第4話 処分取り消し

 自室に戻ったリリアンは一人で部屋に籠る。急ぐようにソファーに座り心臓を落ち着かせる。


「あ、焦った!!!あいつのあの目はなに⁈人を殺すの⁈人を殺すような目してた!!!てかなんであいつがここに居るの⁈一度もリリアンの様子を見にきたことなかったじゃん!!!!」


 二人は顔を合わせればいつも喧嘩になっていた。そのため二人は絶対に出会わないようにされていたが、彼からこの屋敷にやってくるとは予想していなかった。


「もう…心臓飛び出るかと思ったじゃない…」


 ソファーに寝転がるとリリアンはホッと一息つく。本当に、リリアンはこの屋敷で居場所がなかったと感じる。顔を合わせれば喧嘩をしてしまう兄。娘に無関心の父親。そして顔を見ただけで暴言を吐いてくる公爵夫人。それも仕方がないことかもしれない、彼女からしたら、リリアンはいらない娘。あんな堅物そうな父親にどうやって行為を行ったのかがよく分からない。

 公爵と公爵夫人は決められた結婚。どちらもお互いいなくてもいい存在。そうなると夫人は公爵が浮気をしていても気にしなかっただろう。

 リリアンは体を小さくして思う。銀髪の母と黒髪の公爵、それなのに金髪の娘が生まれた。きっと公爵からは別の男の子供を身籠ったと思うはず。それなのに、幼いリリアンを引き取ったのはなぜだろうか。似てもいない娘を孤児院に送ることもできたはずなのに。


「どうしてなんだろう…。でもそこの設定が怠っていたの、私なんですけどね…。あはは…」


 リリアンは苦笑いになると部屋をノックする音が聞こえる。リリアンは入ることを許すと入ってきたのは公爵の専属執事、執事長のボーマンが入ってくる。


「これはボーマンさん。どうされたのですか?」


「お嬢様、公爵様がお呼びです」


「公爵様が?わかりました…」


 リリアンは少し嫌そうな顔をするが、このまま抵抗しても、どうにかなる訳では無い。大人しくボーマンに付いていくことにする。公爵に、呼ばれること自体無いのにリリアンなんかを呼ぶのが不思議で仕方がない。本館にやってくること自体夢なのかと考えてしまう。

 公爵の執務室前までやってくると酷い緊張感で胸が締め付けられる。なにか問題を起こしているのだったら、土下座をして謝罪をしなければならない。


「公爵様、お嬢様をお連れしました」


『入れ』


 低い声が中から聞こえ、ボーマンはリリアンを中に入れる。リリアンは恐る恐る中に入るとガクドと公爵、ハンスがソファーに座って待ち構えている。

 リリアンは心の中で終わったと絶望をする。だがその思いがバレないようにしなければならない。リリアンは反省としてそのまま床に座る。


「リリアン、どこに座っている。椅子に座りなさい」


 ハンスはリリアンをソファーに座るように言う。ハンスの横にガクドも座っており、対面状に空いている場所にリリアンを座らせようとしている。叱るために呼び出したのではと思うが、このままでは話が進まないと思い、仕方がなく、ソファーに腰掛ける。


「あの、どのようなご用件でしょうか、公爵様」


「お前を呼んだのは他でもない…お前の謹慎を取り消そうと思う」


「えっ…」


「お前は記憶がない分、理解ができないだろうが…お前は前にアカデミーで問題を起こした挙句、公爵夫人に怪我をさせたため、離れで暮らしてもらっていたんだ。だが、今のお前は暴れるような人ではない。そのため本館に戻ってもらう」


 叱られるわけではなかったが、このまま本館に戻ったら、リリアンとしてやりたいことが上手く出来ないし、顔を合わせたくない人も居る。


「あの、お言葉なのですが、私は皇太子と婚約しておりますが、元々悪さをしておりました。しかも公爵夫人に怪我をさせるほどの女です。本屋敷に戻るなんてできません。今まで通り、離れにある屋敷で一人で静かに暮らしますので…」


「それを受け付けることはできない。もう荷物も移動させてるからな」


 ハンスはニヤッと笑うとリリアンの静かな暮らしが離れていく。だが、それと同時にリリアンはある不安が過ぎる。公爵夫人はこのことを許すのかと。


「あの、本屋敷に戻るのはいいのですが、公爵夫人は赦しているのでしょうか?」


「彼女のことは気にするな。お前は俺が守る」


 ハンスの言葉になぜだか違和感を感じる。なぜ今になってリリアンを守ろうとしてくるのか。そして、何が原因で公爵夫人を怪我をさせたのだろうか。わからないことが、また一つ増えてしまった。


「さて、リリアンが戻すことにしたため、お前の使用人も考えなければならない」


「でしたら、メリーを私専属のメイドにしてください。彼女は私のためになんでもてくれたので」


「了解した、他のメイドはこちらから選んでも構わないな」


「はい、構いません」


「リリアン、もしも変えたければいつでも父上に伝えろ。もしくは俺に言え、わかったな?」


「は、はい。小公爵様」


 リリアンは部屋を出るとボーマンについて自室に戻る。残ったハンスとガクドはお互いの顔を見て安堵する。


「ガクド、お前の言う通りだったな」


「はい父上、リリアンは人が変わったかのように大人しいです。もう怖いぐらい」


「いや変わりすぎだろ⁈あぁ…もうパパ、ダメだ…」


「最初っからその態度でいればリリアンも怖がらないのに…」


「だって〜リリアンちゃん可愛いんだもん〜〜〜〜」


 ハンスは悲しそうにするとガクドは大きくため息が出る。ハンスはリリアンを引き取ったのはただ単に天使のように可愛いと言うだけ。初めて会った時に天使が舞い降りたような愛らしい見た目で心を奪われていた。しかしあまりにも凝視するためにリリアンは恐れて泣き出してしまっていた。

 リリアンにとってそれがトラウマになってしまい、リリアンの顔を見ることさえできない。ガクドはこの怖い見た目さえ無くせばリリアンに怖がられることないのにと思ってします。


「俺のリリアン!!!!!アイラブユー♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!」


「帰りてぇ…」

 

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