ブドウブドウ

藤泉都理

ブドウブドウ




「ここ、だな」


 吸血鬼は地図を広げて、酒屋の女将が教えてくれた場所に間違いはないと再確認して、大きく息を吸って、そして、吐き出すと同時に、弟子にしてくださいと大声を出したのであった。




 ブドウブドウを極めし者、即ち、酒に酔う事ができるなりけり。

 同種族や異種族が酒を飲んでは羽目を外して大騒ぎする中、どれだけ度数の強い酒を飲んでも水にしか感じられず、酔えない。まったくこれっぽっちも。


 吸血鬼はツーっと静かに涙を流した。

 流して、訴えた。

 ブドウブドウを極めしブドウ家に。


「しかも、酒に酔えないばかりか、吸血した生物に牙を立てた瞬間、張り手を喰らわせられるのです。痛いんじゃこのバカタレ、と」

「ほお」

「通常、吸血鬼が吸血する時、吸血対象が痛みを感じないようにフェロモンが出るのに、私は、そのフェロモンが出ないんです。なので、生まれてこの方、ずっとトマトジュースだけ飲んで生き永らえて来たのです。ああ私はもうこのままトマトジュース人生だと絶望していたのですが」


 グワリ。

 吸血鬼は目をかっぴらいた。


「あなたの。ブドウブドウの噂を耳にしたのです!ブドウブドウを極めた者は、酒に酔う事ができると!」

「まあ、酒に酔う事はできるけど別にその為のブドウブドウじゃないからね。ブドウブドウの本質は、思いやりの精神だからね。だから、ここを訪ねて来た者には須らく教えるのは教えるけど。厳しい修行が待っているよ」

「覚悟の上です」

「よし。では、早速始めよう。とりあえず、一回技を喰らってみよっか?」

「はい?」












「………あの。どこが思いやりの精神なんですか?いつまでも痛みが絡みついているみたいに引かないんですけど」

「まあ。ブドウだし痛みはつきものだよ。ほい。わし特製痛み止めタブレット」

「ありがとうございます」

「水なしで飲めるし、噛み砕いて食べても甘いブドウ味だよ」

「思いやりをありがとうございます」


 吸血鬼は受け取った一粒のタブレットを嚙み砕いた。

 瞬間。

 座り込んでいた吸血鬼は直立不動になったかと思えば、ブドウ家の肩を強く掴んで、顔をこれでもかと近づけて、尋ねた。






「………ん~~~。また、ブドウ家の弟子が減って、ブドウ家の弟子が増えちゃった、か」


 ブドウ家は自分が世話をしているブドウ畑ではしゃぎ回る吸血鬼を見て、まあいいかと笑ったのであった。


「しかし、あやつ、吸血はもういいのかね?」












(2023.8.17)



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ブドウブドウ 藤泉都理 @fujitori

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