第8話 専属騎士
その日の夕食は少しだけ憂鬱だった。
「はい、リリアン。あーん」
「公…お父様、これは一体」
「お前は怪我をしたんだ!全部食べるまでパパがあーんしてあげる!!」
「いや、手を怪我したんじゃないんだからさ…自分で食べさせてやれよ親父」
「ダメだ!!油断をするともっと酷いことになるんだ!!!」
リリアンは主治医から安静が必要だと言われたら、ハンスはこうなってしまった。ガクドは嫌なものを見るかのように作法すら忘れた食べ方をしている。こんなのはどう考えても恥ずかしく思う。いくら怪我をしているからといって、それより怪我をしているのは顔だけ。手足は怪我すらしていない。
「本当に大丈夫ですから…」
「う〜ん、なら最後の一口だけな?」
リリアンは最後に一口を食べて解放される。ここまで娘思いな人だとは思っていなかったリリアンはため息まじりの息を吐く。このままでは赤ちゃんのような接し方をされてしまう。
ーーーーーーーー
食事を終えて、翌朝。メリーの家族はネルベレーテ公爵が管理をしている孤児院に引き取られることとなった。リリアンを傷つけた借金取り一行は帝国が追いかけていたスパイダールス団という、違法な軍団だったらしい。そしてメリーの父親は育児放棄と貴族を侮辱した罪で絞首刑に処された。
リリアンのおかげで違法な軍団の一部を捕えることができたことは帝国中に知れ渡り、リリアンが心変わりしたことも噂として広まりを見せた。その話はリリアン自身にも届いている。
「お嬢様!!お嬢様の噂が帝国中に知れ渡っていますよ!!!」
「そうみたいだね、でもここまでなるとは思わなかったわ…」
リリアンは山積みになったお茶会の招待の手紙を見つめてため息漏れる。心が変わったリリアンと仲良くなろうとしている、親しくなろうとしているのが目に見えている。他には他の男たちからの求婚の手紙が届いていたりするが、ハンスは全力でそれを阻止しているらしい。
リリアンはため息が漏れると部屋をノックする音が聞こえる。顔を見せてくる優しくなったガクドの姿。リリアンは兄とも和解をして、今では誰でもが羨む仲が良い兄妹となっている。
「お兄様がいらっしゃるなんて、今お茶をご用意いたします」
「いや、いいよ。今日はお前が言っていた専属騎士について話に来たんだ」
「お父様、もうお決めになったんですか?」
「選別はしたけど、最後にお前に決めてほしいらしい。だから呼びに来たんだ」
「そうなのですか、これはありがとうございます」
リリアンの今回のことがあってハンスは、リリアンを命に変えてでも守る、専属騎士を選別してもらっていた。騎士団の中で決めても良かったが、彼らはあくまで公爵を守る騎士団。とてもじゃないがその中から選ぶのは難しい。
そしてリリアンは以前捕らえたスパイダールス団を捕らえたことに皇帝は大いに喜び、リリアンに褒美を聞いたところ、皇宮騎士団から一人、専属騎士をもらうことを褒美としてもらうことにした。
今日はその騎士団でハンスが選んだ者が屋敷に来てもらっている。リリアンはガクドの手を取り、その騎士団に会いに向かう。
リリアンが到着すると彼らはリリアンに頭を下げる。数多くの騎士にリリアンは迷ってしまうが、一人の赤い髪の青年に目が止まる。彼から出る強いオーラはリリアンでもわかる。
「あなた、名前は?」
「ウルファ…と申します。公女様」
彼の瞳は左右で色が違う。オッドアイと言われる瞳。顔も整っているが少し痩せすぎているような気がする。皇宮騎士団でも逸れ者は存在する。そのような逸れ者はどのような功績を出したとしても上に上がることはできない。
だが、ハンスは違う。彼は見た目よりも実力を重視する。そのため彼もここにくることができたのだろう。
「そう…お父様!私はこのウルファを指名します!」
そのことに周りの騎士団はどよめきの声が漏れる。彼はきっと出世する。というか出世してもらわないと困る。彼は莉里亜で生み出した騎士王なのから。
ーーーーーーーーーー
ハンスは今回呼んだ騎士から数人選び、リリアンの護衛騎士に任命する。専属騎士になったウルファは皇宮騎士団の鎧を外して公爵の騎士団の制服に着替えてもらう。
鎧では動きが悪くなってしまうため、公爵の騎士団は軽装の服となっている。公爵の家紋にある鷹をイメージして作られた制服。ウルファにも似合うと思うリリアンは少し楽しみになっている。
「着替え終わりました、公女様」
着替えてきた彼の姿はこの世のものとは思えない超絶美形のイケメンがやってきたことに感動を覚える。服装が違うため違和感があるのか少しだけ動いてしまうウルファだが、イケメンすぎてそれだけでも光り輝いている。
「うん!よく似合ってるよ」
「…///////」
照れている彼の表情にリリアンは思わず拝んでしまう。リリアンの意味深な動きにウルファはタジタジとなってしまう。
リリアンは嬉しすぎて涙が出そうになるがそれをグッと堪えて、彼の剣にリボンを贈る。
「これからよろしくね、ウルファ」
「はい、公女様」
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