第88話 黒幕

 ランウェルはニヤニヤしながら復活させた人のことを話す。


「そんなちっぽけな願いじゃ無いんだよ」


「どう言うことじゃ?」


「そいつ、ある女を蘇らせてほしいと願ったんだよ」


「女???なんだ恋人かの?????」


「そこんところは知らない。それに俺は理由は深く聞くつもりもないからさ、その女の魂はこの世界のどこかの人間に憑依させた。そんで男の魂を喰ってやろうと思ったが、あれのことを忘れていたから、そのまま俺のお付きにしたのさ」


?????あぁ、あのことか」


 カルウェンはなんのことかわかっていなかったが、なんとなくだが思い出す。魔族だけが知るあれの存在。注意しておかなければ、いずれ滅ぼされてしまう。


「そう言うことだから、お前も遊んでいる時間は無いから注意しろ」


「了解じゃ」


「それと、お前に頼みたいことがある」


「なんじゃ…」


「ランベルと、連絡が取れない」


「なんだと…⁈」


 カルウェンもランベルのことは知っている。麒麟であり、ランウェルに忠誠を誓った男。昔に一度だけ対戦をしたが、計り知れないパワーに苦戦をしていたことを覚えている。だが、まだ一度も勝ったことはない。


「あの男と連絡が取れないと言うんかのう?あれほどの実力があるやつが??」


「皇宮に潜入したらしいが、公女と接触して以来、連絡が途絶えている」


「まさかバレたんじゃ…⁈」


「あいつに限ってそれはない…。とも言えないが、危険だ。見つけたら回収してきてくれ」


「了解じゃ、それと誰かこっちに来るぞ」


「頼んだぞ」


 ランウェルは姿を消すとテラスにやってくるリリアンの姿に、カルウェンはアドラに戻る。


「どうしましたか?公女様?」


「カマエルス公爵様、今誰かいらっしゃいませんでしたか?」


「いませんよ?きっと自分の独り言だと思いますよ?よくしてしまうのですよ〜」


「そうですか…」


「ところで、公女様はどうしてこちらに??」


「たくさんの人と話すのに疲れてしまって…」


 苦笑いを見せるリリアンに、アドラは室内に居るバンズの姿が視界に入る。リリアンが逃げてきたというのを理解すると、笑ってリリアンと話し始める。


「そうでしたか、ならこちらで休憩しているといいでしょう。自分のことは気にしないで下さい」


 アドラはワインを飲み干すとリリアンのそばに居る。リリアンは何を話したらいいのか分からず、戸惑いを見せる。リリアンは裁判のことを思い出し、ちゃんとアドラに感謝を伝えようと考える。


「カマエルス公爵様。ちゃんとお礼を言わせてください」


「前にも言いましたが、自分は特に何もできていませんよ。公女様にお礼を言われることもありません」


「いいえ、あの弁護側に立ってくれただけでも嬉しいです。もしもあの時に弁護側に立ってくれなければ、裁判をすることもなく私はこの世を去っていましたから」


「公女様の場合、この世を去る前にこの帝国から姿を消していたと思いますが…」


「えっ??????」


「ただの独り言です」


 にっこり笑うアドラは室内に居るバンズと目が合う。冷めた目線で彼を見つめるとグレンに呼ばれて奥へ向かっていく。皇宮内のパーティーは翌朝まで続いたが、早々とネルベレーテ公爵一家とカマエルス公爵は会場を後にする。

 外は暗くなり、夜の冷たい空気が皇宮の地下牢獄に吹き込んで来る。暖を取る物すら無い独房の中には、皇族らしい姿とは異なる姿をしたヴァイオレットとアーサーがいる。アーサーは独房の中で声を荒げているがヴァイオレットは死への恐怖で震え上がっている。


「ここを開けろ!!!!俺は皇太子だぞ!!!!!!暖炉のある部屋に連れて行け!!!」


「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない…!!!!!!!!!」


 その独房のある地下室にランタンを持ち、黒いローブを被った男は二人の前に現れる。まだ数日しか経っていないと言うのに、二人の姿は皇族とは思えない姿をしている。その姿を見てその男は鼻で笑う。


「見るに堪えないな…皇后、アーサー?」


「あ、あなたは…!!!」


「グレン!!!さっさと俺らをここから出せ!!!!!!これもお前の作戦なんだろ!!!!」


「出せだと?????口の聞き方に気をつけろ下人…!我のことを誰だと思っている」


「なんだと…!!!!!」


「やはり、お前は先に消しておくべきだったな…!」


 グレンは瞳を赤く染め、アーサーの首を掴む。首を掴まれたアーサーは声にならない声を上げながら苦しみ、正気を抜かれる。姿はみるみるうちに老人になり、カラカラに乾いてミイラのようになる。抜け殻のようになったアーサーは闇魔法によって蘇り、グレンの人形兵に変わる。


「早めに魂を喰らうべきだった。こんなにまずい魂を食べたのは初めてだ」


 グレンは怯えきっているヴァイオレットを見つめると、彼女は恐怖のあまりに漏らしてしまう。その姿にグレンは笑うが、黒炎で彼女の体を燃やす。今までの計画が全て水の泡になったことにグレンは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 あともう少しでリリアンのことが手に入るところだったのに、欲を見せた前皇帝の影響で今まで練ってきた計画が全て狂ってしまった。しかしまだもう一人の精霊使いがいる。グレンはダンゲルのことを考える。


「精霊使いはまだいる。あの男をこちら側に…いや、無理か。ランウェルがいる…まさか、あいつまで復活しているとはな…面倒だな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る