第44話 リリアンを呼んだ理由
リリアンと
前世で何度も見ていた風景にふと懐かしさをリリアンは感じる。じっと見ているリリアンの姿が目に入った朱炎はリリアンの横に立つ。
「桜、お好きなんですか?」
「えっ…この木は『桜』なんですか??」
「あ、公女様の地方にはこのようなものはありませんものね。もしよろしければ、桜の植木を持ち帰りますか??」
「良いのですか⁈」
リリアンは思わず嬉しくなってしまい、朱炎に近寄ってしまう。朱炎は動揺した様子を見せて後退りするが、一度咳払いをして余裕な振る舞いを見せる。グレンに続いて子供みたいな態度をとってしまい、リリアンは思わず顔が赤くなるのを感じる。
「す、すみません…」
「か、か、構いませんよ…。桜、大切に育ててくださいね」
笑って誤魔化す朱炎にリリアンは申し訳なさでいっぱいになる。食堂にやってくると二人分の食事が用意されている。
「我が君、朱炎様。おはようございます。お食事の準備は整っています。公女様もどうぞ」
「いつも助かるよ。公女様、紹介します。ボクの専属使用人でありボクの右腕、
「お初にお目にかかります公女様」
褐色の肌に赤のメッシュがあるクリーム色の髪。この国の人たちとは違う姿にリリアンは驚く。前世でも黒人がいるぐらいだからこの世界でもそういう人が居るのはわかっていたが、いざ目の前に現れるとなんと言って良いのかがわからない。
「あ、こういう人が居るのに驚かせてしまいましたか?この東国では彼のようにこの国とは別の人種がいます。公女様のような人やボクのように黄色っぽい肌の色をした人も」
「そうなんですか…知りませんでした…」
「その割には、見たことあるような言い方ですね。公女様はもしや知っていたのでは??」
「そ、そんなことは…!!」
「失礼しました、今は食事にしましょう。そのあとはこの屋敷内を回りましょう。爽呪、付いてきてくれますね?」
「もちろんです、我が君」
リリアンは席につくと和食を彩る食事が用意されている。この世界で和食のような食事を取れるのは嬉しい。
「そういえば、公女様の国では箸…棒のような食器は使わないですよね?すみません気が付かずに」
朱炎は指を鳴らすとすぐにメイドたちが食器を取り換えていく。リリアンは別に使えると思ったが、それは前世の話、今ではうまく持てないかもしれない。
リリアンはナイフとフォークを使って魚を食べていく。魚を食べているリリアンの姿を見て朱炎は嬉しそうに見ている。見られていることにリリアンは恥ずかしさを感じて、思わず手が止まってしまう。
「なんでしょうか?」
「いいえ、失礼しました。ただ、魚を食べるのが好きなのかなって思いまして」
「いけませんか??」
「いいえ、ところで…公女様は生の魚を食べたことありますでしょうか??」
「ありませんが…」
「では、本日の昼食には生の魚をお願いしましょう。ボクも食べたくなってきましたので」
「あまり、お召し上がらないのですか?生の魚を」
「ええ、いつも同じような魚なので」
「そうなんですか…」
リリアンは前世で食べた魚のことを考える。歴史では昔の人は生の魚を食べるという習慣があまりない。カツオのたたきがいい例になる。たしか市民はカツオの刺身を生で食べていたが、それは市民だけで、殿様などのお偉い人は食あたりを恐れて生の魚を食べることはしなかった。だが、市民たちにも食あたりになってもらうのは困るため、殿様は市民の人たちに生で食べるのを止めさせたという。しかしほとんどの市民はカツオは生で食べたいと考え、表面だけ炙って焼いたことにして食べていたらしい。
それと同じように、市民である人達は良くても国の上に立つ人が生の魚を食べることは避けたい。使用人たちも本当に安全だと分からない限り、盟主である朱炎に生の魚を食べさせる訳にはいかないと考えているのだろう。リリアンは爽呪を見つめると彼はそっとよそ見をする。
「それじゃあ、まずは公女様の光の精霊について伝えておきたいことがあります。公女様からだと光の精霊はただの光の上級精霊だと思いますが、ボクらからだとその精霊は祓いの女神だと言われています」
「祓いの女神…」
精霊のことについても詳しくないが、そのような話はどこにも乗っていない。この東国のみにしか回っていない伝承なのだろう。
「ネイレーン…本当は彼女にお願いする予定でした。しかし、何者かの手によって殺されており、どうすることもできずにいました…」
「それで、私がどうしてアルディンを連れているのをわかったのですか…?」
「気配ですよ、ボクにしかわからない気配を感じましたので」
「気配ですか?」
「はい」
リリアンたちは食事を終わると二人である場所へ向かう。そこは一人の男が剣を振るっている。しかしその姿は騎士のように剣を振るっているのでは無く、舞を踊るように動いているようにも感じる。
青年は二人に気がつくと稽古をやめて敬礼を見せる。朱炎はそれを止めるように言うが、決まりだと言って朱炎をからかう。
「えっと、公女様。彼は我が弟…いや妹か。ボクと血を分けた兄妹です」
「初めまして公女様。
「初めまして、リリアン・ネルベレーテです」
リリアンのことを見つめる水華はどことなく希望の光を見るような目をしている。その瞳にリリアンは待ち焦がれていたのだと感じる。
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