第90話 小さな悪魔

 リリアンとウルファは馬に乗ってダンゲルが死んだと思われる場所に向かう。ヒリリトンに会いに行く時も思ったが、この地区だけ地面が荒れている。


「お嬢様、地面がぬかるんでいますのでお気をつけください」


「心配ありがとう。大丈夫よ、アルメーレン嬢の話によれば、この奥ね」


 リリアンは林の方へ馬を歩かせると、一瞬だけ頭が痛くなる。その痛みは奥へ行くたび激しくなりリリアンは馬を止める。リリアンの異変にウルファはリリアンの隣に着く。


「お嬢様、大丈夫ですか⁈頭が痛いのですか⁈⁈⁈」


「ご、ごめん、大丈夫よ…。大したこと、無いから」


 リリアンの顔が青ざめていることにウルファは気づくと、ウルファはリリアンに水を飲むように言う。ゆっくり飲むリリアンは少しだけ気が楽になる。


「ありがとう、楽になったわ」


「いいえ、様に飲ませるように言われていたので」


「聖女様に?????」


 ウルファはリリアンが出かけた後に、公爵邸に聖女様がやってきて聖水が入った水や紅茶を飲ませるように言われていたらしく、出かける時にも言われていたという。


「聖女様が、私にどうして…」


「あのお方の考えは我々には分かりませんが、きっと何かあるのでしょう」


 水を飲んだリリアンは落ち着いてきたため、ダンゲルが死んだと言われている場所に向かう。向かった場所はまだ焦げた跡が残っており、嫌な雰囲気が漂っている。


「ここで、ダンゲルさんが…」


 リリアンは馬から降りて焦げている場所に触れる。ウルファはリリアンに触れない方がいいと言うが、リリアンはその言葉を無視をして触れる。すると頭に強烈な痛みが走る。一瞬だけ映る映像のようなもの。

 漆黒のドラゴンによって破壊され燃える町、その光景に悲鳴を上げる人々、泣き喚く人の姿。今なぜそのようなものが出てきたのかは分からないが、これがリリアンの記憶では無いのはわかる。時代が違いすぎるためである。一瞬だけできた人々の姿は今の時代の服装では無かった。かなりの昔で、遠い過去だと言うのがわかる。


「今のは…」


「お嬢様!大丈夫ですか????」


「大丈夫よ、ありがとう」


 リリアンは顔を上げると木の枝に隠れるように目玉が一つだけのコウモリのような生き物と目が合う。リリアンは思わず悲鳴を上げそうになるが、そのコウモリはリリアンに向かって飛んでくる。


『まさかこの時代に、黒魔女様と出会えるなんてなんて幸運なんだ!!』


「へ……!!!」


『へ?????』


「変な生き物が喋ってる!!!!!!!!!!!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーー


『痛てててっ!!!!!本当に何しやがるんだよ!!!!!』


 リリアンに向かって飛んできたコウモリのような生き物は、ウルファに殴られてしまい目玉の上をさする。


「すまない、お嬢様が悲鳴を上げたので危険だと感じてしまい…」


「ウルファ、ごめんね」


『いや!!!!おいらに謝れよ女!!!!!』


「あなたが飛んで来るのが悪いのでしょう…」


『それもそうだが…』


 地面に座るコウモリのような生き物はリリアンのことを見つめてくる。


「ところで、あなたはなんなの????私のことを黒魔女だと言っていたような気がするのだけど…」


『黒魔女様をそう呼んで何が悪い!!』


「それの意味を教えて…」


『黒魔女様はおいらたち魔物の頂点に君臨するお方だ!!』


「魔王とは違うの???」


『魔王???それはお前ら人間が言っているだけだろ??おいらたちの王様は黒魔女様だけだ』


「では、大魔王ランウェルのことは知っているか???」


「ランウェル…!!!」


 ウルファはランウェルのことを聞く。元皇宮騎士団であるウルファはランウェルこそ最大の敵であると認識している。皇宮騎士団は魔物を殺すように育てられているため、魔王に従える者たちの名前を知っていてもおかしくない。


『大魔王????ランウェル????ああ!!!!憤怒のランウェルか!!そういつなら知っているぞ、黒魔女様を探すためににいるからな』


「「こっち??????」」


『そんなのも知らないのか???しゃーないから教えてやる、おいらたち魔物が暮らしている場所が魔界で、お前ら人間が暮らしているのは人間界と言われている。そんで、ランウェルを中心に人間界に暮らしているのが、ランウェルを入れて五人だ。だけど一人だけ別行動をしている奴がいるらしいが、誰なのかはおいらにはわかんねんだ』


「あと一つ聞かせて、あなたはなんなの????」


『おいらか????おいらは魔界で暮らしてた下級悪魔のステロンだ!!とある事情でこっちにいるんだ』


「とある事情って????」


『そいつは言えねぇよ。すまんな』


 ステロンはリリアンの頭に乗るとウルファは剣を向ける。ステロンは驚いていると奥から木の枝が折れる音が聞こえ、そちらを向くとヒリリトンが立っている。きょとんとした顔をしているが、リリアンの頭の上に乗っている生き物に目を丸くさせる。


「公女様????どうしてここに????その頭の上に居るのはなんですか????」


「ヒリリトンさん…あなたこそどうしてここに????」


「近くに薬草があるので、それを収穫しに、そしたら…話し声が」


 ヒリリトンはリリアンの頭の上に乗っているステロンに釘付けになっている。


「その生き物…なんですか?????」

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