準備運動9


二人が挨拶を交わした数十秒後


ようやく全員が席に着き、バスは走り出した


バスに乗る時間は大体一時間



昨日は、BBQ以外の全学年合同レクで何をするのか、気になりすぎてほとんど寝られなかった


というのも、今日までに何人もの生徒が、レクについて質問を先生に投げかけていたが、先生は一度も口を開かなかった


そこまで焦らされたら、何をするのか

不安にもなってくる(俺の場合)


と、こんな感じで夜更かしして昨日まで溜め込んできた睡魔がバスの揺れと共に襲い掛かってくるわけで...





もうこれ以上はだめだ

おやすみ...





─────────────────



宮城櫻side...



少し私の横に座る凪くんのことが気になって、さっきからずっと横目で見ている


でも、寝てしまったのか

私の視線には気づかない


何を血迷ったのか、私は横目ではなく

思いっきり顔ごと凪くんの方を向いてしまった


整った顔に、ボサボサになった黒い髪が

軽く目を覆っている



「...ぅぅ」


不覚にも少しドキドキして、変なうめき声みたいなのが出てしまう


絶対、この動揺してる感じが斜め後ろに座ってる楓たちにもバレてるよぉ...


このまま、今日一日乗り切れるのかな...



─────────────────────


そして、一時間が経ち


「おーい、凪ー? もう着いたぞー」


「え...?」


結構、深い眠りになっていたのか

目を開けて、横の窓の外を見ると、いつの間にか到着していた


「やっと、起きたか...

お前、一回寝ると起こすの面倒くさいタイプだったんだな...」


翔吾が大きくため息をつきながら言う


「まぁ、人よりは多少寝つきはいいかもしれない」


確か、少し前に親にも言われた気がする


「今、ちょうどみんなバスから降りてるところだから俺たちも降りようぜ」


「あ、あぁ」


まだねぼけているのか、ぼやけた目を軽くこすりながら


とりあえず、席から腰を上げる


やっぱり、こういうところで寝ると

起きてからがつらいんだよなぁ..


小一時間といっても、体はめちゃくちゃ痛い


軽く伸びをしながら、バスの中央の通路を歩く人の列が途切れたところで

俺と翔吾、それに宮城さんがバスの出口へ向かっていく


宮城さんも起こそうとしてくれてたのかな...?


いや、それはいくらなんでも自意識過剰すぎるか



と、バスから降りたところで

また少し離れたところに、全校生徒が集まる予定の広場が見える


もうかなりの人数が整列し、先生の連絡と自由時間の開始を待っている


「俺たちも急ごうぜ」


バスに乗る前のように、翔吾に急かされ走り出す


「ぐぅ...」


寝起きからの即ダッシュはきつい...



──────────────────



「さて、全学年そろったところで...」


集団の前に立つ先生が声を張り上げ、諸連絡を始める



「予定通り、この後は事前に決めてあるグループごとに、時間までBBQだ

集合時間になったらここに戻ってきて全学年でのレクだ」


「これで、一応連絡は終わり

各自、決められた場所に移動してBBQを始めてくれ」



先生がそれだけを言うと、全員が一斉に立ち上がり

グループに分かれていく



俺も、合流しないとな


「凪ー、もうこのグループは揃ってるから行くぞー」


翔吾を探していたところで、後ろから声をかけられ

振り向くと、もう俺以外全員揃っていた


はやい...


「しゅっぱーつ!!」


和泉有紀さんは、クラスの女子の中でも

特に陽気で、明るい性格


翔吾と同じで結構人気者枠だったりもする...らしい



いつの間にか、和泉さんと翔吾は先へ進み

気づけば、俺と宮城さんが取り残されていた



「えっと...とりあえず行こうか  宮城さん」


「あ、あの...苗字じゃなくて名前で、よ、呼んでほしい」


あれ? 宮城...じゃなくて櫻さんってこういう感じだったっけ?


「さ、櫻さん...?」


「呼び捨て、で...」


え? これ、ドッキリとかだったりしない?


いきなり、呼び捨てまでいっちゃうの!?


「さ、櫻...」


いきなり女子を呼び捨ては...普通に緊張するんだが!?


俺が呼び捨てで名前を呼ぶと

櫻は満足(?)したのか、早歩きで行ってしまう


え? ちょ、置いてかないでー




─────────────────

櫻side...


つい、動揺して早歩きしてきちゃった...!


でもやっぱり、急にあんなこと言ったら変な風に思われるよね...




話は数分前に戻り...


先生が諸連絡をしていた時



「ね、櫻」


小声で隣から名前を呼ばれる


「楓...どうしたの?」


今の並び順は、自由だから

私の近くには楓と椛がいる


「バスの中で、凪くんと話せた!?」


あ、そういう感じの...?


「寝てたから、話してないけど」


「でも、二人はBBQの班も一緒だからまだ話す機会あるよねー

せっかくだし、呼び捨てで名前呼んでもらったら?」


どうしてそういう話になるの?


凪くんと会ってから、この人どんどんおかしくなってない?


「呼び捨てで呼んでもらえるまで、私近くで見張ってるからね!」



──────────


そして、今に至る


見張ってる、なんて言われたらやるしかないじゃん...


もう、だめ

これ以上は恥ずかしくて、話せない...

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