第5話 新しい使用人

 本館にあるリリアンの部屋は綺麗に掃除をされており、本当に自分の部屋なのかと疑ってしまうものとなっている。


「お嬢様、おかえりなさいませ!!」


「メリー!」


 リリアンはメリーに近づくと先ほど買った髪留めを付けてくれている。


「それ、付けてくれたんだね」


「もちろんです!私はお嬢様の専属使用人ですから!」


 嬉しそうにしているメリーに罪悪感を持ってしまう。リリアンの評価を上げるために使っているなんて、口が裂けても言えない。


「それではお嬢様、自分はこれで」


「ありがとう、ボーマンさん」


 ボーマンは頭を下げて部屋から出ていく。メリーには出てもらい、リリアンは紙を取り出してこれから何が起こるのかを書き出していく。


「う〜んと、確かパーティーの後はリリアンはあれやこれやと彼女をいじめたんだよね〜。ほとんどの人がお茶会に呼ばないのに、誰が呼んだんだよね?こういうところ抜けてるよね、私」


 まず最初に起こるのはリリアンがヘリンを階段から突き落とす時に魔塔の主人、ヒリリトンに助けられる。まぁ、偶然居合わせただけだが、どうして彼が令嬢たちのお茶会に居たのか。候補としては二つぐらいある。転移魔法でたまたまそこにいた、もう一つは誰かの監視、護衛。この二つが挙げられる。本当に護衛としたら誰を護衛していたかだ。監視だと思えば、それはもちろんリリアンの可能性が高い。

 そうなると誰に依頼されていたのか。だが、それが本当に起こるわけがない。脳内で作っていた物語なのだから、全てが繋がっているわけではない。記憶が無いリリアンはそんなことをするはずもない。

 そうなるとこのようなことすら無いかもしれない。だが、書いていて損はない。だからと言っても、解決方法はないけど。

 リリアンは思わず苦笑いになると、扉をノックする音が聞こえる。リリアンは許可すると二人の使用人が中に入ってくる。一人無愛想な見た目の黒っぽい髪色のメイドと緑色の髪の大人しそうなメイドがやってくる。


「初めまして、お嬢様。本日からお嬢様の身の回りのお世話をさせていただきます、レージュと申します」


「ネーシャです。よろしくお願いします」


 黒っぽい髪色のメイドは挨拶をすると続けて緑色の髪のメイドが挨拶をする。公爵が選んだだけ良さそうな見た目だが一つだけ気になってしまう。緑色の髪メイド、彼女は公爵夫人が連れてきていたメイドに似ている。ただ似ているだけかもしれないが、少し警戒してしまう。


「どうかなさいましたでしょうか?」


「い、いいえ!これからよろしくお願いします」


 にっこり笑顔で答えるリリアンはやはりネーシャのことを気にしてしまう。なぜ公爵夫人のメイドがリリアンのメイドになることを許したのだろうか。


ーーーーーーーー


 新しくリリアンのメイドに就いたレージュとネーシャは公爵が選んだだけある。あらゆる作業が早い。お茶が飲みたくなったら呼ぶ前に用意をしてきてくれる。逆に怖くも感じるが、二人からは嫌な感じが少しもしない。

 メリーはいつものようにリリアンの髪を束ねてくれる。メリーには妹や弟がたくさんいるらしい。だが父親がギャンブル癖がありかなりの借金があるという。ほとんどの給料をその借金に費やしているが減るどころが増えるばかり。

 挙げ句の果てにメリーは借金取りによってこの公爵家に売られたらしい。今家族がどうなっているのかがわからず、弟や妹が心配だという。


「メリーは、大変な思いしてるんだね」


「そんなことありません。ここの生活も、とても好きですので。ですが、弟たちにも、お腹いっぱいご飯を食べさせてあげたいって、思うんですよね…」


「メリー、おうちはわかるの?」


「はい!なんとか覚えています」


「なら、今度そこへ行きましょう!!借金は今いくらぐらいなの?」


「えっと、私の…二年分の給料です…」


「かなりあるわね…」


 リリアンは今持っているお小遣いを全て使っても足らない。だがメリーには感謝をしてもしきれない恩がある。お金が無いなら、作ればいい。

 髪のセットが終わるとリリアンはドレスとアクセサリーを見る。豪華で今のリリアンに合わないドレスや使っていないアクセサリーを取り出してレージュを呼び出す。


「お呼びですか?お嬢様」


「今すぐに質屋に行ってここにある宝石全て売ってきて!ドレスは処分していいから!!」


「えぇ!!!…か、かしこまりました」


 レージュは早急に宝石を売りに出かける。ネーシャはそれを見かけてそっと彼女の元を離れる。隠れた場所に移動するとポケットにしまっていた魔法石を取り出し、公爵夫人に連絡をする。


「夫人、お嬢様が何かをしております。ドレスについた宝石や宝石がついたアクセサリーを売りました」


『そのまま監視しなさい。いいわね?』


「承知しました」


 魔法石を切るとネーシャは何事もなかったように戻ってくる。しばらくするとレージュは大金を持って戻ってくる。これだけあればメリーの借金も返済できるだろう。


「じゃあ、メリー家族の元まで行くよ!」


「えっ!!!お嬢様⁈」


 大金を馬車に乗せてリリアンはメリーの家まで向かう。その様子をハンスは部屋から見つめる。何をするかわからないリリアンにハンスはガクドを呼ぶ。

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