第111話 魔界へ

 あれから数週間で、キャルペローン帝国の帝都、ハンデリアールが消滅したことが電報によって各地に渡ったが、その場所に莉里亜たちの姿はもうない。

 ルシファーたちがいなくなったあと、全員は魔界に移動していた。ヒリリトンは必要な物があるとすぐに来なかったが、ステロンが連れてこれるように一緒に残ってくれた。


「ねぇねぇ、何を持って行く気なの??おいらそんなに重いもの持てないよ〜??」


「僕がここで研究していたものを破棄するだけだよ」


「見つかったらやばいものなの??」


「そうだね、ちょっとヤバい。僕が転生を続けているのがバレちゃうし、それ以外にも…作ることが禁止されている道具もあるからねww」


「それは…処分しておかないとね」


 ヒリリトンは道具を処分していると古い本を取り出す。その本のボロボロさにかなりの古いものだとわかる。


「それ何???結構古いけど…」


「これは、元カレの持ち物さ。遺品と言ったほうがいいね」


「元カレ……んっ?!元カレ????!!!!」


「そうだよ、あっ言ってなかったか???僕そっち系の人だよ〜〜ついでに言うと君がドタイプ♡」


「ひょえ!!!」


「冗談だよ、僕の好きだったのはこの人だけだからさ」


 抱きしめるヒリリトンの姿に、ステロンは人を愛するというのはこういうことなのではと感じる。ヒリリトンはその本をアイテムボックスにしまうと、奥の部屋の扉を開ける。ステロンも一緒にその部屋に入ると、その部屋はどことなくこの世界のものとは思えないものばかり。


「見かけないものだね…これはなんだ??」


 ステロンは黒い板のようなものを持ち上げる。ボタンのような突起物があるが、動くようなものではない。


「気にしないでくれ。それは今処分しようと思っているものなんだ。元々、この世界には存在してはいけないものだからね」


「ふ~ん。じゃあ渡すね」


 壁を見回すと鮮明な絵画が張り付けられている。どれも同じ顔をしておりここまで正確に描いた人と会ってみたいと思うほどだった。


「てか、この絵画すごいな…!!誰が描いたんだ???」


「これは絵じゃないんだ。写真と言われているやつだよ。こっちではわからないだろうけどね」


「しゃしん…????聞いたことがないな。ヒリリトンになる前に存在していたものなのか??」


「まぁ、そういうことだね。だけど、このことは内密に」


 口元に人差し指を立ててウインクをしてくるヒリリトンにステロンは体が引くつく。その様子にヒリリトンはくすくす笑っているとその部屋にあったものは暖炉に放り込んで燃やしていく。


「その紙も、燃やすんだ。きれいなのに」


「これ残して置いたら後でやばいからさ…」


 苦笑いで笑うヒリリトンだが、燃やしていく彼の表情がどことなく悲しそうに見えてくる。最後の一枚を持った瞬間、ステロンはその紙を燃やすのをやめさせる。


「そんな顔で、捨てるんならさ…持って行こうよ。見てるこっちが辛いからさ」


 ステロンは寂しそうな顔を見せるとヒリリトンは燃やす手を止める。その紙には精一杯に笑顔を見せる元カレの姿。静かに握り締めるヒリリトンの姿にステロンは笑顔を見せる。

 ある程度のものを処分し終えると二人は魔界に向かうために魔法陣の前に向かう。ステロンは先に向かうとヒリリトンは最後に振り向き、魔塔に別れを告げる。


「ばいばい、アンスラ」


『じゃあな』


 聞き覚えのある声が聞こえてヒリリトンは振り返ると体が半透明なあの紙に描かれている青年が立っている。彼は手を振るときれいさっぱり消え去る。


「ずっといたのかよ…ばか」


 ヒリリトンはそれだけを吐き捨てると魔法陣を通っていく。魔界に戻るとなんだか騒がしくなっている。


「なんだこれ」


「ステロンおかえり~~ちょっと手伝ってほしいんだけど」


「アスモ、これどういう状況???」


「公女…いえ、莉里亜様が結婚式をすることが決まったのです!!」


「「結婚式ッッッッ~~~????!!!!」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 魔界に来た莉里亜は紅茶と一緒にカップケーキを食べている。目の前にはタツキの姿があり、一緒にお茶をしている。


「これ、おいしいね」


「うん、昔だとあまり食べれなかったけど、こんなに落ち着いて食べるなんてありえないと思っていたよ」


「そうだね~~」


 二人はにこやかに食べていると莉里亜の口元にカップケーキがついているのにタツキは目に入るとそれを拭い取り自分の口に運ぶ。無意識で行うその行動に二人は顔を赤くする。


「ご、ごめん//////////」


「べ、別にいいよ///////」


「その空気、なんだよ」


 苛立っているような反応を見せるガクドに莉里亜たちは目を丸くさせる。完全にずっといたのではと感じると莉里亜たちは弁解しようとおろおろしている。


「お兄様…!!これは別に」


「そ、そうですガクド様!!!これは…!!」


「そんな反応しなくていいんだよ…それにタツキ、俺のことは義理の兄だと思ってくれればいいんだよ。そんな反応されると、ムカついてくる」


「あ、すみません」


 ガクドはソファーにドカッと座ると勢いよく扉を開けてハンスが入ってくる。


「リリアンちゃん!!!結婚するってどういうこと?!」

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