第四章 東国編

第43話 東国  

 翌朝、ネルベレーテ公爵邸は大騒動が起こった。みんなが目覚めた時に、部屋にリリアンの姿が無い。だが、何者かが侵入した形跡が少しも無い。


「公爵様!!!!どこにもお嬢様の姿がありません!!!!」


「もう一回探せ!!!!きっとどこかにいるはずだ!!!!」


「親父!!!!庭にもいない!!!!!」


「お嬢様…!!!!お嬢様!!!!」


「公女様!!!!!」


 使用人総出で捜索しても姿を見せないリリアンにウルファは自分が情けなく感じる。リリアンに認められて専属騎士を務めたと言うのに、こう言う時こそ、自分の失態だと言うのに。


「公女様…一体どこへ…」


 すると突然の訪問者にガクドは頭をかきながら迎えると扉の前にはギルを連れたダンゲルの姿がある。


「すまない、今立て込んでいて…」


「わかっています…だがギルが…」


 ギルの姿を見たガクドはふたりを入れることにする。ダンゲルに事情を説明するとダンゲルはそれを知っていたかのような反応を見せる。


「あまり言いたくないが、ギルにはちょっと特殊な力があるんだよな…」


 ギルはダンゲルから離れるとリリアンの部屋まで向かう。ギルは鼻を動かすと痕跡魔法をかける。すると魔法の痕跡が地面に現れる。


「ダンゲルにいちゃん…!リリアンおねえちゃん、なんか拐われたみたい」


「マジかよ!!!!誰なんだよ!!!!」


「このかんじ、ふるいまほーだから、たぶんね、東国!!!」


「「なんだと!!!!!」」


「向こうで、なにかあったみたいだよ」


「そこまでわかるのかよ…」


「ギルには特殊な力があるって言っただろ??」


「マジか…」


 ギルの目には何かわからない力が発動しているのは、すぐにわかる。こんなに小さな体で自分たちでも知り得ない力があるのに、ガクドは驚きを隠せずにいる。


ーーーーーーーーーー


 連れ拐われたリリアンは鳥の鳴き声が耳に入ってきて薄らと目を覚ます。どこかで女性と男の人が会話をしているのかがわかるが、誰なのかはわからない。


「ーこれは…誰の声????聞き覚えのない声。これは、リリアンの記憶かしら??ー」


 しかし足音がリリアンの元へ近づいているのがわかると思わず目を閉じる。その人はリリアンの髪を撫でると少しだけ離れた場所に座ったのかがわかる。


「公女さん、目が覚めているのはわかっています」


 優しい女性の声で言われると騙せないとわかる。リリアンは彼女を見つめると美しい銀色の髪が風で靡いて美しさを際立たせている。


「あなたは誰なの??」


「ボクですか???…あぁ、の姿では初めましてですね。ボクは君を誘拐した朱炎しゅうえんです」


「はい????!!!!!!」


 リリアンは体を起こすと着物のような服を着ていることに驚いてしまう。いつの間に着替えさせられたのかが不思議だが、不思議と着心地が良い。


「驚かせてすみません。まずはボクのことを説明させてください」


 朱炎はリリアンに女の姿をしていることを説明してくれる。彼女たち王族は邪龍の呪いによって東国内では女の姿、東国外では男の姿をしてしまう呪いにかけられているらしい。その呪いはこの東国ができる前の話。

 この島に、ある女性が暮らしていた。彼女はある男性に恋をした。男も両思いで二人は夫婦になったが、その男は彼女とは別の女性と恋をし、その女に子供を作らせたと言う。そのことに彼女は泣きながらその男に理由を聞いたら、男は『お前を抱きたいと思わない!!』と彼女をつき放ち、どうしても一緒にいたいと言うのなら、下女として側にいるように言ってきた。

 しかし子供を作らせた娘は、下女としている彼女がよく思わず、彼女に酷い嫌がらせをしていた。少しでも彼女に反発しようものなら男に言って拷問をされた。その男はその拷問に快楽を持ってしまい、拷問狂になってしまった。酷い拷問の末、下女として働いていた彼女は命を落としてしまう。

 彼女は愛されなかったことに激怒し、悪しき邪龍になってしまい、その島に住む全ての人に闇の粉を振らせ、多くの者を死へ変えてしまった。そんな時に姿を見せたのは大賢者と呼ばれる男。激闘の末、邪龍は封じ込めるのに成功した。しかし邪龍の最後の力で大賢者にある呪いをかけてしまった。それが、この島では女の姿、外では男の姿になる呪いだった。


「そしてその賢者はこの島で国を作ったという。その子孫がこのボクなんだ」


 にっこり笑って言う朱炎にリリアンはまだ理解ができない。だが、その男のことを許せない自分もいる。


「理解してくれましたか??」


「なんとなく…ですね。ですが、私をここに呼んだ理由がわかりません」


「それは、先ほど話に出た邪龍を祓うことです」


「邪龍を祓う?!どこにいるのかがわかっているのですか???」


「はい、ここから見える1番高い山の上です。わかりましたか?精霊使いの公女様?」


「私が精霊使いだと知っているのですか⁈」


 リリアンはここまで調べが付いていることに驚きを隠せない。このまま大人しくして居なければ、帰してくれる気はない。リリアンは朱炎の要求を飲むことにする。


「わかったわ、私は何をすればいいの??」


「要件を話す前に、まずは食事にしましょう。お腹空きましたでしょう?」


 朱炎は話を逸らすように食事をするように言ってくる。リリアンは仕方が無く、食事をすることにする。

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