▼006『自分達の至る地平』編【09】



◇これまでの話





 直撃した。

 手応えは充分。

 二度目のカウンターは発動しない。

 だが、


「被弾反応しますのね……!」


 ボスワイバーンの挙動だ。


 ……攻撃の着弾に合わせ、緩衝動作をとる!


 回避が出来なければ、防御系のスキルを使うという発想だ。

 それをボスワイバーンが行う。

 命中と同時に首を反らせ、逆鱗を貫通する刃を抜き、深く入らないようにするのだ。

 そして、


「……く!」


 仰け反る巨体の首に、オサフネブレードが持って行かれそうになる。

 逆鱗以外の装甲は強固で、ともすればこちらが吊り上げられそうになって、


「――ンンンっ!!」


 横。

 こちらと共に控えていた梅子が、引っ張ってくれる。

 故に抜く。

 一瞬、竜の赤い血が蒸気と共に噴き出すが、すぐに停まった。

 筋肉が締めつけ、血を外に逃さないのだ。

 そして空に首をかち上げたボスワイバーンが吠える。


『……!!』


 構わない。


「ダメージは!」



 己の問いに答えたのはバックアップだ。


『ボスワイバーンのHPは皆の話に拠れば素の状態で重軽8/16!』


「素の状態で重傷値8!? 何ソレ!?」


 自分達の重傷値が2や1であることを考えると、随分な耐久度だ。

 だけど倒せる。

 何故なら、最初の一撃で既に重傷値を1削っている。

 そして今のオサフネブレードの一撃は、


「――”完全な不意打ち”に”硬直状態”の相手ですわ。

 こちらの攻撃には”倍打ち”が入りますわよね……!」



■倍打ち

《素人説明で失礼します

 倍打ち とは 属性の相性や状況によって ダメージが倍になるという仕様のことです

 クソ仕様と言われたり 神仕様とも言われます

 倍打ちは基本的に乗算されますが 拘束変更によっては加算になる場合や 倍率の変更も有り得ます

 なお クリティカルヒットは 倍打ちではありません》



「今回の場合、”完全な不意打ち”で二倍! 更に”硬直状態”で倍!」


 つまり、


「ダイナミックに威力四倍……!!

 これぞ倍打ち!!」



『昔、地下四階で128倍出してやったことがあるんだけどよ。

 クソマザーのせいで2倍に変えられたことあるんだよな、あたし』


『威力の余波で大空洞破壊されるよりマシではないかね?』


『ハナコ君の場合、MLMに何か恨み買ってるのでは?』


『ハナコさんだったら仕方ないですね……』


『オイイイイイ! 誰か味方! あたしの味方をwebに寄越せ!』



 牛子は宣言した。


「オサフネブレードのダメージは定格で重傷1! それが四倍となれば、ボスワイバーンの重傷値を4を削って――」


 削った。


「残り重傷値は3!」



『――おおっとエンゼルステア、一気にボスワイバーンのHPを削りに行きました!

 情報によるとボスワイバーンの重傷値は8!

 それをここで3へと削減!

 これは正に西武園のウォーターシュートのような急降下だ!』


『舳先のジャンプする兄ちゃん、たまに下に落ちるよな』


『1992年に無くなったアトラクションの話をするのはどうかと思いますけど、うちの影響か、跡地に”出ます”からねえ』


『ですけど、どうです!?

 このまま一気に行けますか?』


『普通に考えたら無理ですね。

 竜の装甲が硬い上に、もう逆鱗打ちはさせてくれないでしょう。

 当初のような、旋回させて削る方に持っていくしかありませんが――』


『バッファーの拝気が足りねえ、ってか』


『はい。――そもそも、危機を感じたら、ボスワイバーンも撤退する可能性がありますよね』


『撤退面倒くせえよな、追うのが。

 でもまあ、見とけ。

 ――既に正解は見せてんだから、後はその通りにやるだろ』



 ボスワイバーンは、仰け反り、一歩を下がりながら判断する。

 今の一撃で、一気に耐久力を削られた。

 血は止まったが、喉のあたりに嫌な熱が籠もっていて、


『……!!』


 咆吼が爆圧ではなく、黒くなった血飛沫として発された。

 今ので喉奥の違和感は大体無くなったが、


『――――』


 危険を感じる。

 このまま戦闘を続けるか。

 完全な仕切り直しとして、背後側、対岸の浮上島に一度移るか。

 判断は即座だった。



 仕切り直す。



『……!』


 一時撤退だ。

 今、足下には戦闘を再開した敵がいる。

 そして最初のパワーチャージを回避したもう一体の敵も、姿を消したままなのだ。

 更に、被弾反応として仰け反ったこの動作は、そのまま翼を羽ばたくには適している。

 ならば決まりだ。

 翼を動かし、バックダッシュでは無く、背後の対岸まで飛ぶ。

 そこで喉の血を完全に吐き出し、何もかも整えてから改めて潰しに行く。

 ゆえに、


『…………』


 飛ぼう、と仰け反った姿勢のまま翼を構えた己は、妙なものを見た。

 高速で何もかも捉える視覚の中央。

 青の天上に、あるものがいるのだ。

 落ちてくる。

 肌の黒い、銀の長髪。

 あれは、


「――!」


 姿を消したはずの敵が、何故、上空より落下して来ているのだ。




◇これからの話



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