第15話 男爵令嬢

 リリアンは普通に教室に入るとスーツの男から教えてもらった机に向かう。窓側の一番端っこの席。ちょうど日向ぼっこにいい席。全員がビビり散らしているのを見てリリアンは本当に恐れられているとわかる。


「あら!リリアンさん!お久しぶりですね!!!」


 声をかけてきたのは茶髪の貴族的な態度の娘。誰なのかわからず頭に『?』文字が浮かぶ。彼女はリリアンがわかっていなところを見てイラつきを見せる。


「もしかして、わからないとは言わないでくださいよ??」


「あの、噂で聞いていないのですか?私は記憶喪失で、今誰なのかわからないでいるのです。なので私のことは初対面だと思ってください」


「これは…失礼しましたわ!わたくしはヘルミーナと申します!エンブリラ伯爵の娘ですわ」


「エンブリラ伯爵令嬢ですか、よろしくお願いします」


 リリアンのその態度に彼女の背後にいる彼女たちはくすくす笑い始める。


「リリアン嬢、あなたには貴族としての自覚がないのでしょうか?」


「どういう意味ですか?」


「貴族の娘でしたら、貴族の名前と顔を覚えるべきだということです」


 リリアンは彼女たちを見て胸の内が痛く感じる。彼女たちはリリアンのことを馬鹿にしてきた貴族たちだということを。見下すその姿、リリアンは昔の彼女たちと重なって見える。昔は家族のことを気にして反抗する気が無かったが、今は違う。今は公爵の令嬢、馬鹿にするのは公爵を侮辱と同じ。


「では、皆様は全ての貴族の名前と顔もわかるということですよね?」


「っ!!!」


「私が昔のように反抗しないと思ってしましたか?昔は皇太子様を気にしてしてきませんでしたが、もう抵抗をしません。今すぐにここで述べてください。全ての貴族の名前と顔を」


「そ、それは…」


「あら、いえないのですか?記憶のない私に覚えるように言ったではありませんか!貴族の嗜みなのでしょ?ほら、公爵家の貴族の名前を言ってみなさい」


「えっと、まずは、ネルベレーテ公爵。ネルベレーテ公爵にはカザリーン公爵夫人、ガクド小公爵、リリアン嬢がいます。公爵は…えっと灰色で…」


 戸惑った声でヘルミーナの手を扇子で叩く。痛がる彼女にリリアンは何の情も湧かない。


「お父様は黒髪です!それすらわからないあなたは、貴族失格ですね」


 リリアンはあざわらうように言うと教員が入ってくる。


「なんだ、何の騒ぎだ!」


「ただの、貴族の嗜みです。お気になさらないでください」


 ヘルミーナはリリアンのことを睨みつけるが、リリアンはお構い無しの態度をとる。ヘルミーナたちはそそくさとリリアンの視界から消えるとリリアンは席に着く。すると後ろの扉から会いたくないアーサーが入ってくる。

 アーサーはリリアンのことを睨むがリリアンは怯むことがない。彼とは終わった関係なのだから。その後ろから男爵令嬢、ヘリンが顔を見せる。


「皇太子様?」


「ヘリン、お前は俺の横に座れ」


 ヘリンを隠すようにアーサーは座るとリリアンは皇太子と同じ教室だと言うことに嫌気がさしてくる。できるのならば、皇太子とは別の教室にしてほしかったと泣きたくなってくる。


ーーーーーーーーーー


 授業の内容はどことなく前世で習ったことのある授業の内容だったため、必死でノートを取る必要がなかった。昼食は全員が学食に向かうため、公爵家でもらったサンドイッチを誰も来ないだろう場所で食べ続ける。シャキシャキのレタスがとても良い味になっている。


「ーこうやって食べるの、久しぶりー」


 一人で食べていると木の陰から誰かが覗いているのが見える。その姿からしてそれがヘリンだとわかると違和感を感じる。いつもアーサーと一緒の彼女が一人でここに来るとは思えない。サンドイッチをしまうリリアンはヘリンを見つめる。


「あの…」


 声をかけてくるヘリンに違和感しか感じない。リリアンのことはあのパーティーで見ているはず。顔を知らない訳では無い。それにリリアンのことはアーサーから聞いており、危険人物だと知っているはず。


「どけばいいの?わかったわ、違うところで食べるわ」


「待って!!きゃ!!!!」


 ヘリンは木の根に足を引っ掛け、派手に転んでしまう。その様子にリリアンは助けないわけにはいかず、リリアンは手を伸ばす。


「大丈夫?立てる???」


 ヘリンはリリアンの手を取ろうとするとヘリンを探してアーサーが姿を見せる。彼はヘリンが転んでいる姿を見ると顔を真っ赤にして、怒りを露わにする。リリアンからヘリンを離すと、ヘリンの膝から血が出ているところを見てリリアンのことを憎むように見つめてくる。なにやら誤解しているような気がしてリリアンは後方に下がる。


「リリアン!!!貴様、ヘリンをこのような人気ひとけのないところでいじめて楽しいか!!!」


 リリアンの予想通りに誤解をしているアーサーにリリアンはため息が漏れる。しかし悪女と呼ばれてるリリアンからしたら確かにいじめているようにしか見えないだろう。


「皇太子様、誤解です。私はここで昼食を…」


「嘘を申すな!!!!ヘリンに怪我までもさせて…!!貴様には人の心が無いのか!」


「でしたら、少しだけでも人の話を聞くという言葉はないのでしょうか?」


 思わず言い返したリリアンは地雷を踏んだとすぐに理解出来てしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る