前編

 七年前。札幌で生まれ育った私は、高校三年生の頃に、"高校のOB"を名乗る二十歳ぐらいの男から「金を払うからヤらせてくれ」と言われ、その男が危険ではないことを信頼できる友人から確認した私は、スマホゲームで遊びながら、その男に自分の身体を遊ばせていた。十万円。私としては、少しは感じてるフリでもしてあげれば良かったかなと、少々良心が痛むほどの値段だった。ヤってる時の男ほど単純で滑稽で馬鹿らしい生きものはいない。



 男の夢物語に、文字通り華を添えること、それから、物語のヒロインである女の台詞を用意すること。それはとても簡単なことだと思った。私がそのことに目覚めてしまったのは、初恋の男とのセックスの後だった。少女漫画をめくると、純白のシーツが愛し合う二人を覆い隠す。そのシーツの下では最も淫らで、それでいて、最も誠実な愛を誓い合っていると信じていた。しかし、それは本当にただの少女の夢に過ぎなかったのだ。それからも、男たちが私に渡す切符はいつも同じ「ベットの上」という終着駅に向かっていた。切符はその終着駅まで、迂回するか直進するか、急行か鈍行かという差しかなかった。男たちはその過程で見える風景を、いかに彩るかばかり考えていた。私はそれを楽しみながらも、ずっと馬鹿にしていた。


 それから少し経ち、五年と半年前。

 全国的にも有名な歓楽街、すすきの。

 大学二年生だった私は水商売をしていた。酒に酔ってつまらない話を延々と聞かされるガールズバーよりも、私に向いている仕事と直観した職があった。デリヘルだ。若い頃にしか出来ない高給与のアルバイトと割り切っていた。なぜか、お金の使い道は決めていなかった。


 客に本名で呼ばれると思うと吐き気がする。源氏名は店の意向で、私が色白だったことと、全国的にも雪のイメージが強いこの地域だということで、姓はそういう名前になった。名前は私が決めることになった。本名から最も遠いイメージの音にした。「淡雪あわゆきエリカ」という名前になった。この名前は自分でも気にいっていた。


 容姿端麗というわけではない私でも、ある程度の出勤時間さえ確保していれば、客は容易に私に金を払ってくれた。


 すすきのは、札幌駅から南に歩いて約三十分。地下鉄だと十分もかからない場所にある。有名なウイスキーの看板がシンボルマークになっている。大きな看板の店もあれば、小さな店もある。もちろん風俗店だけではなく、居酒屋もあれば、締めパフェを堪能することもできる夜の街だ。


 さらに、すすきのから、さらに徒歩で五分ほど南下すると、その名の通り本当に可愛らしい鴨がいる鴨々川や、中島公園という自然あふれる公園もある。この中島公園はネット配信され話題になったドラマの中でロケ地として使われるほど市民に愛されている。また、中島公園にはクラシック音楽などのコンサートが開催されるKitaraという施設もある。札幌の自然と文化を象徴しているともいえる場所の一つと言えるかもしれない。

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