第17話 友情を

 メリーからもらった夕食を済ませてリリアンは眠りに着く。その日はとある夢を見た。これはリリアン本人の記憶だと思われる。

 学園でリリアンは可笑しな踊りをさせられている。それはアーサーが皇族の力を使って無理やり踊らされている。生徒たちはその姿を見て笑いこけている。恥じらいと今すぐに泣いてしまいたいほどの苦しさにアーサーに『止めてほしい』と訴えるが彼は笑ってリリアンの動きを止めて、サンドバックにする。バレないように顔を避けて腹や足にあざが残ってしまうかのように殴り続ける。

 教員にバレそうになると近くにあった植木鉢を取らせてそれを割らせる。リリアンは自分から悪いことをしていたわけではなく、アーサーによって操られていたことが分かる。そして全ての学生はそれに関与している。

 その日夜、リリアンは泣きながら自分の部屋で言い訳を作っていた。父親がくれた大好きなウサギのぬいぐるみを持って。


『私は、何もしていません!アーサーが無理やりやらせたのです!どうして信じてくれないのですか⁈私が、悪者なのですか⁈私が、悪女になれば、みんないじめてこなくなりますか????誰か、教えてください!!!』


 目を覚ましたリリアンは目と鼻が熱くなり泣いていたのが分かる。ゆっくり起き上がるとイフが心配してリリアンのことを見ている。


主人あるじ…大丈夫ですか?悪い夢を見ていましたか??」


「イフ…あなたって私の命令以外でも姿見せれるんだね…」


「はい…黙っていてすみません」


「いいの…」


 リリアンは鏡の前に向かうと突然服を脱ぎ出しイフは声にならない声を上げて慌てて後ろに振り替える。イフのその行動にリリアンは思わず笑ってしまう。

 リリアンの身体には無数の殴られた跡が薄く残っている。リリアンは今まで誰にも助けを求めることができなかった。彼女が悪女になってしまったのは、これが原因だったのかもしれない。

 前世の時にはそんなことなかった。そんな残酷な物語にはしていない。リリアンは元からの悪逆非道な悪女。そういう設定だったが、この世界は莉里亜が思っているほど、簡単な世界では無いということを再確認する。


主人あるじ、急に服を脱いでどうしましたか?」


「ただ、少し気になることがあっただけ。私の体にある、このアザの意味を」


「アザ…ですか?」


 リリアンはこのアザの意味を知ると辛く、胸が苦しくなる。誰かに助けを求めようとしても、全員アーサーの味方。リリアンのことをただの悪女だと言い、全員見てみぬふりをされる。こんなに胸が苦しくなるまで耐え続けたリリアンが立派に見えてくる。

 誰かに愛されることがなかった彼女に、唯一助けて貰えると思った父親にも見放されて、どれほど苦しかったのだろうか。


「ーリリアン、絶対に幸せになろうね。あんな皇太子に、全てを奪われてたまるか!!ー」


ーーーーーーーー


 翌朝、リリアンはいつものようにメリーに髪を整えてもらい、美しい金髪を風になびかせながら、教室に向かう。いつもの席に着くと全員がリリアンを睨むような目線を送ってくる。全員がリリアンの敵だと認識すると、莉里亜の頃を思い出す。

 莉里亜の頃は全員が自分が標的にならないように「助けを求めるな」と圧をかけるような目線を感じていた。

 リリアンはあの頃と変わらないと感じる。誰にも助けてもらうなんて考えていない。全員が、リリアンを嘲笑った者たちなのだから。


「よっと!お隣失礼」


 リリアンの隣に座る群青色の短髪青年はリリアンに向かって笑いかける。リリアンは思わず驚いた表情をしてしまう。

 リリアンの悪名を知らないのかと思ってしまうほど清々しいほどの笑顔を向けてくる彼はリリアンのことを見つめてくる。


「初めまして公女様、僕はベンゼル。ベンゼル・ハナボルド。ハナボルト侯爵の息子です。よろしくね」


「ど、どうも…。ところでどうしてここに?」


「僕??いや、元々僕はこのクラスの人間だよ⁈まぁ、第二皇太子の秘書なんだけどね」


「第二皇太子の…」


 リリアンは昨日助けてくれたグレンのことを思い出す。彼はどことなく、リリアンのことを気にしてくれている。周りから悪女と呼ばれると言うのに、なぜなのだろうか。


「しかし、ここのクラスは酷い奴らだな!!まるで公女様が悪者だ!」


 ベンゼルはわざと大きな声で言いふらすように声を出す。そのことに周りはリリアンから目線を外す。


「可哀想な公女様!嘘でできた噂で悪女呼びするなんて!僕はちゃんと見てたんだよ〜ヘリン嬢が勝手に公女様の前で派手に転んで、公女様のせいで怪我をしたと言いふらされてさ!第一皇太子もそうだ!全てを公女様のせいにして!第一皇太子が自分から公女様に告白したくせに!とんだ浮気者だ!!」


 すると教室にやってきたアーサーは顔を真っ赤にしてベンゼルと喧嘩をしそうな勢いにやってくる。


「貴様…!!時期皇帝によくそんな口が聞けるな!!!」


「俺はただ単に、事実を言っていただけですよ〜アーサー様。もしかして、図星ですか〜?」


 煽るように言うベンゼルにアーサーは彼を殴ろうとする勢いで胸ぐらを掴む。リリアンはこれ以上大ごとになって欲しくなくて、二人を話そうとする。


「それと、アーサー様…時期皇帝になるの…やり直すことになったみたいですよ?皇帝陛下からのお達しです」


「何っ???!!!」

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