第3話 異世界イベント発生

拝啓、ドッキリを仕掛けた皆様。


いかがお過ごしでしょうか。


思わぬ形でオタク趣味を全国ネットに流してしまった俺のことを酒のつまみにでもしているのでしょうか?


それとも、自分の趣味を暴露した反動で絶望死した俺を笑いものにしているのでしょうか?


どっきりを仕掛けられた直後の俺は気が動転しておりましたが、今は元気に異世界の空を滑空しております。


風を切りながら空を滑空するのは、想像していた以上気持ちがいい。


背中から生えた翼で、風を受けながら凧のように飛ぶ。眼下の風景が、ゆっくりと移り変わっていく。


「異世界最高―――!!」


草原が広がっており、奥に森が見える。


見渡した限りでは、町や集落は見えないが、草原と森の境目に踏み固めた道路がみえる。


数多くの異世界転生小説を読みあさった俺は、異世界予習は万全といえる。


俺は人里離れた草原に転生した。


異世界転生・転移ものではよくある王道パターンだ。


神様に伝えた通り、希少種の獣人族の女性になっていた。


俺の見た目は、人族ベースだが、足は蹄に、肩甲骨の下あたりから黒い翼が、黒髪ロングの髪から二本の黒い巻き角が生えている。


服装は、古代ローマ人みたいな服装で、背中が大きく開いている。


一体何の種族か分からないが、希少種になっているのだろう。


どうせなら、男のままでいたかったが、異世界に来られたことと比べれば些細なことだ。


この後は、盗賊もしくはゴブリンに襲われている人を助けると、その人が重要人物かその人の紹介で重要人物と出会い物語が進んでいく。


神様は俺に勇者の仲間になってほしいとのことだったからイベントをこなしていけばやがて勇者パーティーに入れるだろう。


お!


視界の奥の方で、砂埃が立っている。どうやらイベント発生のようだ。


飛んで近づいてみると、4人の盗賊が、1人の黒い翼の生えた少女を襲っている。


典型的な異世界転生のテンプレートイベントが来るとは思わなかった。


おおかた人さらいが希少種族の少女を捕まえている場面に出くわしたのだろう。


襲われている少女の方も応戦しているが、かなり押されている。


だが、俺が来たからにはもう大丈夫だ。


必ず助け出して、俺のストーリーを進めようではないか。


戦闘が怖いかと言えば、ほんの少しだけ怖い、だけど一目見て分かる。


あの盗賊たちの動きは、俺よりも遅い。


人が走っているのを見て、自分より遅い奴には遅いと感じるし、早い者には早いと感じる感覚のあれだ。


それに、異世界へ来てすぐに何が出来るか試したが、あいつらよりも魔法の攻撃範囲も広いし効果も強そうだ。


つまり、あいつらは、俺よりも弱い。


まぁ、実際走ってみたら、自分を過大評価しすぎて遅いと感じた奴が自分の同じくらいの能力だったりすることもあるが、この感覚ならまず大丈夫だろう。


それに、盗賊達も死にたくないだろうから、相手が自分たちよりも格上の相手だと知ると逃げ出すだろう。


異世界に転生してからの戦闘は初めてだが、ゲームではチュートリアルだ。


負ける道理がない。


俺の異世界デビュー戦を華麗に決めてやろう。


俺は、人さらいと少女の間に降り立つ。


これから、勇者の仲間としての俺の第二の人生が始まるのだ。


俳優として、完璧な勇者の仲間を演じてやる。


「そこまでだ。」


盗賊4人と少女の視線が俺に集まる。


背にかばった少女は、地面にへたり込み肩で息をしている。


限界だったのだろう。


もう少しで少女をさらえそうなときに邪魔をされるのがよほど嫌だったようだ。


リーダーのような赤髪の男は表情を歪ませる。


「くっ、新手か。何の種族だ。」


「あんな種族知らない。黒い翼に、足はケンタウロス、角は・・・、モコモッコ羊?こんな奴見たことない。」


「懸賞魔人にも乗っていない個体ですね。」


ピンク髪の女と黒髪の男が答える。


「ふふふ。」


異世界転生してすぐそうではないかと思っていたが、やはり俺は相当希少な種族のようだな。思わず、にやけてしまう。


人さらい達は、突如空から現れた俺に警戒しつつ、囲うように移動する。


2つほどと聞き慣れない単語や生き物名前が聞こえてきたが、まぁ後で聞くなりすればいいだろう。


異世界転生直後、自分の容姿に戸惑ったが、映画で特殊メイクした時と似たような感触にすぐ慣れることができた。撮影で特殊メイクをした際は、メイク終了と共によく役に入り込んでいたものだ。今の自分というキャラクターは確立していないが、次第に個性が芽生えてくるだろう。


初めて特殊メイクをしたときの戦隊ものの適役では、キャラクターになりきりすぎて本物と遜色ないと監督からも絶賛されたなぁ。内心は、ファンタジーキャラ万歳ってはしゃいでいただけなんだよなぁ。


人さらいの三下連中といえど、異世界での初めての戦闘だ。


ここは、静かなる強者の役になりきろう。


「引きなさい、今なら見逃してあげます。」


手を前に突きだして、翼を広げてみる。


決まったぜ。完全に今、俺は異世界転生者の主人公をしている。


人さらいの赤髪が前に出てくる。


「大物をあと少しまで追い詰めたんだぜ。はいそうですかって、引き下がることが出来るはずないだろう。」


確かに、背中に庇っている少女は大物なのだろう。


有翼人種で、顔もかなり整っている。


盗賊として高値で売り払えるのだろう。


「ふん。大勢でよってかかってゲスなことを・・・。」


人さらいの連中は、諦めることはしないようだ。


このまま放置するわけにはいかない。


「戦うというのなら、私が相手になります。まぁ、先ほどの戦いを少し見させていただきましたが、私の相手は勤まらないです。怪我をしないうちに逃げた方が良いですよ。」


赤髪の剣士は一歩後ずさり、剣を構え直す。


「種族は不明だが、相手は1人だ。武器も持っていない。格闘攻撃、魔法攻撃に注意して戦うぞ。」


出来れば、戦いたくは無かったが、相手が引かないのであれば戦うしか無いな。


それにしても、初期モブの盗賊のくせに随分とこった造形をしているな。


赤髪に金髪、黒髪、女性はピンクときたもんだ。


流石、異世界、リアルだ。


ゲームならこんな盗賊キャラ全員茶色髪一色だ。


小説では、モブキャラは統一して地味だが、この盗賊達は勇者パーティーかのようにカラフルな髪色をしている。


やはりここは、モブキャラだから目立たないように地味な見た目にする作り物のアニメや漫画の世界では無くてリアルだと改めて実感する。


相手の武器は、両手剣、盾持ちのランス、弓、杖、遠距離二人に近距離二人か。


前世では、演技でしか戦ったことはないが、負ける気がしない。


俺は演技で戦闘の訓練を受けている。


少し、痛めつけて逃げてもらおう。


勇者の仲間として、人を殺してしまうのはどうかと思うし、そもそも大きなけがや殺してしまうのは抵抗がある。


特大のげんこつでも食らわせて、力の差を知らしめて終わりだな。




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