第二話

 そこは勿忘草わすれなぐさが咲き誇る庭。目前には、辺り一帯を埋め尽くすほどに花が咲いている。その光景は見事なまでに圧巻であり、まるで白い花の海のようだ。


 そもそも「海」というものがどういうものか。

「民の暮らす地に存在する、美しく広がる青いもの」ということは理解しているつもりだったが、それが液体なのか固体なのか、はたまた気体なのかまでは不知だった。


 だがその花の咲き揺れる姿は、表現として「海」とするのが正しいだろうと、ひと一人が通ることのできる細い道を歩く人物は思う。


 彼の名は夜宵王。

〝夜〟を司る、この世界の夜を統べる化身である。


 夜は彼によって毎日世界に齎されているが、彼が眠りから覚めればそれは自然と起こる現象のため、夜宵王自身はそうはやされること自体大袈裟だと思っている。


 彼が眠ればたちまち日が昇る。それまでの時間が彼の活動時間だ。


 この勿忘草の海を越えた先には、彼の求める者がある。

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