最終章 冥王の厄災編

第86話 戴冠式

 屋敷に戻ったリリアンたちは、一週間後に裁判の判決が出て無実だということが帝国中に知れ渡った。虚偽の申告をしてネルベレーテ公女を陥れた皇后のメイド長は、絞首刑で命を落とし、数日間その身を晒し者として放置をされることとなった。そして、偽者だと言うことを知っていながら、黙認をして本物の皇太子妃を殺そうとした皇帝は爵位剥奪、余生を牢獄で過ごすことになった。

 そして皇太子妃殺害未遂、行き過ぎたしつけによる精神的苦痛と暴力をした行為で皇后とアーサーは爵位剥奪、牢獄生活と週に一度の晒し者にされるという。グレンは今回の件について無関係であり帝国民による支援により皇帝の座を与えられることとなった。


「やっと平和な時がやってきそうですね〜」


 カーラはそっと呟くように安心する声色で呟く。リリアン、カーラ、ヘルミーナ、ヘリンは四人でお茶会を開き、今回のことを笑い話に変える。


「本当にそうですね、グレン様が皇帝になってくださるのでしたら、安心ですね」


「でも、本当に公女様が無事で良かったですよ〜」


「リリアンでいいですよ、ヘリン…じゃなかった!キリナ」


「なんか間違えてしまいますよねwでももう少しでキリナとはお別れですね」


「なんだが、寂しく感じますね」


「どうせまた会えます!!私は農家の娘ですので、野菜を持って帝都にできますので」


「今度お野菜買わせてくださいね」


「あと手紙も!!」


「もちろんです!みなさんは私のお友だちなのですから!でも、もう貴族では無いので、気軽に挨拶は出来ませんね…」


 寂しそうな顔をするキリナだが、リリアンは手を握って友だちだと言わんばかりの表情を見せる。どうせまた会える、リリアンはそんな感じがして仕方がない。

 数日後にキリナはネルベレーテ騎士団の護衛の元、実家に戻っていく。しばらくの間、静かな時が訪れたが、数日後に帝国中は忙しくなるのだった。それはグレンの戴冠式が近づいているためである。


「ついにあの人が皇帝になるのか…」


 リリアンたちはグレンの戴冠式に参加するために皇宮に向かう。ガクドは馬車の中でため息をつくように声を漏らす。


「リリアンちゃんとの婚約はまだ許してないからな」


「お父様⁈」


 皇宮に到着すると多くの貴族がまだかまだかと待ち遠しく待機している。リリアンたちの姿を見た多くの貴族は少しだけリリアンから距離を取る。全員でリリアンのことを悪者にしたのだから気まずく感じているのだろうと感じる。しかし、一部の貴族たちはリリアンに対して、謝罪をしてくる者たちもいた。

 普通、貴族は謝罪なんてしてこない。貴族としてのプライドがあるためである。それなのにリリアンに謝罪をしてくるあたり、間違っていたことを理解しているのだろうと感じる。もしくはリリアンの持つ力に魅力を感じて、今のうちに仲良くなっておこうとしているかもしれないが、そんな彼らとリリアンは仲良くなろうとは思わない。


「公女様!」


 カーラたちがリリアンに近づくと、リリアンはハンスを見て行ってもいいかとアイコンタクトで聞く。ハンスは頷いて構わないことを伝えるとリリアンはカーラたちと話に行く。

 しばらく話していると、ラッパ音が聞こえてグレンがやってきたことを伝える。リリアンたちは指定の席に向かい座ると壇上に皇帝の王冠と宝珠を持ってやってくる聖女の姿を見る。聖女は体が弱くほとんど姿を見せないと言うのに、今回姿を見せたことに貴族たちは驚きの声をあげる。

 その後にグレンが姿を見せて戴冠式が始まる。聖女は聖油を手に持ち、グレンの手、頭、胸にかけていく。手袋、宝剣、王笏、王杖、指輪を順に渡され、王冠をグレンの頭に乗せられる。


「新たな皇帝よ、この国に平和と栄光を」


 小さく言う聖女は微かに笑っているようにも見える。乗せられた瞬間をした多くの貴族たちは盛大に拍手をグレンに送る。グレンは凛々しい顔で運命を受け入れているような気もする。その後、グレンは新皇帝として帝都を回ることになっている。

 その間、多くの貴族たちは皇宮を見て回ることができるようになり、リリアンは庭を一人で回っている。リリアンの記憶にはあまり無いが、この場所が懐かしくも感じる。幼少期のリリアンの記憶が無いが、この場所に来たかったと思う。


「お一人ですか、公女様?」


 悪寒のする声色にリリアンは恐怖を感じる。リリアンは振り向くことさえ恐怖を感じ、固まってしまう。後ろから抱きつかれるリリアンは思わず押し退く。心臓は破裂しそうなほど心音が聞こえる。抱きついてきたのはあのバンズの姿。


「アルフレッド…公爵様」


「やっぱり愛らしい体になって…♡その体を触らせてくれ!!!」


「いやっ!!!!」


 リリアンは慌ててバンズから逃げる。バンズはその後を追いかけ、リリアンを捕まえようとする。リリアンは一人になるのではなかったと感じる。ウルファはこの皇宮の中に入ることは許されない。今ここでウルファを呼べば、ウルファは斬首刑で処刑されてしまう。

 どうやっても言い訳ができない。リリアンはハンスやガクドたちがいる中央広場に戻ろうとするがその場所への行き方がわからない。道に迷ってしまったリリアンは背後からくるバンズの存在に恐怖を感じる。逃げたリリアンの先は行き止まりで、バンズに捕まる未来が見える。バンズの声が聞こえてきてリリアンは体を震わせて蹲るしかない。


「誰か、助けて」

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