楽しそうだ。
だが、忘れては行けない、私には、勇者の仲間になって魔王を討伐するという心躍る使命があるのだ。その後になら住んでもいいかもしれない。
「フルーレティーの領を拠点にするのもいいかもしれないな。」
「本当に!なら、あなたに市民権を交付するわ。後、役職もね。」
前を飛んでいたフルーレティーが振り返りながら声を掛けてくる。
笑顔がかわいい。
キャハハと笑った時も小さな犬歯がチラリと見えるのがチャーミングだ。
それに、役職をもらえるそうだ。
おそらく。領主を助けた褒美として貴族に似た地位をもらえるのかも・・・。
「ハハハ。まぁ、よろしく頼むよ。王都までは、後どれくらいなんだ?」
「そうね。明日の朝頃着くわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます