第103話 白龍

 白い玉は莉里亜りりあに感謝を伝えていると精霊女王はいうと、中学生の頃のことを思い出す。それは家の帰り道にある小さな神社での出来事、その日はどことなく真っ赤な夕日の日。

 莉里亜は義父が入院している病院からの帰り、その道を通った時に、神社から小学生の男の子五人が逃げるように出てきて莉里亜とぶつかりそうになりながら走ってくる。慌てている様子に莉里亜は不思議と神社の中に入っていく。

 莉里亜は辺りを見回しながら歩いていると草むらの中を藻掻くような音が聞こえ、その場所に向かうと白蛇の体に釘が刺さって動けなくなっているのを見つける。


「きゃっ!大変!!!!どうしよう…」


 莉里亜は手を伸ばそうとすると蛇は莉里亜の手を噛もうとしてきて触れずにいる。咄嗟に莉里亜はクリアファイルで壁を作って噛まれないようにする。その隙に釘を抜くと蛇は猛スピードで茂みの中に隠れる。


「あの子達…なのかわからないけど、酷いことする…!てか、ここ蛇神様が祀られている神社なんだけど、祟られないかな????」


 莉里亜は釘を住職に渡して神社の中を出ていく。今までそのことを忘れていた莉里亜は自分の記憶力を疑い始める。


「私、最近のことよく忘れているね」


「そうなのか??私は知らんが、そいつはお前に感謝している」


「あなた、あの時の蛇さんだったんだね」


「お前、そいつは自分の精霊にしたらどうだ??ついでにその黒いのも」


「できるでしょうか…」


「お前ならできるはずだ、自分を信じな」


 莉里亜は白い玉と黒い玉に手を出す。すると二つは光出し、莉里亜は光りに包まれる。強烈な光に莉里亜は目が眩み、目を閉じる。

 光が収まったような気がして、ふと目を開ける莉里亜は眼の前に大きな白龍と黒髪の青年が視界に入る。白龍は静かに莉里亜を見つめている。


『莉里亜よ、私に命を与えてくれてありがとう』


「あなたは、龍だったの」


『私はこれからそなたの精霊として共に行こう。助けてあげたいだろう、あの家族と愛する男を』


 白龍は目を細めながらいうとふと龍鬼の顔が浮かび、彼に対して恋をしていると実感してしまう。その姿を見た黒髪の青年はくすくす笑っている。


「笑っていないでよ、てかあなた誰なのよ」


「オレか??オレは闇の神ーアルプトー。アルと呼んでくれ、主様ぬしさま


「もう精霊じゃなくなってるよ」


「準備は整ったようだな」


 精霊女王は莉里亜の姿を見て大きく頷く。準備が整ったことに、莉里亜はいつでも戻れると思い始める。


「やっぱり、精霊女王であるこの私が精霊にできなかったのは、精霊ではなかったというわけか」


「そういうことですね」


「お前ら、しっかり彼女をサポートしてやれ」


『言われなくても!』


「わかってるよ!!!!」


 莉里亜とアルプトは白龍の背中に乗ると白龍は体を持ち上げる。莉里亜は精霊女王に分かれを伝える。


「なんか、色々ありがとうございました!!行ってきます!!!!!」


 精霊女王は手を振ると白龍は飛び立ち現実世界に帰る。ひとり残った精霊女王は静かに涙を零す。


「さようなら、私の娘に憑依した人よ。ハンス様を、よろしくね」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 現実世界であるキャルペローン帝国の都市ハンデリアールでは乱闘が起こっている。なんとか生きる屍アンデットから逃げたランウェルたちは教会の中でガクドの治療を行っている。


「ランウェル様、彼の治癒もう少しで完了します」


「そのまま治療を頼む…」


「大丈夫だ、彼はまだ助かる」


 ハンスはガクドの姿を見て頭を抱える。なぜこんなことになってしまったのだろうかと思い始める。


「ガクド…すまない」


「お前のせいじゃない。自分を攻めるな」


「だけど…!」


「今は体を休ませろ。また体力を使ってもらわなければいけないのだからな」


 ランウェルはハンスの肩を叩くと階段を登り屋上へ上がる。屋上にはステロンとカルウェンが見張りをしてくれている。


「様子は?」


 二人はランウェルを見て今の状況を伝えてくれる。黒魔女は黒龍を呼び寄せて人間の殲滅を始めている。死んだ人間たちをルシファーは生きる屍アンデットにしてランウェルたちを捜索しているしているらしい。


爽呪そうじゅが魔法でなんとか存在を隠せているが、この場所に隠れているのがバレるのは、時間の問題か」


「そうじゃのう…。そろそろ生きる屍アンデットたちがこの場所に集まる。黒魔女様がどうやってくるかのう…」


「そうだね、おいらも頑張らないと」


 ランウェルは中に戻るとタツキは申し訳無さそうな顔をしている。


「魔王様、申し訳ありません」


「自分を攻めるな」


「ですが、俺は魔王様の命令を聞かずに…」


「公女様が心配だったんだろ?だけど、お前のその判断のおかげで、黒魔女様が復活したのがすぐに分かったんだからいいんだよ」


 ランウェルはタツキの頭を軽く叩くと黒魔女をどうやって止めるかと考える。あの状態の黒魔女を止めるにはそれ以上の力を持つ存在が必要。それがリリアンに憑依した莉里亜本人だ。彼女には白い光を持つなにかの存在が彼女を守っていた。その存在が何なのかわからないが黒魔女を止める事ができると確信を持って言える。

 そんな頼みの綱は一瞬にして引き千切れ、彼女はランウェルが気配を追えない場所にいると思われる。予想ではルシファーが作る異空間だと思われる。ルシファーが作る異空間は探知を妨害させる魔法陣を組み込まれているため、当然探すことができない。


「どうしたらいいものか…」


 ランウェルは悩んでいると黒龍の鳴く声が教会に響き渡る。どうやら見つかってしまったようだ。


「まじかよ…!!!!」

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