第89話 ギルドマスターの行方

 グレンの戴冠式から数日後、帝国は平和で穏やかな日常がやってきた。グレンは即位してからすぐに奴隷を持っている貴族を摘発。全ての奴隷を解放して家族の元へ戻す取り組みをしている。そして脱税をしている貴族や金持ち平民からも課税として搾り取り、無法地帯だった場所を清潔にして、病院を造った。

 平民思いなその姿だが、一部の貴族からは反発を受けていたが、ネルベレーテ公爵とカマエルス公爵の守護があり、大事にならずに済んでいる。そして皇宮騎士団と使用人は総入れ替えさせられて、新しい空気が皇宮内に吹き込んでいる。

 公爵邸に戻ってからやっと日常生活が戻ってきたリリアンは、ダンゲルのいるギルドに向かい、あの時のお礼を言いに向かう。リリアンはコック長に頼んで焼き菓子を作ってもらうことにする。


「公女様、このぐらいでよろしいですか?」


「これの半分でいいよ…多すぎるから残りはみんなで食べて」


「よ、よろしいのですか⁈」


「も、もちろんよ、いつもありがとう」


 リリアンはコック長にお礼を言って部屋から出ていく。調理室に残ったコック長はリリアンの豹変ぶりに違和感を感じてしまう。幼少期のリリアンは、野菜嫌いでよく残していた。なんとしても食べてほしいコック長はリリアンの食事に細かく刻んだ野菜を入れて、分からないようにしていたが、リリアンはそれにもすぐに気づき、コック長を罰を与えようとしようとしたが、ハンスに止められていた。

 その日を境にリリアンは別館に住んでいたが、その時の食事をどうしていたのかは分からない。カザリーンが呼んだコックがいたが、別館に食事を運ばれた形跡がいつも無かった。そのため、食事をとっていたのかすら分からない。


「公女様、お変わりになられたのですね」


 リリアンはウインの転送魔法でギルドの近くまで向かい、リリアンだと分からないように変装していく。ダンゲルの居る町はいつもより賑やかと言うより慌てているような雰囲気に、リリアンは焦りを感じる。

 ギルドに何かあったのではと思いながら、リリアンは慌ててギルドに向かう。ギルドに入ると中はもっと慌てておりアルメーレンが焦っているのが目に見える。ギルドの中を見渡すと泣き崩れている人もいれば放心状態の人が目に入る。

 アルメーレンはリリアンに気づくと申し訳なさそうな顔をしている。その表情でダンゲルに何かあったのだと思うと、リリアンは身構えてしまう。


「申し訳ありません、今ギルドでは依頼できなくなっています…」


「私、リリアンです。ダンゲルさんはいないのですか??」


 そのことにアルメーレンはリリアンを連れて上の階に上がる。ダンゲルの部屋に入れると扉を鍵を閉める。押し込まれたリリアンは動揺しているとアルメーレンは悲しそうな表情をしている。


「アルさん、ダンゲルさんに何かあったのですか??????」


「公女様…!!!ギルド…マスターが…!!!!死にました」


「えっ……………」


 リリアンはダンゲルが死んだことに理解できずに放心状態になり、持っていた焼き菓子も落としてしまう。ギルドマスターの部屋に案内されたリリアンは、一度頭を整理しようとソファーに座るが、頭がうまく回らない。


「ダンゲルさんが…死んだ???????どこで…???」


「魔塔が近い…森の中です…。一昨日に…、人と会うと言って…森に行ったきり、帰ってこないので…見に行ったら…黒炎が立ち、その場所に向かうと、誰なのか分からない…焼けた人が…いました」


 リリアンはその話に静かに耳を傾ける。森に入ったギルドマスター、誰なのか分からない焼死体。だが、まだギルドマスターだと決まったわけではないのに、彼女はそれがダンゲルだと決めているようにも見える。


「まるで、その遺体がダンゲルさんだと、言っているように聞こえるのですが…」


「その遺体に、ギルドマスターがつけている指輪があったので…」


 確かにダンゲルは指輪をつけている。考えがまとまらないリリアンは頭を抱えるしかない。ダンゲルが殺される理由なんて分からない。リリアンの無実を主張したからといって恨まれることなんてない。その恨む人は捕まり、一人は死んでいる。そのため彼を殺す人はいないに等しい。


「その、ダンゲルさんが死んだ場所って、どこですか?私行ってみます!」


「ダメです、犯人も捕まっていないのに、公女様一人なんて…!!!」


「もちろん一人では行きません。ウルファと一緒に行ってみようと思っているだけですので」


 リリアンは一度落ち着くために屋敷に戻る。ダンゲルの死亡、まだ実感は湧かないが、少しでもその現場を見ておきたい。屋敷に戻ったリリアンはウルファを連れてガクドの屋敷で夜を過ごす。

 カリウルと出会ったのはガクドの屋敷、初めはすごく警戒をしたが、悪い人たちでは無かったことにリリアンは懐かしく感じる。もう一度会って話をしたいと思うが、もうその人たちは居ない。

 ついでにヒリリトンのところによっていこうと思うリリアンは、ダンゲルの死を受け入れなく別のことを考えようとしていたが、思い出すのは全てダンゲルとの思い出ばかりでリリアンは思わず涙を浮かべる。


「ダンゲルさん…!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る