【完結】禁煙
かがみゆえ
禁煙
.
『俺は暑苦しいのもタバコくさい奴もキライだ!!』
そう愛しのダイキに言われ、僕は禁煙すると決めた。
でも……。
「うぅっ、口淋しい……」
常にタバコを吸っていたせいなのか、たった数日吸わないだけで、これだ……。
タバコ中毒、タバコ依存性。
今の若者から、携帯やコンビニを取ったら、
『生きていけなぁーい』
『マジ死ぬ~』
なんて大袈裟な発言も、今は痛いほど分かる気がする。
いや、僕の場合は……。
「サトル」
「だ、ダイキっ!?」
「お前、今―――タバコを吸おうとしてなかったか?」
「いやいや、そんな事ナイよー」
「じゃあ、お前が手に持っているその未使用のタバコは何だ?」
「あー……」
ここは、会社の屋上。
禁煙に堪えられなくなった僕は、昼休憩に隠し持っていたタバコを吸おうとしていた。
ダイキの前で禁煙すると宣言してたら、ダイキは僕がタバコを吸わないかを見張っている。
有難いには有難いんだけど……。
ダイキにもあの時言ったけれど、僕的には……。
「ダイキ~。僕がタバコを吸ってないか、何でキスして確かめてくれないのー?」
「っ!」
僕が顔を近付けて言ったら、かぁっとダイキの顔は真っ赤になった。
ホント、可愛いなぁー。
「ばっ、バカ!
俺をお前の禁煙パイポにするなって言っただろうが!
その代わりにこうして、お前がタバコを吸わないか見に来てるんだろう!」
う~ん……、ダイキから僕に会いに来てくれるのは、すっごく嬉しいんだけど……。
「ダイキぃ……、禁煙はやる気の問題なんだよ?
ご褒美が無くっちゃー」
「ご褒美って…俺のキスは、ご褒美には入らないだろうが」
「はぁ…分かってないなぁ、ダイキ」
「?」
「…ダイキから僕にしてもらえることは、キスでも何でもぜーんぶ、僕にとってはどんな物よりも高価のある最高のご褒美、なんだよ?」
「っ!!??」
―――だから、ご褒美頂戴?
ダイキから僕にキスして。
チュッって触れるだけのキスで良いから。
僕はダイキにキスを求める。
ダイキはあたふたしている。
嗚呼、愛しい……。
「さっ、サトル!!」
あと少しでお互いの唇が触れ合うという所で、ダイキが制止した。
「どうしたの? あ、恥ずかしい?」
「お前、本気で禁煙しなきゃ、―――早死にするぞ!」
「え?」
「このままだと有害物質が身体に溜まりに溜まって、その内絶対癌になるぞ。早死にしても良いのかよ!?」
ダイキは心配そうに僕を見ている。
そっか、タバコって国が認めた麻薬、だもんね?
身体に毒を入れ続ければ、そりゃあ早死にするよね。
…早死に、か。
「ダイキはさ、僕が死んだら―――泣く?」
「なっ!」
「僕が死んだら、悲しんでくれる?」
「あっ、当たり前だろ!」
「そっかぁ」
ダイキは、僕が死んでもちゃんと悲しんでくれるんだ。
優しいなぁ……。
「…何笑ってんだよ」
「んー? 嬉しくてさ」
「このっ、俺は真面目に言っ……んっ」
ダイキにキスをする。
大丈夫、僕は早死にしないよ。
ダイキの前から、いなくなったりしないよ。
僕は、ダイキより先に死なない。
「んっ、サトル……」
「ダイキ……」
ダイキが僕を見る。
僕もダイキを見る。
交わる視線。
もう一度、キスを……。
―――しようとした、けど。
「お前、―――俺が死んでも良いんだな」
ダイキから、まさかの予想外のことを言われた。
ダイキが死ぬ……?
「何で!?」
「『何で』って、お前のタバコで」
「だから、何で!?」
「副 流 煙」
「あ…」
「知っているだろ?
喫煙者よりも、喫煙者の周りにいる奴が早死にする確率高いんだぞ。例えタバコを吸ってなくても、な」
だから、喫煙者であるサトルの側にいるタバコを吸わない俺の方が早死にする確率が高いだろ?
「あーあ、サトルがタバコをやめない限り、俺はサトルのタバコで早く死ぬのかー」
ダイキのその言葉を聞いて、僕は……。
「―――本気で禁煙します……」
「よろしい」
ダイキを僕のせいで、早死にさせてたまるか!
再び本気で禁煙を決意した。
しかし、僕は気付かなかった。
―――自分がダイキの前でタバコを吸ったことが無いことを。
タバコを吸っても、ダイキに見つかったら携帯灰皿ですぐにタバコの火を揉み消していたことを。
それを知っていて、僕に言ったダイキは小悪魔だと思う。
でもそれは、同僚として、一人の人間として、―――サトルを本気で想っているが為のダイキの愛である。
- END -
【完結】禁煙 かがみゆえ @kagamiyue
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