▼006『自分達の至る地平』編【08】

◇これまでの話



◇第七章



 ……ホゥワァ――!?


 え? ちょっ、DE子さん?

 あの、ええと、何!?

 何いきなり!?

 あっ、ちょっ、ええと、だ、抱きしめ……ッ!

 コレ、アレですか!?

 アレっ、ええと、DE子さんまさか私と結婚したいの!?

 そうなんです!?

 結婚!

 いや、ちょっと、そうじゃなくて。ええと、


「…………」


 向こうでヨネミがキツめのハグジェスチャーをして見せています。つまりやり返せと言うことだと思いますが、


 ……MURI――!


「駄目でありますねえ」


 こ、コラッ! コラッ……!



 ……ウワー!!


 だけどビミョーに冷静になってきてかなり慌てます。だって今、すごく汗掻いてるし、身体ガクガクしてるし、涙だって浮いていて、それに、


「だ、駄目じゃないですか。

 ゴール地点が勝手にこっちにやってきたら」


 そう。

 DE子さんが、元いた場所からこっちに来ていて。

 それは自分が走り切れてなかったと言うことです。

 だけど、


「ゴール地点はあそこじゃないよ」


「それは――」


 うん、とDE子さんが頷きます。


「自分とミツキさんが合流出来る場所。

 頼んだ分を返してくれる場所が、ゴール地点だよ」


 そして、


「――今、凄く格好いいよ、ミツキさん」



『もう何かポップコーン食いながら言うけど、アイツら結婚しろよ今すぐ』


『ええ。若いって、いいですよね……』


『す、すみません。

 何か私、ビミョーに苛立ってるんですが、コレは私の人間性が低いからですか?

 ……観客席は同情しなくていいんですよ!!』



 白魔は実況画面の中に、二つの動きを見た。


「始まるね……」


 動きの一つは、DE子がボスワイバーンと向き合ったことだ。


 そしてもう一つの動きはボスワイバーンが遂に束縛のパイルを力で引き抜き、


『……!』


 自由になった。

 即座に身構える。

 一瞬の間が生まれた。

 ターン間に生じる、何も無いフェイズの時間帯だ。


「次ターン、フェイズ18でボスワイバーンの吶喊が入る」


「DE子さんの一回目行動はフェイズ16だから、まずは回避だよね」


「もう一回、フィールドを回すか?」


「いや、DE子さんの加護系も切れるから、無理」


 ならばどうするか。

 既に指示は出してあり、自分達も動かねばならないが、


「――2ターンで、決着つけるよ」


 そう言って、クロさんが頷いた瞬間。


『――おおっと、ボスワイバーンが翼を開いた!!

 これはまさか、最大出力のパワーチャージを掛けるつもりか!』



■パワーチャージ

《素人説明で失礼します

 パワーチャージとは 通常の吶喊体当たり つまりチャージに対し 更に強化したバージョンの技を示します

 多くは加速力を上げたもので 今回では 地上戦だというのに翼の加速器による出力強化と そうなります》



「……どうして今までやって来なかったんだろう」


《貴方が前に言った”部族の掟”では?》


 そうかもね、と己は応じる。

 そして、


「タスクは?」


『――本来のチャージプラスアタックが難度6。

 逆鱗打ちの重傷ペナルティでタスクは-1されるけど、両翼のパワーチャージで、恐らくタスク+2。合計難度7かな。

 観客席からの情報だから、確度高いと思うよ』


『どうも有り難う御座います。――じゃあ……』


 と、己は、


「――来なよ」


 と軽く手招きをボスワイバーンに振った。

 それに応じるようにボスワイバーンが翼の先端を高く上げ、


『……!!』


 来た。



 ボスワイバーンは全てを見ていた。


『……!!』


 高速の航空機動中でも、獲物を補足できる視覚があるのだ。

 対する相手は静止状態。

 ただ右脚を前に立つ姿を、己は視界の中央に捉えている。

 逃げるつもりはないらしい。

 ならば行く。

 選択は一つだ。

 両翼の加速系を加圧し、力を一気に後ろへと叩き込む。

 全身を押すのは爆発にも似た威力だ。

 これによって、いつもなら筋力任せのチャージによる前足アタックも、翼の加速に押されたものとなる。

 踏み込みの後ろ足は地面を深く砕き、爆発するように速度が籠もる。


『……!』


 本来ならば、こんな処で、こんな機会で使用することのない技。

 相手が自分よりも強大でなければ使用することのない技術だ。

 だが使う。

 この相手は、否、この群は、単体であってもこちらを凌いでいるのだ。

 必ず潰す。

 ゆえに全力。

 瞬発による一撃は目測距離を一気に詰め、穿つ一撃は両の前足一択。

 ぶち込む。

 全身重量を両の足爪に込めて、


『――――』


 激突するように、地面へと己は着弾した。



『おおっとボスワイバーンのパワーチャージ!

 大技です!

 必殺技ではない通常技としては正に大攻撃!

 対するDE子選手、無事ですかね!?』


『直撃だったら即結晶化だけど、動画勢は待ち構えてんのか? やっぱ』


『随分余裕ですねえ。

 ――でもまあ、見た方がいいですよ。DE子君がどうなったかは、ね』



 竜は、己の足先で激音を響かせた。

 衝撃がそれだけで音となり、虚空を振動させる。

 見ていた。

 当たった。

 その筈だった。だが、


『……!?』


 散る瓦礫と土煙。

 しかしそこにあるべきものがない。

 死体。

 もしくは砕け散る流体光の欠片。

 そのどれもが見当たらない。

 これは、


『――!?』


 何処だ?

 潰した筈のものが居ない。

 しかも、居なくなる瞬間を、視認出来なかった。

 これは己にとって、一つの可能性を示唆する。

 つまりは、


『……!』


 相手が、こちらを越える速度で回避行動をとったのではないか。

 ならば、


『――――』


 あたりを一瞬で知覚するが、何も居ない。

 視覚、聴覚。返ってくる情報は、前方、遠くに控える三体の群。

 戦闘能力の無い連中ばかりだ。

 ”敵”はどこに居る。


『――!!』


 己は即座にバックダッシュを行った。



 仕切り直し。

 敵がもしもこのフィールド上の何処かにいて、身構えていたとしても、位置をずらせば関係ない。

 少なくとも回避の足しにはなるだろう。

 だから背後に、敵がいないことを振り返る視覚で確認した上で瞬発。

 バックダッシュ。

 翼の羽ばたきをやや強くして風を起こす。

 正面側からの追撃が無いようにして、


『……!』


 着地する。

 身構える。

 その時だった。


「お待ちしてましたわ」


 直下。

 先ほどのパワーチャージの踏み込みで砕いた瓦礫。

 それをはね飛ばして、一撃が来た。



 牛子は動いた。

 バックダッシュからの着地は、身動きの取れない瞬間だ。

 そこを狙った一発は、


「オサフネブレード逆鱗貫通! 二発目を頂きますわ!」




◇これからの話



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