第6話 メリーの実家

 馬車を走らせてしばらく経つとスラム街のような場所に到着する。貴族は豪華な家に住むことはできるが、市民は汚れたこのような地域で住んでいる。その影響で多くの人々は疫病にかかり、苦しむ人々が多い。


「メリー、案内して」


「はい!!」


 メリーは先導してリリアンを連れて自宅に向かう。空気も悪いその空間にリリアンは喉が痛くなる。リリアンの今の状況がかなり裕福だとわかる。このような人たちが、もっと安全で、空気のいい場所に住むことができたらいいのにとリリアンは思ってしまう。


「ここです!!ここが私の家です!」


 メリーが指を指す家はもう家と言えるのかわからない建物がある。その家から出てくるのは頬が赤くなった幼い少女。メリーと同じ髪色をしているためすぐにメリーの妹だとわかる。


「ハンナ!!!」


「?おねーちゃん?」


「そうよ!!あぁ!叩かれたのね…」


 メリーの顔を見た妹のハンナは辛さのあまりに泣き出してしまう。メリーも同じように涙がこぼれていく。


「ごめんね…!!お姉ちゃんがもっと早く来てあげれれば…!!!!」


 リリアンは安堵した表情をするとハンナと目が合い、彼女と目線を合わせる。


「初めまして、私はリリアンです。ネルベレーテ公爵の娘です」


「初めまして…ハンナです」


「よろしくね、お父さんは中にいるのかな?」


 ハンナは首を横に振るとメリーに助けを求めるように声を荒げる。


「おねーちゃん!!!助けて!今度はお兄ちゃんが連れていかれちゃう!!!」


「ヘルムが⁈」


 メリーとリリアンは中に入ると鎖で繋がれた黒髪の男の子が座り込んでいる。目には光が灯っておらず、全てに絶望しているようにも感じる。


「ヘルム…?わかる?お姉ちゃんよ」


 ヘルムはメリーを見るとそっと目に光が灯る。感情が爆発して大粒の涙がこぼれる。


「姉ちゃん!!!」


 彼の目には希望が見える。だが、父親が帰ってこればこの希望もすぐに絶望に変わるだろう。ヘルムの瞳にはそれが語られる。

 彼はそっとメリーに伝える。借金が増えて、前より額が高くなっていること、父親がヘルムを奴隷剣闘士として売り出そうとしていること。それに抵抗してハンナは頬を叩かれ、ヘルムは逃げられないように鎖を付けられたこと。一番下のカリンとデルは殺されたことを話す。

 そのことを聞いたメリーは怒りで奥歯を噛み締める。父親はいつまで自分たちを苦しめればいいのだろうかと。そのことにはリリアンも怒りを見せる。実の子供にそこまでできるのはそんなの人ではない。動物でも自分の家族は命懸けで守るのだから。


「メリー、家族を連れて逃げよう…。ここにいては行けない」


 リリアンは早くのこの場から去ることを考える。しかしヘルムの鎖は二人の力では外すことすらできない。だからと言ってヘルムだけを置いて逃げることすらできない。


「姉ちゃん、僕のことはいいから早くハンナを連れて逃げてくれ!」


「そんなの絶対にできない!!!」


「どこに逃げるって言うんだよ!!!」


 リリアンは振り向くと酒に酔った太った男が扉の前に立ち塞がっている。その後ろにはガラの悪い大男たちがいる。リリアンはメリーの家族を守るように立ち塞がる。


「お嬢様!!」


「この子達には何もさせないわ!!!」


「これはこれは、誰かと思えばお貴族様かよ。悪いがこれは俺たちの問題でね…引っ込んでろ…!!!」


 威圧のある目力にリリアンは呼吸すら忘れそうな恐怖を感じる。しかしこのまま引き下がるわけにはいかない。メリーもその家族も、ネルベレーテの家族なのだから。


「引かないわ!あなたこそ、私が誰なのか、知らないとは言わせないわ!!」


「ネルベレーテ公爵の娘、リリアン・ネルベレーテ様だろ?だけど、この地区には国の法律が効かないんだよ!!!あぁ、奥に鎖で繋げている奴が今日売る奴です」


 大男たちはヘルムに近づくがリリアンはそれを阻止する。ハンナはリリアンのことを見つめるが、リリアンは微笑んで安心感を向ける。


「大丈夫よ、私が守ってあげるから」


「申し訳ありませんが、そこをどいてもらおうか????」


「お金ならあるわ!!外にある袋の中に大金が入っているわ!!!」


 外にいる一人が袋を開けると中には金貨が大量に入っているが大口を開けて笑い出す。彼らのその態度にリリアンは違和感を感じる。


「お貴族さんよ〜?こんなんで借金を返済できると言うのか????残念だけど、この袋の5倍無いと全額支払えないぜ?」


「なんですって!!!!」


「そんな…!!!また借金が増えて…!!!」


 メリーは絶望したような表情をする。リリアンはどうすればいいのかと頭を抱えそうになる。このままではメリーの家族が崩壊する。いや、もう崩壊してる。

 空気の息苦しさより、彼らから出るむせかえるような臭いにリリアンは呼吸がしづらい。今のリリアンには何も能力は無い。魔法すら扱えないリリアンでは、彼らを追い払う力すら無い。


「まぁ、お貴族様が体で払うっているのなら、考えてやってもいいぞ?」


 一人がリリアンにナイフを突きつけてリリアンのドレスを破く。ドレスの下に着ているコルセットが見えると男たちは感激で声を上げる。

 舐め上げるような瞳にリリアンは遅れを取らない。恥じらいより彼女たちの方の安全を優先にしたい。


「その綺麗な顔に傷がついてもいいんだな?」


「お好きにしなさい、だけど!私が死んでも、彼女たちは渡さない!!!!」お前の好きにさせるものか!!!!」

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