燃えるごみ

須戸

燃えるごみ

 卵のパックは燃えるごみ。ポテトチップスが入っていた袋も燃えるごみ。紙パックのジュースに付いていたストローも燃えるごみ。発泡スチロールも燃えるごみ。

 分別が面倒だからでも、嫌がらせでも決してない。自治体――佐賀県佐賀市――の指示にきちんと従っているだけだ。


 レジ袋有料化やプラスチックストローの廃棄問題に関する映像が毎日のようにテレビのニュースで流れていた頃、「意味がわからない」と思った。当時の心境は、「え? 燃えるんじゃないの?」である。正直、今でもよくわかってはいない。


 燃えるごみをきちんと燃えるごみの日に出せば、あとはごみ処理場で処分してくれるはず。燃えて灰になるのだから、海にプラスチックやビニールが流れついたり、ストローがウミガメに刺さったりはしないはず。


 のちに知ったことだが、他の地域では、プラスチックやビニールは燃えないごみになるらしい。昔ダイオキシンとかいう何かが問題になってどうだこうだとか。気になってネットで調べてみたこともあるけれど、難しくてよくわからなかった。

 だから、プラスチックやビニールを燃えないごみにすることには納得がいかない。みんな燃えるのだから、燃えるごみにすれば良いのに。


 さすがに金属や陶器、家電といった類は無理だが、大体のものは燃えるごみだ。こういうとき、佐賀市に住んでいて良かったと思う。ここは、住民にも地球にも優しい地域だ。多分。


 明日は燃えるごみの日。朝起きたらすぐに出しに行けるように、捨てるものをまとめておこう。

 抜け落ちた髪の毛は燃えるごみ。切った爪も燃えるごみ。彼女からもらったクマのぬいぐるみも燃えるごみ。


 そういえば、今日道端で見つけたこの猫の死骸はどうすれば良いのだろう。物珍しさについ拾って持って帰ってきてしまったが、使い道もないし、臭いもきつい。こんなものはいらない。

 ごみカレンダーには分別の仕方は載っていない。スマホで確認してみても、サイトのごみ分別事典にも載っていない。問い合わせれば教えてもらえるかもしれないが、何かと面倒だ。


 うーん。でも、動物って燃えるよな? 確か小学生の頃、誰かが死んだペットの犬を焼却炉に入れていたのを見たような気がする。その後「供養」とか言って、グラウンドに灰を埋めて墓を作っていたような。

 じゃあ、これも燃えるごみで良いか。


 ただごみをまとめていただけなのに、結構な時間が経ってしまった。スマホに表示されている時刻は二十一時二十九分。夕食を食べ損ねた。コンビニに行けば何か買うことはできるものの、食欲は湧かない。それに、買ったらまたごみが増えるから、今日はもういらない。


 燃えるごみの日は週二回。他のごみの日と比べたら多い方だが、何しろたくさん出るから、すぐに溜まる。だから今のうちに、いらないものは全て袋に入れておこう。


 目の前には、パンパンになったごみ袋が二つ。あともう少しで終わる。

 これが終わったら、ゆっくりシャワーを浴びて汗を流そう。そして、明日の朝までベッドでぐっすり眠ろう。


 いらないものは、次で最後。今一番、不要なもの。

 たった少しの間一緒に過ごしただけで俺のことを、「気味が悪い」とか言いやがって。自分から近寄ってきたくせに。

 こんなものいらない。燃えたらいい。燃えて、全部灰になってしまえ!


 肩の近くでカールした茶髪。白いブラウスの上に羽織った、薄手の黄色いカーディガン。膝下までの青いスカート。いわゆるナチュラルメイクというものはしていても、金属でできたアクセサリーは身に着けていない。


 容姿は可愛い方だし、料理も上手かった。どこへ連れて行っても必ず喜んでくれた。それに、文句を言ってくることもなかった。今日までは。

 たまたま見つけた猫の死骸に触れた瞬間、いつも絶やさずに見せてくれていた笑顔が消えた。体を震わせながら、「怖い」、「不気味」、「気味が悪い」と、蚊の鳴くような声で話すのを聞いた。


 意味がわからなかった。小学生の頃にペットを供養した誰かと、どこが違うのだろうか? わからなかったから、怒りを覚えた。そして、そのまま勢いで、殴ってしまった。殴ってしまったら、打ち所が悪かったのか動かなくなった。

 動かなくなってしまったから、もう使い道はないと思った。だから、とりあえず処分するために、猫と共に自宅へと抱えて連れてきた。


 この大きさでは袋に入らない。まとめるには骨が折れるだろうが、いらないものはいらない。なるべく早く片付けよう。


 今日別れを告げた彼女も、燃えるごみ。

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燃えるごみ 須戸 @su-do

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