第81話 皇族の狙い

 草陰に隠れるように座るイフ、ガクド、爽呪そうじゅ水華すいかは、お互いにこの場所にいる理由を話す。


「ガクド様たちはどうしてここに?」


「俺たちはリリィの無実を証明することと、本物のヘリン令嬢を探しに来たんだ」


「そちらはどうして??」


「公女様が黒魔法を使ったという情報を聞いたので…」


「公女様が黒魔法を使うわけないと思い、会場であるこの場所に来て何か掴めないかと思い、探しに来たのです」


「そうですか、ところでどうやって入ってきたのですか?入り口には兵士がたくさん…」


「下流の方から歩いてきたのです。見張りは入り口だけのようなので…」


 ガクドとイフは普通に入り口から入ってきた自分たちが恥ずかしく感じる。素直に森の中に入っていれば、能力も使わずに行動ができたというのに。水華と爽呪はきょとんとした顔を見せてくる。ガクドはため息をつくと、彼女らと共に行動した方が得られるものが多そうかと思う。

 誕生パーティーで見たあの転送魔法。あれを見ただけで彼らの能力は侮れない。戦闘能力でさえも今ままでの相手とは比べ物にならないだろうとガクドは感じる。


「あの、もしよろしければ…一緒に行動しませんか?」


 水華はそっとイフたちに伝える。ガクドからしたら願ったり叶ったりの状況。だが、少しばかり心を読まれたような気もする。


「確かにいいかもしれませんね。ガクド様、どうでしょうか?手を組むのでしたら、今我々が知っている情報をお話しします」


「ガクド様…」


「……。わかりました、協力します。なので知っている情報を教えてください」


「よかったです。ではお話ししますね」


 水華はにっこり笑うと水華たちが持っている情報を共有する。水華たちは裏ルートで入手した情報、皇族がずっと前から考えていることを話す。皇族はリリアンが産まれた時から目につけており、精霊族の力を自分たちのものにすることを考えていた。そのためネイレーンを狙い、赤子だったリリアンを奪い去ることを計画していたが、ネイレーンの行方を掴めないままリリアンは成長してしまった。

 しかも皇族が手を出せないネルベレーテ公爵の娘になってしまったために余計手が出なくなった。だが、アーサーの婚約者として迎え入れる作戦をとったが、アーサーが勝手に婚約破棄してしまったためにリリアンを手に入れる手段を自分の手で打ち砕いてしまったこととなっている。


「皇族って…バカなんですか?」


「だよね…私たちもこの話を聞いた時…」


「同じように思いました」


 呆れる彼らだが、水華は話を続ける。水華が知っている情報はまだある。皇族はどうやってリリアンを手にいるかと考えた時に狩猟大会のことを思い出す。狩猟大会ではリリアンもやってくる上に連れ込むことも簡単。それにはヘリンが邪魔な存在。だが、皇族が彼女を殺せばどのような批判を浴びるかわからない。そこで誰も知らないところでヘリンを隠し、替え玉を作ることを考えた。


「私たちが知っている情報はここまでよ。これは裏ルートを使って手に入れたから、事実なのかは私にはわからないところです…」


「ほとんど事実でしょうね。そうなると、リリィのあの力はなんだろうか??」


「今、兄様がその情報を探してくれています…しかし裁判までには間に合わないかもしれないと申していたので…ちょっと不安です…」


「できる限り頑張ってもらいましょう」


「ですが、そうなるとみなさんはその本物のヘリンさん探しをしているということでよろしいですか??」


「そうですが、もしかして二人もですか?」


「そうです、一緒に探しましょう!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ギルドにいるダンゲルは少しでもリリアンの情報を模索している。古い書籍などからも探しているが、これと言っていい情報が無い。


「くそっ!!!」


「ダンゲル…見つからへんか???」


「これと言っていい情報がない…どうしたらいいんだ!!!!」


「おいらが見ても、わからへんからな〜〜〜〜」


「お前も何か情報ないのかよ…」


「あらへんよ、あったらちゃんと話すにきまっちょる」


 カリウルは机にあるクッキーを口に入れる。呑気でいるカリウルに冷たい目で見つめるダンゲルは、ため息を漏らす。すると一瞬にして空気が変わる室内に、カリウルとダンゲルは警戒をする。部屋を明るくしていた蝋燭は消え、窓が開かれる。月光と共に黒い人影が姿を見せる。黒髪に赤い瞳孔、その姿はまさしく魔王の面影。


「お前は、魔王ランウェルか…!!!!」


「いかにも…、我こそがこの世の終焉をうたわれし、魔王ランウェルである!!!」


「そんな魔王様が、おいらたちになんのようや…!!!ダンゲルを…殺しに来よったのか⁈」


「いいや、俺は貴様と取引しに来た」


「取引やと…⁈意味わからんことを言いなさんな!!!!」


「カリウル、やめろ」


「だけど…!!!!」


「いいから」


 ダンゲルはランウェルを迎え入れることにして、ソファーに座らせる。お茶を入れるダンゲルの姿を横目にカリウルは警戒を見せる。もしもランウェルがダンゲルを攻撃するようなことがあれば、自分の命と引き換えに守ることを心に誓う。魔王とはいえ、ダンゲルが逃げる時間ぐらいは稼げるといいなと、カリウルは思う。


「どうぞ」


「ありがとう…いい香りだ」


「それで、取引とはなんですか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る