第49話 邪龍の山

 馬小屋まで戻ったリリアンたちは昼食をとり、すぐに出発できるように準備をする。リリアンは乗馬用の服で向かうことする。朱炎しゅうえんたちが来るのを待ちつつ、邪龍がどのような生き物なのかを考える。


「邪龍…討伐か」


「公女様、お待たせしました」


 戦闘服とも呼べる格好にリリアンはその姿を見つめる。彼らの目は覚悟を決めた表情をしている。全ての兵士は戦闘準備ができている。彼らの思いがリリアンに伝わり、息が詰まってしまいそうな空気になっている。

 朱炎は壇上に上がると全兵士に声をかける。その瞬間、全員が目つきがわかる。


「全ての兵士たちよ!!よくぞ集まってくれた!!!これより、邪龍討伐を開始する!!邪龍は我が父、前国王でさえ倒せなかった生物だ!!!!もしかしたらここにいる全ての戦士が死ぬ可能性がある!!!だが、我々には祓いの女神を従える公女様がついている!!!!伝書通りならば、あの邪龍を祓うことができるはずだ!!!!全軍、出撃するぞ!!!!!」


 兵士からは大歓声が上がり、地響きのように大地が揺れ動く。リリアンも腹を括るしかないと感じる。リリアンたちは馬に乗り、兵士たちは邪龍の山に向かう。山の頂上には黒い雲があり、青く光る稲妻が見える。

 今からあの場所に向かうと思うと緊張で心臓がはち切れそうにもなる。リリアンは大きく深呼吸をして気を落ち着かせる。


「大丈夫ですか?」


 隣にピッタリ付くように朱炎は並走して、リリアンのことを心配してくれる。毒で犯されているはずだというのに、元気そうにしている朱炎にリリアンは心配でならない。


「大丈夫です、ご心配ありません」


「そうですか…では疲れたら言ってください、いつでも休憩しますので」


「お気遣い感謝します」


 リリアンは朱炎に笑顔を向けると朱炎は離れていく。リリアンは念話を使ってアルディンを呼ぶ。


「ーアルディン、聞こえる???ー」


「ーはい、主人あるじ様ー」


「ーあのさ、あの朱炎様の毒を解析できたりする???ー」


「ーはい、すぐに解析しますー」


 アルディンは解析をすると、たしかに朱炎の体に毒に侵されているのが解毒することができないでいる。


「ー主人あるじ様。残念ながら難しそうです。今の体ですと、解毒魔法をかけたところで彼女の体が持ちませんー」


「ーそう、ありがとうー」


「ーお力になれず、申し訳ありませんー」


 アルディンと念話を切ると多くの民たちが朱炎たちを見つめている。その中でもリリアンを見つめている人が多くいた。初めて見るような人だからだろうかと思ったが、その全ての人たちが目を輝かせているようにも感じる。

 なぜ全ての人たちが輝かせているのかはいまいちわからないが、一つだけあるとすれば、リリアンのことを女神だと思っているのだろうと感じる。

 リリアンは軽く手を振るとほとんどの人がリリアンに向かって笑顔で手を振りかえしてくれる。中には祈りを捧げている人もおり、リリアンは神様になったような感じもする。

 リリアンたちが門の前に立つと門番が門を開けてくれる。すると全ての人たちが歓声を上げる。邪龍を討伐するリリアンたちに無事に帰ってくるように大声を上げる者もいる。


「なんだか、照れくさいですね…」


「それだけ、我々に期待してくれているのです。公女様、成し遂げましょう!」


「はい、水華すいか様」


 水華は嬉しそうな顔をすると前進し始める。しばらく山を登ると朱炎は休息を取るようにいう。兵士たちはテントを張るとリリアンはその中に入るようにいう。朱炎と水華は作戦会議をするといいテントから離れてしまう。

 飲み物を飲んで待っていると突然真横から気配を感じ、そちらを見ると大剣を持った青年が座っている。驚きすぎて声が出ないリリアンは、口が魚のように口がパクパクしてしまう。彼もリリアンが見ていることに気がつくと少しだけ驚いた表情をしている。


「ごめんね、驚かせちゃったか」


「いいえ、別に…」


「すごい驚いてるじゃんw君、名前は??」


「リ、リリアン…リリアン・ネルベレーテです」


「ふ〜ん、俺はランベル。この国の騎士の一人だよ」


「ところで、どうしてここに????いつから居たのですか????」


 リリアンは驚きを隠せずにいる。リリアンはテントの出入り口を見つめていたため、誰かが入ってこれば、すぐに気がつくはず。それなのに彼は平然と座っていた。だが、この国は魔法があるため、もしかしたら転送でこの部屋に入ってきたのだろうと勝手に解釈する。


「勝手に入ってきてごめんね、ちょっと転送で入ってきたんだよ」


「そうですか…」


「邪龍討伐、うまくいくといいな。前は失敗しちゃったからさ…」


「あなたは前にも???」


「ああ、でもなんとかここにいるよ。あいつの雷撃はやばい。喰らったら骨も残らないよ」


「そんな恐ろしい体験をしているのに、よく来ましたね」


「俺だって怖いさ、だけど…がいくと決めたら、腹を括るしか無いだろう」


 覚悟を決めている顔をするランベルにリリアンは恐怖を覚える。ランベルは立ち上がるとテントの外に出ていく。


「またテントを張ったら、話に付き合ってくれ。君との話、もっとしたいからさ」

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