第二十話

 時は過ぎ、あれから、初めての満月の夜が訪れた。


「月詠姫」


 勿忘草の庭に佇むは、世界を照らす月の化身――名を、月詠姫と申す者。彼女は勿忘草から口を離すと、背後に控える月の使者に頷き微笑んだ。


 あの新月の夜をいつまでも憶えておくために口づけた勿忘草は、さも嬉しそうに庭に愛らしい花を咲かせていた。



 ざぁあ……と爽やかな風が吹く。花びらが空を舞う、その光景は酷く美しかったが、月詠姫の記憶からは完全に消え失せることだろう。


「左様なら、愛しい、君」


 一筋の、流星が天を駆けた。



 それが月詠姫の、今を生きる彼女の「遺言」だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る