第18話 友だち

 皇帝からのお達し、それは時期皇帝がアーサーでは無くなったと言うこと。どうやらリリアンとの婚約破棄が原因らしい。皇帝はリリアンの父、ハンスの持つ力を求めているらしい。ハンスの持つ魔力は底を知れない。

 リリアンが皇太子妃になるとハンスも自分の手の中になると思っていたらしい。しかしアーサーが誕生パーティーの時にリリアンとの婚約を破棄してしまい、もう一度やり直す方向に向かった。


「要するに、長男で才能を掛けて選ばれたのではなく、公女様のおかげで時期皇帝になれたっと言うことですよ。残念でしたね、今度は…自分の力で頑張ってください」


 ベンゼルはそれだけ言うとアーサーから手を離してもらう。アーサーはリリアンのことを睨むが、リリアンはアーサーから目線を離す。昨日受けた苦しさが胸を締め付けてくる。この痛みがアーサーから受けた恐怖だということが、リリアンはすぐにわかる。


「公女様、もしよろしければ…今日のお昼、共にしませんか?」


「え…でも」


「いいじゃないですか!僕、公女様と仲良くなりたいので。もちろん『公女』ではなく」


 リリアンはそんなことを言ってくれる人がいなかったため、喜んで了承する。ベンゼルはガッツポーズをするとリリアンの良き友達になってくれるのではと思ってしまう。しかしまだ信用はできない。これが、罠の可能性も捨てられない。

 授業が始まるとアーサーはヘリンと一緒に勉強をしているがリリアンのことをチラチラと見てきている。リリアンは目を合わせないようにしているとベンゼルが見せないように隠してくれて気軽に授業を受けることができる。

 昼食前にリリアンはお手洗いを済ませるとベンゼルの姿を目に捉える。その後を追いかけると誰かと話しているベンゼルの声が聞こえる。盗み聞きする気は無かったが、聞こえてくる声はグレンの声だと認識する。


「ベンゼル、俺は宣戦布告をしてこいとは言っていないぞ」


「え〜…そのぐらい言わないと、あいつその気にならないじゃないですか〜」


「限度というものがあるだろう…」


「でも、公女様可哀想だよ。あんなやつに心も体もボロボロにされて…」


「だが、彼女は記憶が無い。まだそれが好都合だろう…。記憶があったら恐怖で学校にこれらないどころが、俺らが手を出せなかっただろう」


「でも!!あんなの酷すぎるよ!本当にアーサーが皇帝になったら!!これからの未来も…公女様の未来も全部無くなるところだったよ…」


「それもそうだな…。ところで、公女はどこだ?」


「あ、置いてきちゃった…」


「あほ!!!」


 グレンはベンゼルをヘッドロックするとベンゼルから悲鳴が聞こえてくる。リリアンは少しだけ顔を出すとベンゼルと目が合う。


「あ!公女様!!!助けて!!!!」


「えっと…」


「助けなくていい。悪いのは全部こいつだ」


「酷いっすよ!!!!」


 抵抗するベンゼルだが、グレンからのヘッドロックは外れることが無い。大人しくなったベンゼルは地面に横たわっていると、グレンはリリアンの手を取る。


「ここまで来てくれてありがとう、さぁ、行こう公女様」


「えっと…」


「置いていかないでくださいっすよ〜」


「お前はその辺で食べろ」


「ひっど!!!」


 何でも無いやりとりにリリアンは思わずくすくす笑ってしまう。リリアンの笑顔を見たグレンはホッと一安心しているような感じがする。しかしベンゼルに食事に誘われたはずだと言うのに、彼を置いていくこととなってしまった。


「よかった、やっと笑顔を見ることができた」


「え…」


「ずっと笑うことがなかったから、心配していたんだ」


 リリアンはアカデミーに来てから心から笑うことができなかった。しかし彼らと一緒なら、笑うこともできるかも知れない。

 連れていかれたのは学園の食堂。しかし奥にある個室に案内される。リリアンはアカデミーにこのような場所があるとは思っておらず、周りを見渡す。

 窓から見える庭園に美しさを感じ、公爵家の庭園を連想させる。二人だけが座ることのできる椅子に誘導され、リリアンはその椅子に座る。そしてグレンも座るとメイドが食事を運んで来てくれる。コース料理で、もてなされるリリアンは全ての物が美味しく感じる。


「グレン様、ありがとうございます。こんなに素晴らしい食事は初めてです」


「それはよかった。それで公女様、お願いがあります」


「お願い?」


 リリアンは思わず身構える。これだけ素晴らしい食事を設けてもらい、何も対価なしで通る話ではない。身構えているリリアンを見てグレンは少しだけ笑ってしまう。


「そんなに身構える必要は無いよ。ただ、来月に行われるアカデミーのパーティーにパートナーとして出席してもらいたい」


 アカデミーのパーティー、それはこのアカデミーをお造りになったメルディーナ様に感謝を伝えるパーティー。勉強をする場がなかった当時の帝国に、これからのことを不安に思ったメルディーナ様はこのアカデミーを造られた。メルディーナは初代皇帝の妻であり、二代目皇帝になられた素晴らしいお方。そのパーティーにグレンのパートナーになるなんて、思ってもいなかったこと。

 このままお断りするのは、パートナーがいないリリアンにとって痛いこと。お受けするがどうか悩む。


「別にすぐに答えが欲しい訳ではない。ゆっくり考えてくれ」

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