第十三話

 もうすぐ日が落ちる。なんの進展もないまま、不穏な影だけが伸びていくのを、照胤王はただ感情の抜けた目でじっと見つめていた。


「…………照胤王」


 ふと月詠姫が彼に呟いた。その声ははっきりと彼の名を紡いでいた。静かに視線を彼女へと向ければ、彼女は清々しいほどに美しく微笑んでいた。


「ん?」

「終わりではありません。わたくしたちは〝化身〟――肉体が滅びることはないのですから。ですから、そのように寂しそうな顔をしないでくださいませ?」

「……月詠……」

「もうじき夜が来ます。そろそろお戻りになられた方が、よろしいかと」


 月詠姫は強く、そして何よりも美しい〝化身〟であった。

 そんな彼女に惚れたいと思ったのは、これで何度目だろうか。

 きっと数えきれないほど、あるに違いない。だがそれは決して許されない好意であると彼は知っている。何故なら――。


「……分かった。ではまたな、月詠」

「はい。おやすみなさいませ、照胤王」

「兄上に、よろしくな」


 何故なら――〝月〟は〝夜〟のものだから。


〝日〟の出る幕ではないのだと、照胤王は心の底から清々しく笑ったのだった。

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