第3話 パーティーのドレス

 ドレスを持ってきた店員たちはたくさんの数を並べていく。パッとしない見た目だが、美しい見た目のリリアンにとって、これぐらいがちょうどいい。


「ねぇ、メリー。私に合いそうなドレスを選んでくれるかしら?」


「あ、はい!!」


 メリーはドレスを見つめている目はとても輝いているように見える。使用人とはいえ、ドレスを着る機会なんてあるはずがない。


「どれがいいかしら…?」


「お、お嬢様…こちらの水色のドレスはいかかでしょうか?」


「うん!!それがいいわ。オーナーさん、こちらのドレスを仕立ててください。それと軽く宝石が付いたドレスも何着か仕立ててください」


「かしこまりました。宝石はどういたしましょう?」


「そちらは任せます。それと、この水色のドレスはパーティー用に仕立ててください」


「かしこまりました。では出来上がり次第、郵送という形でよろしいでしょうか?」


「えぇ、お願いします。それと、彼女に似合う髪飾りなどはありますか?」


「ふぇ⁈」


 メリーは驚きリリアンを見つめるが、ファーメルは営業スマイルで探しに向かう。残されたリリアンはソファーに座りお茶を嗜む。


「お嬢様!!どうしてですか⁈」


「私は、みんながよく知っている悪女、それなのに、メリーは私についてきてくれる。そのお礼よ。まだドレスを買ってあげれるほどお金は無いけど、必ず買ってあげるね」


「お嬢様…」


 感動しているメリーにリリアンは笑顔を向ける。これはまだ始まりに過ぎない。しかしこれは囮に過ぎない。多くの使用人はリリアンのことを警戒している。いくら記憶喪失になったところで信用はできない。

 だが、いまメリーにプレゼントを買い与えるほど優しい令嬢だと知れ渡れば、少しでもリリアンについてくれる使用人が増えるだろう。メリーには悪いが、鼠取りになってもらう。


「お待たせいたしました。これらなんていかかでしょうか?」


 持ってきたのは可愛らしいリボンの形をした髪飾り。全てに高級な宝石が付いている。リリアンはその全てを購入をする。ドレスのお金を払い、ブディックを出る。馬車に乗って屋敷に帰るがメリーはなぜだか申し訳なさそうにする。


「どうしたの、メリー」


「わ、私のようなものが、こんなに高価な物をもらってよろしいのでしょうか?」


「何を言ってるの⁈そんなの当たり前じゃない!メリーにはかなり迷惑をかけたのに、ずっと私に付いてきてくれている。そのお礼だけど、まだまだ足りないわ。そのぐらいメリーには感謝してるの。ありがたく受け取って頂戴。もしなんだったら、それをお金にしてもいいよ」


「そんなのできません!!!ではありがたく頂戴いたします!!」


 メリーは少しだけ嬉しそうにその髪飾りを見つめる。屋敷に戻ると使用人が慌ただしく動いていた。滅多に仕事をしていなかったリリアンが住む屋敷の使用人たちは慌てて掃除をしているような行動。


「何かあったのかしら?」


 廊下を歩いていると背後から気配を感じて振り向くと漆黒の黒髪の苛立ちながら立っている。リリアンはすぐに彼が公爵の息子、ガクドだとわかる。リリアンはすぐに頭を下げて挨拶をする。


「これは、小公爵様。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません」


 リリアンのその態度にガクドは驚きを隠せないでいる。リリアンは選択を間違えたのかと思い、恐る恐る顔を見る。


「お前、本当にリリアンなのか???」


「はい、左様でございます」


「俺の知っているリリアンは、こんなに礼儀正しくないぞ!!」


 失礼な!と声が出そうだったが、リリアンはグッと堪えて微笑むように笑顔を作る。ガクトはリリアンに『お兄様』と呼ばれることをひどく嫌っていた。そのせいで彼に何度も頬を叩かれた。レディーの顔を殴れるこの男の神経はどうなっているのだろうかと酷く思う。


「私はいずれこの屋敷から出て行きます。それまで、どうかご了承願います」


「出ていく?お前、ここを出ていく気か!!」


「もちろんです、私は公爵様と血は繋がっておりますが、使用人の娘です。今は皇太子様と婚約しているため、ここで住まわせてもらっておりますが、皇太子様とも婚約破棄もいずれしようと思います」


「お前…」


「それまではこの離れの屋敷で静かに暮らします。それでは失礼いたします」


「待て!!今どこに行っていたんだ!!」


「ブディックへ。前の私が注文していたドレスが、パーティーまで間に合わないそうなので、別の物を注文してきました」


「お前、あんなに駄々こねて注文したドレスが、要らないってことか…」


「ドレスが間に合わないだけです。どうせ、着たところでバカにされるだけなので」


 リリアンは悲しそうな顔をして自室に戻る。一人残されたガクドはリリアンの態度がどうにも理解できずに立ち尽くしている。昔のリリアンならプライドを気にして似合う似合わない構わず、豪華な物を求めていた。そのプライドは、記憶喪失になった途端にそこまで心が変わるのだろうか。

 ガクドは理解できずに静かに離れの屋敷から立ち去る。このことを公爵本人に伝えなければならない。彼女の謹慎処分の解除を。

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