準備運動8

「よし、座席確認できたなー?」


座席表の貼ってある黒板から

全員が自分の席へと戻っていくのを見た先生が声をかける


そして、先生はクラスの様子をもう一度見て


「じゃあ各自、自分の荷物を持てー

バスが外に待ってるからな

さっき確認した座席にちゃんと座れよー」



先生のその言葉の後、数人がものすごいスピードで教室から出ていき、残りの...

教室に残された生徒は、友達と話しながらゆっくりと歩いていく


もちろん、俺は一人──────────


「凪ー、ちょっと待ってくれよぉーー」


数人が走って出て行ったと言ったが

翔吾は出遅れたようで、走って行った奴らの代わりに…


「捕まえたぜ」


俺を捕まえて何がしたいんだ


何もないどころか、俺としては翔吾が隣にいるおかげで

他の奴らの視線を集めるからいい迷惑なんだが……



「そんな嫌そうな顔すんなって。 友達だろ?」


友達ねぇ…


まぁ、うん…  きっと、間違ってはないんだろうな...


「あぁ、わかったから」


翔吾が俺の肩に手をかけてくるので

おとなしく手をかけられておく


「そういえば、凪はバスの隣誰だったんだ?」


バスの隣...


「俺は、宮城櫻さんが隣だったよ」


宮城さんの名前を聞いた翔吾は

少し首をかしげる


ん?  このリアクション、まさか覚えてない感じか?


「あ、あの子か  教室でお前と席近いよな

しかも、BBQの時も一緒だし」



思い出した翔吾は

軽くやりきった感を出しているが


もうこのクラスになってから一か月だぞ...



とかいう、俺も翔吾と、塚越さん、川井さん

あとは席の近い宮城さんとかしか覚えていないんだけど...



これに関しては目立たないようにしてるから、話しかけられないんだよな


これが一番の目的だからいいんだけど


あと、確かにBBQの班に、俺と翔吾、宮城さんに、あと和泉さんもいたな...






「あ、バスってあれか!」



下駄箱で靴を履きかえ

外に出たあたりで、翔吾の声に外を見ると

学校の門の近くに何台もバスが列をなしているのが見えた


「よっしゃ、俺たちも急ごうぜ」


靴をしっかりと履き、再び荷物を持った翔吾は

先に行った奴らに追いつこうと、走り出す


「俺たちも」...って言われてるし

俺も走らなきゃダメだよな...



と、下に置いていた荷物を拾い直し

バスに向かって走って行ったのだった



────────────────────



「じゃあ、俺は席後ろだから」


翔吾の席は後ろなのか


「じゃあ、またあとでな」


とりあえず、翔吾を後ろへ送り出す






さて、俺も行くかー



というわけで、荷物を持ちながら

指定されたバスの座席まで歩く






「ここか」


荷物を肩から下ろし、窓際の席に座る


荷物は、自分の足元に置くか...



「隣、いい...かな?」



足元に荷物を置くために

再び立って、下を向いていたところで

左、通路側から声をかけられる


振り向くと...


「あ、...宮城さん

荷物を置いたらすぐ座るね」


宮城さんが俺が席に座るのを待っていたのだ


そうだよな、俺が立っていたら邪魔で座れないもんな



これ以上迷惑をかけないように、早急に荷物を整理し

再び自分の席に腰を下ろす




そして、宮城さんが座ったところで


「あの、宮城さん! 今日はよろしくね!」


ひとまず、きょう一日

バスと、BBQの時に一緒になるわけだから..

..と、声をかける



宮城さんは一呼吸置き


「う、うん  よ...よろしくね」




まぁ、初めて話すようなものだし

やっぱり宮城さんも少し緊張してるのかな


声が震えている


ちょっと、話しかけるタイミングを誤ったかな...?





──────────────────


宮城櫻side


「あの、宮城さん! 今日はよろしくね!」



え?


隣の席の藤永君から、不意に名前を呼ばれる




こういう時ってなんて返せば!?



ううん、こういう時は深呼吸...



平常心で


「う、うん  よ...よろしくね」




すごく声が震えてる...


さっき、楓と椛たちに変なこと言われたからだよ!!




──────────────────


時は座席発表の時まで戻り



「櫻っ!!

バスの隣、藤永君だったね!」


後ろからいきなり、楓に肩を軽く叩かれる


「う、うん

でも、それがどうかしたの?」



楓はこっちを見ながら、微笑する


「どうしたって、あの藤永君だよっ!」


あの、藤永君...?


何かしてたのかな...?


「ほんとにわからないの?」


私の様子を見かねてか、

楓の後ろから椛も出てきた



「藤永君ね、すごく優しいんだよ?

入学式の時にね、私が転んだ時に声をかけてくれて湿布までくれたんだよ!」



この光景をほかのみんなが見たらどう思うだろうな...


他のクラスメイトと話してるときは、椛はおとなしい感じなのに

私や楓と話してると、人が変わったように元気になることを...



それにしても、藤永君と椛の間にそんなことがあったんだ



確かに、優しいのかも...?



「櫻も椛みたいに惚れちゃうかもねー?」


「それはない」


なんで椛が惚れてる前提なのかが気になるけど...


「そもそも、アイドルなんだから

マネージャーに怒られるよ」


あのマネージャー、そういう時だけ

無駄に勘が鋭くて、うるさいんだから


「そんなこと言ったってさー、ちょっとぐらい良いんじゃない?」



「そろそろ席に戻れよー」


先生が教卓の前に立ち、

そう声をかけ


「あ、じゃあ私たち戻るから

頑張ってね!」


え...?


──────────────────


っていう事があったから

自分にそんな気がなくても、ちょっと意識しちゃう...


はぁ...

あの二人は自分に自信があるからあんな風に言い切れるんだろうな...


そういうところは、羨ましいと思うこともたまにはある


でも、今回は納得いかない...





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