第82話 裁判

 リリアンの黒魔法使用の罪で投獄されてから三週間が経過していた。リリアンはその間、リリアンは新しいドレスを着ていたが、裁判の日には捕まった時のドレスを着ることが義務付けられている。ある程度の情報はアルディンを通してリリアンの耳に入っていたが、裁判が始まるまでここまでかかるとは思っていなかったリリアンは、意外だと感じる。一番の意外だったのは弁護人としてカマエルス公爵が入ることだった。

 だが、アルフレッド公爵ではなかったことに安心感を持つ。もしも彼だったら助けてもらったお礼をしなければならない。そのためには彼の領地に入らなければならないとしたら、嫌すぎて発狂しそうになる。

 そして検察官として皇族派であるハルサーン・ノボリウルス伯爵が務めることになっている。女性の伯爵で、法律違反や貴族の殺人などで検察官を務めている。彼女は被告人の骨の髄までしゃぶり尽くすまで追求をやめないと言われているため、油断はできない。


「アルディン、たくさんの情報を入手してくれてありがとう」


「いいえ、このぐらいお安い御用です」


 すると鉄の擦れる音が聞こえ、リリアンはついに裁判が始まることを理解する。ここまで裁判が長引いたことにはリリアンは理解しているつもりでいる。皇族は、リリアンの処刑をすることを拒んでいたが、別の貴族たちは裁判をせずに、リリアンをすぐに処刑するべきだと訴えたりしたため、かなりの時間を要したらしい。

 外で鍵を開けられる音が聞こえ、リリアンは静かに立つ。騎士たちはリリアンの手錠にフックをつけて連行する。アルディンたちは透明化してリリアンについていく。裁判所に入ると多くの貴族たちが座っており、リリアンのことを睨んでいる。その中にはハンスとガクドの姿があり、何もされていないことが目に見える。

 証言台の前に立たされたリリアンは身体中に拘束具を取り付けられて身動きが取れないようにされる。ここまで警戒する必要があるのかとリリアンは感じていると裁判長がガベルを鳴らす。

 リリアンは顔を上に向けると裁判長と目が合う。裁判長は静かに頷き、どういう意味なのかとリリアンは頭を傾げそうになる。


「では、裁判を始める。まずはここにいる証言をする者たちに女神ーラディーラー様に誓いを立ててもらう」


 女神ーラディーラーはこの帝国に居る女神だと言われている。彼女は盲目で、人を見た目で判断しない神様だと言われており、裁判が行われる時には必ず彼女に誓いを立てなければならない。


「被告人、リリアン・ネルベレーテ。そなたは女神ーラディーラー様に誓って嘘偽りも無く真実を述べると誓うか??」


「はい、誓います」


「では検察側、ハルサーン・ノボリウルス伯爵。そなたは女神ーラディーラー様に誓って真実を述べると誓いますか???」


「はい、ハルサーン・ノボリウルス!女神様に誓って嘘偽りもなく、この黒魔女の真実を述べます!!!」


「誰が黒魔女よ…」


 リリアンはぼそっと口を溢すが、聞かれていないと望む。弁護側いるカマエルス公爵を見ていると優しく手を振っている姿に、リリアンは思わず嫌そうな顔をしてしまう。


「では弁護側、アドラ・カマエルス公爵。女神ーラディーラー様に誓って嘘偽りもなく真実を述べることを誓いますか???」


「はい、誓います」


 静かに答えるアドラの様子にリリアンは不安になってくる。その瞬間、ガベルを鳴らす裁判長は裁判を開始することを告げる。


「では、裁判を開始します。では検察側、こんかいの経緯をお話しください」


「はい、では始めさせてもらいます。現場は狩猟大会会場、突然の魔物の鳴き声によって魔物の凶暴化し、多くの貴族が被害に遭いました。その時に被告人を襲おうとした魔物を、黒魔法によって死なせています。表でこのような話になっていますが、事実ではありませんでした」


「どういうことですか??」


「今回の事件はリリアン公女本人が起こした貴族の大量殺戮だったのです!!!」


 ハルサーンはリリアンに指を差して伝える。リリアンは根拠の無い話に思わず目を丸くさせる。


「そう言いますが、ノボリウルス伯爵…そんな根拠の無い話を信じろと言うのですか??」


「根拠はあります。今回の魔物の襲撃は彼女が起こしたものです。魔物には集団で動くことはありません。それなのに集団で動き、多くの貴族を殺害しようとしました」


「ではどうやって彼女は魔法を使ったのですか???彼女は魔法が使えません」


 そのことに裁判所にいる人々は騒ぎ出す。リリアン・ネルベレーテは魔力を持たない人物だと言うことが帝国中に知れ渡ったことになる。


「そんなの、黒魔法を取得する時に生贄にしたに決まっているでしょ?そして彼女の使い魔は悪魔です!」


 どんどん悪い方に進んでいることが理解できるリリアンは別な罪で捕まってしまうのではと感じる。


「こやつら、精霊だという考えはないのかのう…?全く我が君の言う通り、無能ばかりじゃのう…」


「?????」


 アドラは小言で何かを言ったような気がしてリリアンはアドラを見つめる。アドラはリリアンが見つめていることに気づき、優しく手を振ってくる。この裁判で、リリアンは無実の罪で解放されるのかと不安になってくる。

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