第42話 誘拐
ハンスとガクドは驚いた表情をしているがリリアンは素直に頷き、アルディンを呼び出す。彼女の力に人の記憶を見せることができる。リリアンはそれを二人に見せる。その映像にはギルを抱えた母親の姿。
その瞳にハンスは違和感を感じる。グレンから見せてもらった彼女の姿。見た目は似ているが、瞳の色が違う。見せてもらった瞳は血の様に赤かったが、リリアンが見せてくれる映像のギルの母親の瞳は黄緑色。
「お父様、ギルの母親だという人とこの記憶にある母親、本当に同一人物でしょうか?」
「皇太子様に見せてもらった姿と記憶にある彼女の姿…見た目は一緒だが瞳の色が違う」
「それでは!!!」
「ニセモノの可能性が出てきた。リリアン、協力に感謝する」
ハンスは速達でグレンに手紙を送る。皇宮に届いたハンスからの手紙にグレンは顔を顰めてしまう。今自分の部屋に居る彼女、ギルの母親を名乗るシルフィンはギルを今か今かと待っている。
「あの、シルフィンさん」
「はい、何でしょうか?」
「一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「はい」
シルフィンはグレンを見つめるとその瞳に違和感がある。初めは何も思っていなかったが、よく見ると悪魔が持っている瞳とよく似ている。
「シルフィンさんは、息子さんと暮らしていた時に、どこで暮らしていたのでしょうか?」
「当時は…ここから少し離れた深い森の中で夫と息子、三人で暮らしていました」
「ほかの一族は???」
「彼らには…除け者にされてしまい…」
彼女の言葉にグレンは違和感を覚える。獣人族は幻獣種を絶対に除け者にしない。人間に狙われる立場であり、強靭な力を持っているため除け者にしない。人間に襲われたら、彼らの力で打ち勝つことができるためである。それなのに、彼らを除け者にする方がおかしい。
グレンは彼女にとある魔法をかける。それは祓いの魔法。悪魔が取りつかれているとしたら、この力に反応するはず。それを賭けると彼女は悲鳴を上げる。彼女の身体は皮のように引きちぎれ、悪魔が姿を見せる。グレンは業火の炎で悪魔を焼き尽くすと灰のみが降ってくる。
「危うく、あの獣人を影の手の者に上げるところだった…」
「グレン様?何か…何ですかこれ⁈」
「彼女は偽物だった…危うく奴らの手に乗るところだったよ」
「危なかったですね…」
「ベンゼル、明日の昼頃に公爵家に向かう。彼らに感謝しなければならない」
「リリアン公女に会いにですか~?いい加減告白でもしたらどうですか?」
ベンゼルの言葉にグレンは顔が赤くなるのを感じる。彼女に恋をしていると分かったのはアカデミーで再開した時だった。少しでも彼女に気に入られるようにしてきたが、思うようにいかずにいた。
「お前は黙ってろ!!」
「了解ですよ~。でも、早めに告白しないと、公女様…この帝国出て行ってしまうかもしれませんよ?」
「どういう意味だ…?」
「なんでも、公女様に東国の王子にラブレターが届いたらしいので」
「……」
ベンゼルがそう話すとグレンは持っていたカップを落としてしまう。その情報が知らなかったためにグレンは顔が青くなっている。
「あれ…知らなかったのですか???????」
「みょ…明朝に公爵家に急ぐぞ…!!!!!!!」
「りょ、了解です!!!!!!!!」
グレンの声は皇宮に響き渡り、誰もが驚いていたことはリリアンは知らずにいた。
ーーーーーーーーーー
グレンが焦っていることすら知らないリリアンは、一人で庭でお茶を嗜んでいた。
「やっぱりメリーが入れてくれた紅茶はおいしいね」
「ありがとうございます!!お嬢様!!」
「ウルファはいいの???」
「自分は護衛という仕事がありますので」
リリアンはカップケーキを取るとウルファに渡す。そのカップケーキに受け取るか悩んでいるとリリアンは口元までもっていく。
「ほら、おいしいよ。それに、カップなら持ちながら食べれるでしょ??」
「で、では…頂きます…。…!!!!!何ですかこれ!!おいしいです!!」
「よかった。メリーも食べて」
「いいんですか???では遠慮なく」
メリーはクッキーを食べると嬉しそうににっこにっこで食べている。できるのなら、昔もこんな感じに食べることができたらと感じる。
その日の特に予定もなく、リリアンは眠りに着く。しかしすぐに眠れずにベッドの上でボーッとしている。
「なんか、眠れないな」
リリアンは少し夜風に当たろうと立ち上がると窓の方から視線を感じて見つめると突然窓が開かれる。リリアンは驚いて後ろに後退すると誰かにぶつかる。
振り返ると片目を髪の毛で隠した銀髪の青年が立っており、その目はリリアンのことを見つめている。
「あなた…誰なの???」
「初めまして、リリアン様。なかなか返事がもらえないので、直接参りました」
「直接って…あなたはもしかして東国の…!」
「はい、東国の盟主…
「ここをどこだと思っているのですか???」
「キャルぺローン帝国ですよね??そして、ネルベレーテ公爵の家で間違いありませんよね??」
「そうです…」
リリアンは彼が東国の盟主だと偽り、この場所に来ていると思っていたが、間違いは無いらしい。だが、それがわかっていてこの屋敷に居るのは理由がわからない。
「私が叫べば、みんなやってきますよ」
「残念ですが、それはしないでいただきたい。こちらも、時間がありませんので」
朱炎はリリアンに魔法をかけると突然眠気がやってくる。彼の言った時間とはどう言う意味なのだろうか。人知れず、誘拐されてしまうことに、リリアンは絶望を感じる。
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