第83話 証拠
リリアンの罪が黒魔法使用だけではなく貴族の大量殺戮の罪まで増えたことにリリアンは動揺が隠せずにいる。
「検察側、以上ですか?」
「はい、以上です」
「では被告人、検察側の証言は本当ですか?」
「いいえ、全くの嘘です」
「嘘ですか?」
「私は貴族の大量虐殺も考えていませんし、魔物を操っていません」
「では、検察側が嘘を言っていると断言しますか?」
「私は嘘を言っていません!!!!」
「検察側は黙るように…!被告人は、断言しますか?」
「はい…」
リリアンは少し詰まりながらだが、断言すると言うことにする。しかしリリアン自身もわかっている、あの力は黒魔法だと言うことは。だが、魔物を操ってはいない。
「では弁護側、証言を」
アドラは席を立つとリリアンの元へ向かう。そっとリリアンに耳打ちをする。
「君が精霊使いだと言うこと、バラしてもいいか?」
「…それで、私が助かるのであれば…」
「ありがとう、それと…君がこの裁判で負けたとしても、必ず俺が守ってやるから」
リリアンは警戒を見せるが、どことなく悪そうなことを考えているようにも見えない。本当の善意だと感じ取れる。
「弁護側、どうしましたか?」
「いいえ、ちょっとだけ…。では弁護を始めます。まず最初に公女様は魔物を操っていません。公女様は魔力を持っていないのですから!」
「魔力は黒魔法の生贄にしたと言ったではありませんか…!」
「その代わり、彼女には精霊使いの力を持っています。彼女の母親、ネイレーンと同じようにね?」
そのことに皇帝は口元を隠しながら笑っているようにも感じれる。リリアンは皇帝を睨む目をする。初めは優しそうな人だと感じていたが、最近は本性を見せてきたのかと思うと憎たらしく感じる。
「そのため、彼女には黒魔法を使うための生贄も、魔力を持ち合わせていないため、今回の騒動は彼女には不可能と言えます」
「そうでしょうか?裁判長!被告人によって攻撃をされた証人を呼んでもよろしいでしょうか?」
「証人ですか?構いません」
ハルサーンは裁判長に一礼をすると証人台にヘリンを立たせる。前より包帯の数が増えているような気もする。リリアンは黒魔法だけであれだけの傷ができるものだろうかと感じてしまう。
「彼女は?」
「皇太子妃、ヘリン・ハシュベクトラ様です。彼女は皇后様と話をしている時に被告人によって攻撃をされております」
「今の話は本当ですか?」
裁判長はヘリンを見つめると彼女は静かに頷く。
「はい、私は皇后様とお話をしている時に、悲鳴が聞こえて外に出てみると、森の方からたくさんの魔物が多くの貴族を襲っていました。戦える者はほとんどが森に入ってしまったので、恐ろしい状況でした。その時に突然体を貫くような痛みが体を駆け巡り、そのまま気を失ってしまいました。気がつくと私は皇宮の病棟で眠っていました。身体中には無数の包帯が付けられており、負傷したのだと感じました。そして…!公女様が、黒魔法で、捕まったと聞きました!ううう…!私は、公女様の黒魔法によって、攻撃されたのだと感じました!!!」
リリアンはあのヘリンが嘘泣きのような反応に、女優として売れるのではと感じれる。周りはヘリンが哀れだと思っているのか同情しているような気もする。今までガン無視していた者たちだと言うのにリリアンは胸底が悪くなる。
「裁判長!被告人によって怪我を負わされている人がいます!!このまま野放しもできません!私の判決では、死刑でも良いのではと思います!」
「お待ち下さい、ノボリウルス伯爵様!!!!死刑はあんまりです…!私は命が危うくなってはいません。殺さない方法の判決をお願いします」
そのことに貴族連中はヘリンの心が広いお方だと感じとっている。なんだかこの会場にいる全ての貴族が、操られているような気配を感じ取る。
「皇太子妃様、なんとお優しい人なのでしょうか…!では裁判長!彼女の爵位を剥奪し、皇族の奴隷にするのはどうでしょうか?まぁ、死ぬ方がよっぽどいいと思うますけどね?」
リリアンは彼ら皇族の目的がリリアンを自分たちのものにすることだと理解する。それだけは絶対に阻止したが、決定的な証拠がどこにもない。リリアンは諦めるしか無いと感じる。
『まだ諦めるにゃ、早いちゃいますか?公女はん?』
リリアンの耳にカリウルの声が聞こえ、後ろを振り向くと勢いよく扉を開けるダンゲルの姿が目に入る。彼の手には巻物のような物を持っているのが見える。
「その判決…!待ってくれ!!!公女様は…黒魔法も、皇太子妃も傷つけちゃ、いねぇ…!!!!」
突然乗り込んでくるダンゲルの姿に多くの貴族たちは動揺と戸惑う声を抑えられなくなっている。ダンゲルは持っている巻物を裁判長に渡し、証言人になるということを話す。しかしここまで急いできてくれた様子で、疲れすぎて声が出せなくなっている。
「証人…大丈夫ですか?水を飲みますか?????」
ダンゲルは頷くと一人のメイドがダンゲルに水を持ってくる。ダンゲルはそれを飲むが、なかなか話せずにいる。その姿に傍観者の貴族たちは退屈し始める。
『こいつ、話せそうにあらへんからおいらが話したる!』
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