第7話 ネルベレーテの騎士団

 リリアンは両手を広げて守る体勢を取る。借金取りの隊長はリリアンに向けてナイフを振り、リリアンの顔に傷をつくる。


「お嬢様!!!!」


 しかし痛がることもせずに彼らに睨みるつけるリリアンの瞳は戦士そのもの。死んだって彼女らを守ると決めている。メリーには返せないほどの恩があるのだから。

 すると家の外から馬の鳴き声が聞こえてくる。その音に驚いた借金取りたちは悲鳴をあげる。


「やばい!!!ネルベレーテ騎士団だ!!!!」


「うわぁ!!!!!!!」


 叫び声に家の中にいた自分たちにも聞こえてくる。彼らは反撃しようと外に出るが呆気なく捕縛される。ついでのようにメリーの父親も捕縛される。


「我らが主人の娘、リリアン様を痛めつけた挙句、貴族を侮辱した罪でお前らを逮捕する!!!」


 ネルベレーテ騎士団団長はそう言葉を述べると、彼らを護送用の牢獄馬車に連行して行く。家の中に入ってくる新緑色の髪をした男を見てリリアンは誰なのかがわかる。


「ネルベレーテ騎士団団長、ガレット卿!!!」


「公女様!!ご無事d…!!!」


 ガレットは顔を赤くしてリリアンから目線を逸らすと、ローブをリリアンに渡す。今のリリアンの格好はほとんど下着姿。そのことを思い出してリリアンは慌ててローブを身につける。


「お嬢様!!!申し訳ございません…!!!私たちのせいで」


 メリーの瞳から雨のように大粒の涙がこぼれていく。本来ならメリーがリリアンを守らなければいけないと言うのに、自分は何も出来なかったことに後悔をしている。


「いいのよ、メリーも怪我してない?」


「私はお嬢様に守られていただけで、何も…!!!」


 メリーの家族を守れたことにリリアンはホッとする。鎖を外してもらったヘルムはメリーに抱きつく。


「えっと、ガレット卿、メリーの家族は一時的に保護してもらってもいいかしら?この子達きっとお腹が空いているから。それと、奥にいる子供たちを、埋葬してあげてほしいの」


 ガレットは奥を見ると正気を感じられない二人の子供に怒りが露わになっている。リリアンの目に涙が見えて昔のリリアンとは違うと感じる。


「わかりました」


「それと、聞きたいんだけど、どうしてここに私がいるとわかったの?それに騎士団は今遠征中だと聞いてますが…」


「公爵様が影武者を使って、公女様を追いかけておりまして。そしてその影武者から公女様が襲われていると連絡が入りましたので…急遽、こちらに向かった所存です」


 リリアンは影武者のことすら知らないが、その者のおかげで命拾いしたことに嬉しく思う。後始末のことをガレット卿に任せてリリアンは屋敷に戻る。馬車に入った途端、体が震えだし、今になって恐怖が押し寄せてきたのだと感じる。


「お嬢様…大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫じゃ…!!無い!!!!!」


 リリアンは恐怖のあまりに大声になってしまう。リリアンは自分専用の専属騎士を用意しようと考える。


ーーーーーーーー


 屋敷に到着したのは真っ暗な真夜中。屋敷の前にはハンスと兄であるガクドが待ち構えている。リリアンはとてもじゃないが馬車から降りることができない。馬車の中で震えているとハンス自身が勝手に扉を開ける。


「ひっ!!!!」


「リリアン、降りてきなさい」


「は、はい…公爵様…」


 逃げることができないリリアンは馬車から降りるとハンスによってお姫様抱っこをされて連れていかれる。


「ボーマン、夕食は少し後にする」


「かしこまりました、公爵様」


 部屋に連れていかれたリリアンはソファーに座らされる。主治医が来るまで大人しくするように言われる。お叱りは怪我を見てからなのだろう。メリーは慌ててリリアンとハンスを追いかけてやってくる。


「公爵様!!!!処分はこの私に!!!!!」


 メリーは見事な土下座をしてハンスに許しをこう。今回の原因は自分にあると伝えるがハンスはメリーを攻めることをしない。メリーを部屋の外に追い出し、主治医が到着を待つ。


「リリアン」


「はい、申し訳ございません…。勝手な行動して」


「そんなことで起こっていない…」


 リリアンの顔を見るハンスの顔には涙が浮かんでいた。その目は父親が心配した目と一緒。


「お父さんは、ひどく心配したんだ!!!お前が、男たちに襲われているときいて、いてもたってもいられなくなった!!!!お前が死んだらと思うと、お父さんは…!!!!」


 リリアンを抱きしめるハンスに彼女は理解が追いつかない。似てもいない娘をここまで心配してくれるハンス。もしかしたら、リリアンは彼のことを誤解しているのではと感じる。ただ、ハンスは愛情表現が苦手なのかもしれない。


「ごめんなさい、だけど…心配してくれて、ありがとう」


 リリアンが帰ってきたことに公爵夫人は怒りで使用人に当たる。


「まさか!!!あいつらがあんなに弱いなんて思わなかった!!!!」


「夫人、落ち着いてください」


「うるさい!!!!」


 夫人はネージュに八つ当たりをする。ネージュは叩かれた頬を抑えて無心で反応をする。


「今回は失敗に終わりましたが、次こそは…」


「そうよね…まだ次があるわ…!!あいつは、リリアンは…生かしておいては行けない!!!の娘なんですもの!!!!」


 公爵夫人は真っ赤な薔薇を首のように見立てて根本から切断をする。脳裏にはリリアンの母親の姿が浮かぶ。彼女が存在するかぎり、あの血を根絶やしにすることはできない。


「次こそは…成功しなければ!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る