第13話 アカデミーへ

 リリアンが上級精霊を呼び出した直後、公爵家の屋敷はひどい振動が起こった。それは地震によるものだと思っていたが、この振動は昔にも感じたことのあるハンスはリリアンの部屋に向かう。

 この振動は昔にリリアンの母親ネイレーンが起こしたものとほとんど一致している。彼女も精霊を呼び出したことによって、このような振動を起こしている。それはほとんどが上級の精霊を呼び出した時のみ。

 精霊使いは太古の昔に消滅していたと思われている。しかしネイレーンの家系は代々精霊使いとして目覚め、その力を使っていたが、そのほとんどが皇帝の道具にされる。そのためネイレーンの高祖母は人前で精霊を呼び出さないように言い伝え、国の奴隷にならないように身を隠し続けていた。


『公爵様、どうかリリアンを…リリアンを捨てないであげて下さいね。この子は、きっと私たち祖先とは違う、精霊師になります』


 ネイレーンはそれだけを言い残してリリアンを置いてハンスの元を去り、見つけた時にはもう生き絶えた状態だった。体には無数の鞭の痕があり、拷問をされたのだと思うと心がかなり痛む。使用人という身分を捨てたため、平民以下として扱われ葬式すら行えず、骨なども今どこにあるのかすらわからないでいる。


「リリアン!!!!!」


 ハンスとガクドが中に入ると見たことのない精霊がリリアンの元にいる。リリアンは顔が青ざめておりハンスが来ること自体、予想していなかった。


「リリアン、これは一体…」


「えっと…これは…!!!」


「使い魔を…呼び出したのか?」


「そ…そうです!!!使い魔を呼び出したのです!!それに成功して」


 ハンスの言葉にリリアンは使い魔だとする。イフリートは不服そうな顔をするが、バレないためにもそう言うことにするしかない。


「そうか…!ならアカデミーに戻れると言うんだね」


 ハンスは少し寂しそうな顔をしているが、リリアンは誤魔化すために笑顔を見せておく。ハンスはリリアンの部屋を出ていくと、どこかへ向かってしまう。残ったガクドはリリアンの元へやってくる。


「リリアン、そいつを使い魔にするなら、名前を考えておかないと行けないぞ」


「名前…」


 リリアンはイフリートと目があうとすぐに名前を決める。


「イフ…イフにします!!!」


 イフは嬉しそうな顔をしてリリアンを見つめる。その姿が子犬のように見えてくる。


「そんじゃ、俺も戻るとするか」


 ガクドも部屋を出ていくとイフはリリアンに口を開く。


主人あるじ!!名前をもらえてこのイフ!嬉しく思います!!!!」


「え、そんなに?」


「はい!!!精霊で名前をもらえることは名誉に近い幸福なのです!!このイフ!!主人様あるじさまのために全力でお手伝いさせていただきます!!!」


 イフはリリアンに飛びつくと子犬のように感じる。リリアンは莉里亜の時の幼い頃に飼っていた子犬のことを思い出す。その犬にもイフとつけており、なぜだか親近感が湧いて愛着も出てくる。


「えっと、イフ。一度姿を消すことはできる?このまま連れて行くと人の目もあるからさ」


「では、ものをしまうように念じれば大丈夫ですよ。そうすれば俺は消えることができます」


「わかった、やってみるね」


 リリアンはしまうように念じる。するとイフの気配が消えて収納された感じがする。


『ーどうです??できましたでしょう???ー』


「キャァァァァァァァ!!!!!!!」


 リリアンは悲鳴を上げると脳内で語りかけるイフも驚いた声が聞こえる。


「びっくりした…。今の何⁈」


『ー念話ですよ。契約者に直接脳内に語りかけることができるものです。主人あるじも心の中で話しかけるようにすれば俺と話すことができます。また、俺を呼び出したければ俺の名前を呼べばいつでも姿を見せますのでー』


「わ、わかった。ありがとう…」


 リリアンは心臓が大きく鳴っているのを抑えて部屋の片付けを始める。メリーもやってきて部屋の掃除の手伝いをしてくれる。そしてレージュがやって来てリリアンは宴会場に呼ばれる。

 どうやらハンスは、リリアンのためにパーティーを開いてくれたらしい。リリアンはパーティーを楽しみ、少しだけベランダで休んで星を眺めていると兄であるガクドがやってくる。


「パーティー、楽しんでいるか?」


「もちろんです、こんなに楽しいパーティーは初めてです」


 リリアンは笑顔を見せるとガクドは優しい目を向けてくる。するとガクドはリリアンの耳にピアスをつける。何をつけられたのかわからないリリアンはガクドの顔を見つめる。


「お兄ちゃん、今何をつけたの?」


「俺からのお土産だ。大切にしろよ?愛しい妹よ」


 ガクドはリリアンの手の甲にキスをするとリリアンは目を丸くさせる。ガクドはそこから立ち去るとキザな行動をとったガクドにリリアンは顔が赤くなるのを感じる。


「きゅ、急にどうしたんだろう…⁈」


 後で恥ずかしくなったガクドはしばらくの間、頬の緩みが止まらなかったらしい。その様子を影から見ていたハンスはしばらくの間ガクドを見張っているとメリーは話していた。


ーーーーーーー


 数日後、リリアンがアカデミーに向かうため馬車に荷物をまとめて出発の準備をする。アカデミーに入ると冬季に入るまで自宅へ帰ることができない。そして全ての人が平等に扱われるため自室以外では貴族だと言うことを忘れなければならない。

 リリアンは学生服に着替えてアカデミーへ向かう馬車まで歩いて行く。


「もう出発か…パパ寂しいよ〜〜〜!!!」


「アカデミー《向こう》に着き落ち着いたらお手紙を出しますので。心配しないでください」


「学園で何か酷いことされたらいつでも連絡して来い。飛んでいくからな」


「そんなに心配しないでください。行ってきます、お兄ちゃん」


 リリアンとガクドが近いとハンスは睨むように二人を見つめる。その目に二人は気まずくなり、少しだけ離れる。

 リリアンはハンスに近づきやったことないが行ってきますのキスを頬にする。固まるハンスを置いてリリアンは馬車に乗り込む。メリーとウルファも乗せて馬車は走り出す。リリアンは窓から屋敷を見つめて屋敷にしばしの別れを伝える。

 屋敷の窓からは義母が顔を出しているがすぐに離れてしまう。彼女は邪魔者がいなくなったと思っているかもしれないが、家族に何もしないことを望む。

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