第21話 ゴールドダイヤ
思いっきり泣いたリリアンは満足したように大人しくなる。
「落ち着いたか?」
「お兄様、ごめんなさい」
「何謝っているんだよ!俺が泣くように言ったんだからよ」
「…。お兄様にだけ話します。私は、魔法が使えません」
「そんなの、初めから知っているよ」
「えっ…!知っていたのですか⁈」
「親父が言っていたんだよ。お前が呼び出した使い魔が精霊だってことはな。親父は言っていたよ、『お母さんそっくりだ』って」
「お母さんと…」
「リリィ、記憶が戻っても今回のことは忘れないでくれよ?」
リリアンは少し寂しく感じる。今のリリアンが過去のリリアンとは別の存在。ガクドに話すべきかと思ったが、話したところで理解してくれるとは思えない。もしかしたらリリアンのことを捨ててしまうかもしれないと思ってしまう。
「忘れませんよ、こんなに優しいお兄様のことは、絶対に忘れません」
リリアンは笑顔で嘘をつく。きっと昔のリリアンに戻って仕舞えば、このことは忘れて悪女のように振る舞うだろう。誰からも、傷つけられないようにするために。
ーーーーーーーーーー
リリアンとガクドはアカデミーに戻ると、リリアンを部屋に戻す。ゆっくり部屋の中に降りると、夢のような時間の終わりを告げる。
「あ、ところでお兄様、どうして私のところに来てくれたのですか?」
「ああ、お前がアカデミーに向かう前に渡したそのピアス、実はすごい貴重なものでな。ゴールドダイヤって言って、滅多に手に入らないもなんだ。それに俺の暗示を掛けたんだ。リリィの感情を読み取るようにって」
「私の…感情」
「お前がなにか嫌な目に遭った時に、俺にすぐに伝達が行くようにさ。嫌だったら、解除するけど…」
ガクドは少し寂しそうな顔をすると、子犬のように見えてきたリリアンは首を横に振る。するとガクドはパッっと顔が明るくなる。犬の尻尾があったら、大きく尻尾を振っているだろうと思う。
ガクドはリリアンの手の甲にキスをするとリリアンの前から姿を消して上空に飛び去っていく。静かになった部屋からは優しく大きな風が部屋の中を包み込んでくる。その風が、リリアンは一人では無いと感じる。また、ガクドが助けてくれると感じる。
翌朝、リリアンは身支度を整えてグレンの元へ急ぐ。パーティーのパートナーとして許可するために、急足でグレンの元へ向かう。
「グレン様!!!」
グレンは振り向くと嬉しそうな顔をする。走ってきたためリリアンは息を切らした状態でグレンを見る。大きく深呼吸をしてグレンに返答をする。
「公女様、こんな朝早くからお顔を見れるなんて、俺はなんと運がいいのだ」
「あの…!パーティーのパートナー、私でいいのでしたら…!喜んでお受けいたします!!!」
リリアンの返答にグレンは少し驚いた顔をするが、すぐに嬉しそうに笑顔を見せる。悪女と呼ばれていても、信用してくれる人がいるなら、彼らに縋りたい。他の人たちのことなんて関係ない、今はこの幸せを味わっていきたい。
「よかった、君がそう言ってくれて助かるよ。それじゃあ、当日のパーティーで着てほしいドレスを注文しよう」
「え…」
グレンの予想外の返答にリリアンは目が丸くなる。グレンが選んだドレスをリリアンが着る。いくらなんでもそれはないと思っていたリリアンは大量の宝石が付いたドレスでは無いことを望んでしまう。
その日の授業は比較的誰かに絡まれることは無かった。カーラとベンゼルのおかげと言えるほど。彼らが目を光らせてリリアンを守ってくれている。しかし一つ問題がある。それはキャラの名前で出したギルドマスターのこと。彼のことは少しも出てきていない。
物語自体は繋がっていないが、どのような形で出てきたのだろうかと思い出そうとするが、頭の中に出てこない。ギルドマスターと言っているが裏では凄腕の情報屋。リリアンの敵でも味方でも無いやつ。一体どこで知り合ったのだろうか。
「公女様…!授業終わりましたよ」
「えっ⁈」
リリアンはギルドマスターのことを考えていたら、いつも間にやら授業が終わっている。今日の内容をメモをするのを忘れたリリアンはどうするかを悩んでいるとベンゼルはそっとノートを見せてくれる。
「よろしければ、写しますか?」
「ありがとう、ベンゼル」
リリアンはそのノートを借りて今日の授業の内容を写していく。秋にかけて冷たい風が教室に流れ込んでくる。その風はどこかガクドが起こした風とよく似ている。
「公女様、グレン様のパートナーとなってくださりありがとうございます」
「えっ…そんな!私もこんな悪女と呼ばれる私をパートナーに選んでくれて嬉しく思います。誰も一緒に行ってくれる人はいませんので…。なので許可をしたのです。でも、少し悩みましたけど…」
リリアンははにかみ笑いを見せるとベンゼルはそっと笑顔になっている。なぜここまでリリアンを気にしてくれているのかがわからない。グレンもそうだ、なぜ彼らはここまで気にしてくれているのだろう。その時に少しだけ疑惑を感じる。
彼らは、想像で造った時に、存在していない者たちだと言うこと。
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