準備運動10

置いていかれた...


気づけば、周りにはほとんど人がいなくなってるし...


「凪くん!!」


「うぇっ!?」


突然後ろから声をかけられ、驚いて変な声が飛び出す


振り向くと...


「塚越さん...どうしたんですか?」


「どうしたって...特にないけど?」


ん?

用がないのに、班が違う俺に話しかけてきたのか?


まぁ、この際気になることを聞いておこうかな


「あの...塚越さんって結構宮城さんと仲がいいですよね」


「え? あ、まぁ...けど、それがどうかしたの?」


「実はさっき、宮城さんに突然

名前で呼んで欲しいって言われて...」


「でも、今苗字で呼んでなくない?」


いや、これは...


「人の名前呼ぶことに慣れてないんですよ

自分は絶対に目立ちたくなくて、中学校時代も友達とかいませんでしたから...」


声のトーンが下がったことに気づいた塚越さんは...


「あ、ごめん 踏み込みすぎたね

さっきの質問だけど、そうするように言ったのは私だよ」


んん.....?


ちょっと理解出来ない...


どういう状況ですか?


「これには事情があるんだけど...」


と、間を置いて話を続ける


「私たちアイドルは、結構気を張らないといけないことが多くて...」


まぁ、自分よりも年上の人と仕事することの方が多いもんな...


「それで、唯一羽を伸ばせる場所が学校なの

だから、色々出来ることはしないとさ..

せっかくの高校生だもん」


いやまぁ、それはそうだけど..

俺に話しかける理由にはならなくないか?


「でも、どうして俺に話しかけるんですか?」


「だって、優しいし

君の目はね...見てると安心するんだよ

それは、私だけじゃなくて椛も櫻も...

きっと、翔吾君とかも一緒じゃないかな?」


いや、翔吾は面白半分ですよ...




それにしても、目...ね



「まぁ、なんとなく事情はわかりましたけど...」


「あ、あと

私のことは、楓って呼んで

敬語だって使わなくていいよ」


うーん...これも、さっきみたいな理由か?


高校生活を楽しみたい、当たり前に楽しみたいって...


「...わかった、か...楓」


「よく出来ました、凪くん」


なんでそんなに上からなんだ...




「あ、俺からもう1つ

俺に話しかけるのは別に構わないけど、俺は目立つようなことは嫌いだから、そこだけ」


ちょっと、突き放すような言い方になるけど

いくらアイドルに頼まれても俺の信念は曲げない


俺は、もう1人にはなりたくない

裏切られるような思いはしたくない


「大丈夫、それじゃ私はそろそろ行くね」


「あ、うん」


そして、楓は反対側に歩いていく



それにしても、当たり前の楽しみ...ね


それに俺は協力出来るとは思えないんだよなぁ


俺は目立ちたくない


楓たちは...普通の楽しみを


少なくとも俺ではないだろう


翔吾とかと関わりを持つのは正解かもしれないけど...


俺がもし、初日に川井さんと会ってなかったらどうなっていたんだろう




少なくとも、さっきのように話すことはなかっただろうな





あとは...


「君の目は見てると安心するんだよ」


楓の言っていた言葉を思い出す


自分の目は他人にそんな風に見られているのか..





それでも、俺は..この容姿が嫌いだ

この容姿のせいで、俺は​──────

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