第二章 ドラゴンがやって来た

第9話

 ウエルは17歳である。学生はもう卒業している。商家の出でもないし、貴族の出でもない、ましてや国軍への入隊を認められてもいない。よって、働かなければならない。そして、実際働いている。非常勤の講師である。つまりは、四六時中アイとともにいられるわけではないのだ。

 出勤である。稼がなければならない。アイに飯を食わせるためにも。しかも、そればかりでは収まらないと気づいたのは、本当に今更になってである。気づいたきっかけは職としている講義の一幕であった。すなわち、国の民族衣装の変遷について話し始めた途端である。(アイの服、どうしよう。買わないとだよな)。異世界のジエイ・ケイの衣装だと言うあの格好はやはりどうしたって目立つだろう。いつまでも屋内に留まらせるのは監禁以外の何物でもない。となれば、アイが移動してもおかしくはないよう少なくとも外見くらいは整えておかなければならないと、くどいようだが本当に今更になって気づいたのである。教育機関卒業とともに非常勤とはいえ講義を持てている時点でウエルの学才は言うに及ばずであろうが、その秀才様なんぞは(いくらくらいするだろうな、一着だけってのもそうもいないだろうな。女子ならおしゃれしたいだろうし。って誰に訊いたらいいんだろう。フリエ経由で奥方にでも、いやいやまずフリエに言う時点で、アイつはきっと根掘り葉掘り聞いてくるに違いない……)。

「先生!」

 学級のまとめ役の生徒がいぶかし気にしていた。わざとらしく咳払いをしてから

「失敬。では続きます」

 体裁を取り繕うのに必死になった。誰も言わないだろうが、講師の怠慢が流布されれば失職になってしまう。アイを案じればこそ、職責を全うしなければならないのだと、講義の終了と同時に肝に銘じることになった。

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