第107話 銀狼

 莉里亜を助けるように現れた銀狼は一瞬だけ莉里亜を見つめた後、タツキの元へ走り出し身体を少しだけ大きくしてタツキを背に乗せて漆黒の狼の攻撃を避ける。


「お前…!!!俺らを助けてくれるのか?!」


 タツキは狼に掴まりながら聞くと、答えるように軽く吠える。タツキを背に乗せて走る銀狼に魔獣はコバエを叩くように前足を振り下ろす。タツキが切り落としたはずの足は再生しており脅威の再生スピードだと理解する。


「どういう再生だよ!!!まるでルシファーとそっくりじゃないか!!!!」


「ルシファー???」


 莉里亜はタツキの言葉をヒントに魔獣を見つめる。この類いの魔獣は人間の実験によって生み出されたとしたら、この魔獣は元々人間。魔族も人と同じ姿をしている。もしも人間が、人だと捕まえた者が、魔族だとしたら…。


『アルプト!!!お願い、聞きたいことが!!』


『呼びましたか??』


『良かった!!アルプト、聞きたいことがあるの!人を魔獣にした実験って、魔族にも効くの?!』


『可能性はあります!!ですが、確実ではありません』


『そう、ありがとう!!!』


 莉里亜はアルプトとの念話を切ると魔獣を見つめる。莉里亜は東国で邪龍を祓った時のことを思い出す。あの時はアルディンが居たためにできたが、今は彼女は居ない。だが、やるしか無い。莉里亜は魔力を集中させ、力を貯める。できるかどうかはわからないが、やらずに諦めて…みんなが死ぬのだけは考えたくはない。


「お願い…!!!!」


 莉里亜は光魔法を発動させて放つ。その砲弾は魔獣に直撃し、魔獣は体勢を崩す。少しだけ力が弱まったような気もする。弱った魔獣を見たタツキは、銀狼に頼んで魔獣に突っ込むように言う。

 銀狼は頷き魔獣に突っ込んでくれる。魔獣は触手を生み出しタツキと銀狼を攻撃するが銀狼はうまく避けて魔獣の懐に入る。銀狼は吠えるとタツキは宙を飛ぶ。


「これで終いだ!!!!くたばれ!!!!!」


 タツキは魔獣の脳天に大太刀を突きつける。魔獣は悲鳴を上げると突き刺さった場所から身体中に亀裂が入り崩壊する。粉々になった魔獣は灰のようになり地面に散らばる。その瞬間、生きるアンデットだった人々は次々に倒れていき、残ったのは不気味に光る魔法陣だけ。


「あの魔獣が、生きる屍アンデットを生み出していたのか???」


「わからない…でも!これで魔法陣を解除できると思う…!!」


 莉里亜は笑っているとランウェルの背後にイフの姿が目に入る。莉里亜は声を上げるとその声に反応してランウェルはイフの攻撃を防ぐ。


「まだここに居たのかよ!!!」


「まだ生きる屍アンデット化していたのかよ!!イフ!!俺らがわからないのかよ!!!!」


「彼はもう死体なんだ。何を問いかけても聞く耳を持たない。殺すしかない!!!」


 ランウェルたちは戦闘態勢になるとウィンディーネとアルディンが姿を見せる。二人も生きる屍アンデットとなっているため、聞く耳を持たない。三人は一気に襲ってくる。

 莉里亜は目を閉じると三人の様子が変わり魔法を放つのを止める。するとイフ、アルディン、ウィンディーネを囲むように光の柱が立つ。三人はその柱を破壊しようと叩いたりしているが壊れる様子がない。


「これは???」


「いい加減にしないか!!!」


莉里亜たちの前に降り立つ一人の女の姿。それは見まごうことなき精霊女王の姿。彼女がどうしてこの場所にやってきたのかはわからない。


「お前ら、忘れたとは言わせないぞ。この私の封じ魔法のことを。私も、お前らを失うのは嫌だからね。このまま悪霊を追い出させてもらうぞ!!!はよ私の子供たちを返せ!!!!!」


 精霊女王は魔力を強めると三人からは悲鳴が上がり、三人の姿は消え去る。精霊女王は大きく息を吐き、穏やかな笑顔を見せてくれる。


「安心しな、あいつらは精霊界に連れ戻した。今は下級精霊となっているが、またすぐに元に戻るだろう。そん時は、また精霊として契約してやってくれや」


 精霊女王はそう優しく微笑む。彼女は精霊界に戻ろうとするとハンスは精霊女王の腕を掴む。そのことに精霊女王は驚きハンスの顔を見る。


「まだいかないでくれ!!!!!!」


「っ!!!!!」


 ネイレーンと呼ばれた精霊女王ははぐらかそうとしているがハンスの必死な顔に戸惑いを隠せずにいる。精霊女王はその名前で呼ばれるのはいつぶりだろうと考えてしまう。現世で精霊使いだと言うことがバレて逃げていたが、簡単に捕まってしまい拷問を受けて死んだ。目を覚ますと精霊たちの住処、精霊の森で眠っていた。

 ネイレーンがまだ精霊女王になる前の精霊王に後を託されて精霊女王になったが、この場所はどうにも暇。変わることのない景色にただ座っているだけの生活。いつしか時がどのくらい経過しているのかも考えなくなったが、上級精霊のイフリートが新たな精霊使いに呼ばれて行ってしまった。それがまさかのリリアン、自分の娘、リリアンが精霊を呼び出すことに成功し、ネイレーンはアルディンを呼び出す。


「アルディン!!!きて!!」


「お呼びですか??」


「アルディン、ちょっとお願いがあるのだけど…」


 ネイレーンはアルディンにリリアンの元に行くように伝え、リリアンにもしものことがあれば、リリアンを守り彼女の精霊になるように伝える。その後にウィンディーネがリリアンの精霊となったが、まさかこのようなことになるとは思っていなかった。ネイレーンはなにか助けになれないかと考える。

 その時に感じた気配、リリアンに憑依していた莉里亜が、黒魔女によって入れ替えられた気配。彼女を精霊の森に呼び出すことができれば、きっと彼らの助けになると感じ、ネイレーンは莉里亜を精霊の森に呼び寄せることにする。しかし不手際によりちゃんとした自分の場所に呼び出すことが出来なかった。きっと彼女がいれば、ハンスも救える。

 精霊女王となってからも、ネイレーンが思い続け、心残りだった男…それがハンス。ネイレーンはハンスを見つめるとそっと昔と同じような笑顔を見せる。


「久しぶりね、ハンス」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る