第4話 異世界初戦闘開始
先に攻撃を仕掛けてきたのは、人さらい達だ。
赤髪の剣士が、1人剣を構えて突っ込んでくる。
剣を持って殺意を向けてくる人を目の当たりにして一気に雰囲気に飲まれてしまう。
役者で殺気を出す演技をしたことはあるがそれの比ではない。
今までの人生でここまでの殺気を向けられたことはない。
赤髪の人さらいに対抗すべく、とっさにどうすれば良いのか分からなくなるが、自分の記憶から最適解を導き出す。
俳優時代に戦闘シーンを経験したことのある私は、それなりに戦闘に対して心構えがある。
それは演技の際に、戦闘の先生をお招きし指導していただくからだ。
モブの戦闘役は、先生の門下生であることが多い。
その先生の指導で、一番はじめに教わったことがある。
次の動作が分からなくなった場合は、必ず変な動きをせずに、止まること。
この教えを守って、撮影現場で怪我をしたことがない。
教えを守れば、相手の拳は必ず止まるか逸れたりした。
つまり、この戦闘でも、止まっている私に攻撃が当たることはない。
こんな、状況でも、正常に脳は働いているようだ。
走ってきた男の剣が徐々に近づいてくる。
相手との距離は数メートル、大丈夫だ。この剣も私には当たらない。
男は、微動だにしない私を警戒しつつも全力で声を振り絞って走ってくる。
そして最後の踏み込みをして、剣を振るってくる。
剣の距離は1メートルを切った。
徐々に近づいてくる剣。いつもならそろそろ止まる頃・・・。
いや、ちょっと待てよ。
撮影の剣は人に当てない前提だが、今は実践だ。
撮影で動かないことは、下手に動いて攻撃が変な所に当たることを避けるためだ。
根本的な目的は、攻撃が当たらないで合っているが、相手の意思が真逆だ。このままでは・・・。
「しゅべればぁぁぁぁ。」
自分の過ちに気づいた俺は意味をなしていない奇声を発しながら、紙一重で攻撃を躱す。
胸に手を当てなくても、ドックンドックンと脈打っているのが分かる。
危なかった。
今動いていなかったら確実に死んでいた。
異世界デビュー戦に、浮き足立っていたようだ。
私の奇声に驚いた相手は、目を見開いて驚き、剣を盾にしながら距離を取る。
戦闘で、力を振り絞るために叫ぶことはあるが、今の奇声は自らを鼓舞するための叫びではなく、呪文のようにも聞こえたのだろうか。
「おい。なんの呪文だ!?」
「知らない。聞いたこともない。」
「デバフや攻撃魔法でもない、強化かトラップ魔法もしれない。」
幸いにも今の絶叫は、呪文として捉えられたようだ。
赤髪の剣士が、仲間に問いかけるが、他の仲間も知っているはずもなく答えは返ってこない。
黒髪の魔術師風の男は、手を顔にかざし、私が魔法を使用したのか確認でもしたのだろうが、瞳が青白く光っている。
どうやら、今の醜態は、知らない魔法を掛けられたと勘違いしているようだ。
こちらとしては、ありがたいが、なんとも言いがたい気持ちだ。
「おい、今の身のこなし見ただろ。こいつ相当強いぞ。ホムラ俺に合わせろ。」
金髪のランスが赤髪の剣士に声を掛ける。
ギリギリで避けた、俺の行動が余裕の表れと捉えられたのだろう。
本当は、なんの覚悟もないままに戦闘に首を突っ込んでビビリ固まっていただけなのだが・・・。
俺を囲んで、正面に赤髪剣士、後ろに金髪の盾持ちのランサー、右にピンク髪の弓、左に黒髪の魔法使いが位置どって、全員が、武器を構えている。
よく見ると盗賊の輪郭がほのかにぼやけているように見える。
オーラのようなものがにじみ出ている。
この世界の魔法的な何かだ。
魔法を放つと体の外ににじみ出ているオーラのようものが減っていく。
ランスが盾を構えたと同時に、剣士とランス同時に距離を詰めてくる。
同時に弓が放たれて、魔法も詠唱に入った。
弓、ランス、剣の順で肉薄してくる。
先ほどは、気が動転して正常な判断も出来ず全く動けなかったが、一度動いたことにより、体の力が大分ほぐれた。
先ほどもそうだったが、相手の動きが遅く感じるからよけるのは簡単だ。
弓は、しゃがんで避ける。
剣士とランスが挟むように近づいてくる。
ランスの攻撃を回転しながら避け、剣士と向き合う。
横目にランサーを見ると隙だらけだが、剣士が横薙ぎに剣を振るって来ているため追撃できない。
かなり戦いなれているようだ。
手数の多さや戦った場数が人さらいの方が上だが、スピードでは俺の方が圧倒的に上だ。
剣士の攻撃を大きく飛んでよけると、魔術師の攻撃魔法と弓矢が飛んでくる。
大きく地面を蹴って距離をとる。
反撃する暇が無かった。
氷魔法を使えることは確認しているが、火力調整に自信が無い。
間違って盗賊達を氷付けにしてしまってはいけない。
魔法攻撃はやめて、拳で戦おう。
「素早いぞ。このまま手数で押し切る。反撃する暇を与えるな。」
「おう。」
殴り飛ばして実力差を見せつけて諦めてもらおうと思っていたけど、少し見くびっていたかもしれない。
個々の能力はたいしたことないが、チームとしての連携はとれている。
それに、向こうの士気は高い。
それほど、庇った亜人は希少種なのだろうか?
俺も同じく有翼人種の女性なのだが、俺には見向きもしない。
ひょっとして俺って結構不細工?
弓使いと魔法使いが詠唱に入ると、同時に剣士とランサーが二人並んで距離を詰めてくる。
宣言通り、連続攻撃が来るのだろう。
「シールドダッシュ」
ランサーが盾を構えて突進してくる。
魔法スキルなのだろう。
盾が青白く輝いている。
剣士は盾に隠れてみえない。
本気のダッシュなのだろう。
さっきの攻撃より少しだけ早い。
それでも、よけるのはたやすい。
タイミングを測るように待ち構えていると、ランサーが突然かがんだ。
奥には、炎まとった剣を水平に構えている盗賊がみえる。
盾で死角を作った攻撃だ。
「炎(ほむら)飛燕(ひえん)!」
横払いの一撃だ。
狙いは首。
全く、容赦が無いな。
俺に商品価値はないのだろうか?
少し傷つくぞ。
しゃがんでよけると、ランサーが突いてくる。
「そこだぁぁぁ!」
この人さらい達、連携がかなりとれている。
至近距離からランスの矛先が近づいてくるのを、とっさにランスの穂先を右手でつかんでしまう。
「なっ!!」
ランサーの目が見開かれる。
驚いたのは俺もだ。
ランスを引き抜こうと力を入れているのが分かるが、あまり力が入っているように感じない。
そこには小学生と大人ほどの力の差があった。
認識が甘かったのは、俺の方かも知れない。
こうして対峙して、よく分かる。
彼らは、本気で私を殺しに来ている。
剣士の攻撃が、急所である首を狙ってきたこともそうだし、ランサーの血走った目がその気持ちの強さを物語っている。
「くそぉ。」
剣士が、攻撃をしてくるが、先ほどのように動きに切れがない。
それの攻撃を左手で剣の柄を握り止める。
やはりそうだ。
彼らと、私とでは歴然とした力とスピードの差がある。
「なかなか。いい連携ですね。でも、その程度の連携では私との能力差は埋まりませんよ。」
「こらえろ2人とも、サンダーガン。」
魔法職の男から魔法が飛んでくる。
このまま俺が動かなければ同士討ちになるが、それもお構いなしなのか。
二人を突き飛ばし、俺も魔法攻撃範囲からはなれる。
「ヒールアロー。」
弓職の女が放った弓が剣士とランサーに緑の矢が突き刺さる。
言葉の意味から、回復魔法なのだろう。
回復職がいるなら、すこしきつめに攻撃しても回復して、町に帰るくらいのことはできるだろう。
というか、言葉で説得しても応じてくれそうな気配は感じないから、本当に拳で沈めるしかないだろう。
戦闘開始から、徐々に体が軽くなってきているのを感じる。
緊張がほぐれてきているのだろう。
アクション映画でも、緊張したときの動きは堅く、緊張がほぐれてきてからよい動きができるようになってきた。
ランサーの攻撃と剣士の攻撃を受け止めてから、力の差を体で感じ取れたので、殴りつける力加減もなんとなく分かった。
剣士とランサーの体に刺さった緑の矢が消えて立ち上がってくる。
回復し終わったのだろうか、剣士とランサーの体が、ほんのりと緑がかっているように感じる。
ファンタジーだ。
本当にあれで怪我が治るのだろうか。
弓矢が当たったところは怪我をしているように見えない。
「奴は腕利きのモンクだ。ガイモンとシキは接近されないように気をつけろ。」
剣士は、私から得た情報を弓使いと魔法使いにつたえる。
「奴に捕まるなよ。」
「さっきの見たら分かるわよ。」
「距離をとって、囲ってやるぞ。」
おのおの、返事をして、二人ペアになって私を挟むような位置へ移動する。
剣士と魔法使い、ランサーと弓使いだ。
剣士は魔法使いを、ランサーは弓使いを守るようないちだ。
モンクであるつもりはなかったのですが、素手で戦っているとそう思われるのも仕方ないか。
「今度は遠距離魔法で遊ぶのですね。実力差が分かったなら逃げ出してもいいのですよ。」
「逃げる理由が分からないな。俺たちはまだまだ戦える。たしかにおまえの身体能力は高いが、実戦経験はあまりないだろう。俺たちに逃げ出してほしいのは、おまえの方ではないのか。防戦一方で攻撃できていないぞ。そこにつけいる隙がある。今度は、攻撃の手を緩めるな、一気にけりをつけるぞ。」
剣士は、観察眼にも優れているようだ。図星を突かれて少しムッとしてしまう。
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